生活保護を受給する70歳以上主婦について主婦の休業損害認められた事例

当方:バイク
相手:普通自動車
態様:交差点において依頼者バイクが直進走行中、右折しようとした相手方自動車に衝突された事故

  • 3,964,689円
  • 右腓骨開放骨折、橈骨遠位骨折、右脛骨高原骨折、右下腿筋拘縮症
  • 併合12級

依頼者が交差点をバイクで直進しようとしていたところ、相手方自動車がバイクの存在に気付かないまま右折したことで衝突したという事故になります。依頼者は救急搬送され、入院半年を要する大きな事故となりました。

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相談内容

1年半以上にわたる通院を終え後遺障害申請を行った結果、依頼者には併合12級の後遺障害等級が認定されました。

前提として、依頼者は事故当時年齢が70歳を超える主婦で、ご主人が病気で働くことが困難であったため生活保護を受給して生活しておられました。さて、後遺障害が認定された段階でいざ示談を行うことになったものの、依頼者は相手方保険会社の担当者から「生活保護を受給している方は事故があろうとなかろうと一定額の保護費を受給できるのだから、後遺障害の影響により主婦業が妨げられるとしても損害は発生しない」と言われ、主婦としての休業損害や逸失利益を認めない低額な金額を提示されました。担当者には、賠償金を支払ったとしても最終的には国へ返還することになるという意識が見え隠れしており、当初から適切な賠償額を提示する気持ちがないと言える事案でした。

確かに、生活保護受給者が受け取った賠償金は、自治体に返還しなければいけないとされており、本件でも最終的には返還義務のある金銭と言えました。もっとも、依頼者としては、事故前とは比べ物にならない程ご自身の主婦業や日常生活に大きな支障をきたしており、そうした支障は生活保護受給の有無に関係ないことだから、正当に評価してほしいというもっともなご意向でした。

解決までの流れ

1 示談交渉
まずは相手方保険会社と示談交渉を開始しました。弁護士が介入したことにより保険会社側にも一定額の譲歩はありました。しかし、依然として根拠のない減額主張が繰り返され、これ以上交渉を続けたとしても平行線であるとの判断に至りました。

2 裁判外紛争解決機関(=ADR)を利用した和解
(1)交通事故紛争処理センターについて
示談交渉が決裂した時点で訴訟を提起することも考えられました。しかし、本件では後遺障害により依頼者の足が不自由となっていたため、期日の打合せを幾度も行うことが負担となることは容易に想像できました。

そこで、交通事故紛争処理センターを利用し和解を目指すこととしました。交通事故紛争処理センターとは、その名の通り交通事故における相手方との紛争を解決するための裁判外紛争解決機関で、仲裁の相談担当弁護士が和解を斡旋します。斡旋が不調となった場合でも、当事者は審査の申立を行うことができます。審査会は3人の審査員から構成され、最終的に結論として「裁定」を出します。裁定結果について、被害者側は不服であれば裁判に移行することができますが、保険会社は不服を申し立てることができません。

このように被害者側にメリットのある機関であり、裁判を利用する場合に比べ比較的短期間で解決が図れることから、事件をセンターへ持ち込みました。

(2)弁護士の主張
期日において、事故前後で変わりなく保護費を受け取る生活保護受給者に損害が認定できるか争点となりました。そこで、ひとつの判例に着目しました。

(裁判例)
71歳女子・生活保護受給者兼家事従事者の休業損害と逸失利益が争われた事案(大阪地裁平成21年(ワ)18900号)
この判例は、70歳以上女性平均賃金の80%相当額を基礎収入として認めました。判例では、生活保護受給者である被害者女性が夫及び息子と同居し家事を担ってきた主婦であると認定した上で、「家事従事者の家事労働が財産上の利益を生じうるものであり、金銭的評価が可能であることから休業損害を観念することができる」との判断を行っています。

上記判例は、まさに本件と類似しています。依頼者の家事労働も財産上の利益と言え、交通事故により家事労働に支障をきたしているのであるから損害が発生していると主張しました。仲裁の担当弁護士も休業損害及び逸失利益を否定できないのではないかとの見解でした。

もっとも、保険会社からは夫と二人暮らしであるから家事の分担ができるはずであるとの反論があり、家事の分担割合についてどう考えるか問題になりました。昨今では女性も働くことが多く、家事労働を夫婦で分担する場合が増えています。そこで、個々の夫婦でどのような家事分担を行っていたか考える必要があります。
依頼者のご主人は病気により家事を分担することが難しい状況にあったため、家事はほぼ全て依頼者が担っていました。証拠となる資料を提出し、夫婦の生活実態の説明を尽くしました。

最終的に双方歩み寄り、依頼者の主婦としての休業損害や逸失利益を認めた上で70歳以上女性平均賃金の70%相当額の賠償を受けるという和解が成立しました。

事例のまとめ

適切な調査と交渉を行うことで、本件のように頑なな保険会社とも示談が出来る可能性があります。ケースに応じた解決手段をご提案できるかと思いますので、お困りの際はぜひ弁護士にご相談ください。

監修:弁護士法人キャストグローバル
   高槻オフィス 人身傷害交通事故担当