労働事件(労働者側)業務中の交通事故についての会社と従業員の責任

業務中に追突事故を起こしてしまったが、勤務先会社が任意保険に入っておらず、損害額全額を本人に請求する訴訟が提起された事例(訴額約200万円の請求が、和解で本人の追加負担額0円で解決!)

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1 事案の概要

本件の依頼者は、業務中に追突事故を起こしてしまい、事故態様としては過失100%の事故ということで双方に争いがない事件でした。
問題は、勤務先会社が任意保険に入っていなかったことと、被害者や依頼者の求めを無視して一切の事故の対応をしなかったことです。
そのため、依頼者は、ご相談に来るまでの間に、被害者から物損として約80万円の請求を受け、会社にも一部負担して欲しいと何度も交渉したが取り合ってもらえず、物損(車の修理代・レンタカー代・レッカー代)の約80万円は何とか工面して被害者に支払っていました。
しかし、被害者の方の治療が終わり、後遺障害(等級14級)も残ってしまったということで、人損(ケガに関する損害)について、改めて被害者から損害賠償請求訴訟が提起されたことから、途方に暮れて当事務所にご相談にいらっしゃいました。

業務中に事故を起こしてしまったとき(加害者側)

交通事故の損害賠償責任は、運転者・使用者・車両所有者に発生します。

交通事故の被害者との関係においては、損害賠償責任は実際の運転をしていた運転者・使用者・車両所有者が連帯責任を負うことになっています(①運転者に関しては、民法709条不法行為責任・自賠法3条、➁使用者に関しては、民法715条使用者責任、③車両所有者(運行供用者)に関しては、自賠法3条)。
連帯責任なので、被害者から請求を受ければ、各自が損害の全額について支払う義務があることになります。
なお、本件では、会社が使用者であり、車両所有者でもあるため、会社が使用者責任と運行供用者責任を負っていることになります。

使用者責任(民法715条1項)

交通事故だけに限らず、業務中の従業員が他人の権利を侵害したとき、会社は被害者に対して損害賠償責任を負います。その理由は、会社は従業員を使用することで活動範囲を広げ、それによって利益を得ているわけですから、その業務中の事故等については被害者に対して責任を負うべきだとされていることにあります。
例えば、大きな工事現場での作業員のミスで通行人などの第三者に損害を与えてしまった場合などを想定すると分かりやすいでしょうか。被害者としては、ミスした作業員だけではなく、会社にも責任を取ってほしいですよね。
これは、使用者が被用者に代わって責任を負うという、代位責任であるとされています。

使用者と従業員の責任分担について

被害者との関係では、使用者である会社も責任を負うとしても、会社が被害者に損害賠償をした場合、会社としては従業員に「代わって」支払ったのだから、この損失分を会社に支払えと従業員に言えないのでしょうか。この点については、民法715条3項が、被用者(従業員)に対する「求償権を妨げない」と定めています。つまり、会社(使用者)が第三者に対して賠償責任を果たした場合には、会社(使用者)から従業員(被用者)に対して求償権を行使して、代わりに払った分を会社に払えと請求することを認めているということになります。
では、従業員は結局のところ、会社に対して損害賠償額全額を支払わなければならないのでしょうか。この点について、条文としての定めはありませんが、会社が従業員のリスクのある活動をさせることによって広範囲の活動を行い利益をあげていること(報償責任=利益を得る人がリスクも負う)や、今回のケースのように会社は任意保険契約を行うなどによりリスク管理ができるはずであること、会社は従業員の労働をコントロールできる立場にあること等から、どんな事例でも全ての責任を従業員に負わせるのは必ずしも公平とは言えません。そこで、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」(最高裁昭和51年7月8日判決)として、会社から従業員への求償権(民法715条3項)について相当程度制限されることが判例でも認められています。
例えば、同じ交通事故でも会社が従業員に無理な運転を強いていたようなケースや、工事現場等であれば事故防止策が十分とは言えない状態で業務をせざるを得なかったケースなどを想定していただければわかりやすいでしょうか。逆に、同じ交通事故でも従業員の責任が強いもの(例えば赤信号無視や飲酒運転など)もあります。
したがって、従業員の業務中の事故について、会社と従業員との責任割合というのは、ケースバイケースということになり、一律に何対何の割合と決まっているわけではありません。
また、従業員が被害者に損害賠償を行った場合にも、会社に損害の一部負担請求を求められるか(逆求償)という点については、条文の定めや判例がなかったのですが、令和2年2月28日に、この点についての最高裁判例が出され、従業員が被害者に損害賠償を行った場合であっても、従業員から会社に求償請求出来ることが認められています。

本件の解決までの流れ

本件でも、依頼者としては、被害者からの損害賠償請求について、法的には会社と連帯責任を負っているため、負担部分に関わりなく、判決になれば会社との連帯債務が認められてしまう事案でした。
会社が全く無視を決め込んで訴訟に出席しないということもあり得ましたが、一応会社としても代理人を立てて訴訟に対応をする姿勢を見せたため、(損害額自体の争いもありましたが)、主要な争点としては会社が使用者責任を負うかどうか(またその割合)ということになりました。
会社側は、業務中に会社に与えた損害は全て賠償するという誓約書(定型書式で従業員から取得していると思われるもの)を依頼者から差し出させていたことや、完全歩合給である労働実態・過失が100%の事故態様などを理由に、本件事故に関する責任は全て依頼者が一人で負うべきであって使用者責任は負わないという主張をしていました。
これらの主張に対し、完全歩合給であっても労働実態からしても純然たる雇用関係にあることや、誓約書が無効であること、本件事故態様が100:0であっても重大な過失にはあたらないこと、会社が任意保険に加入していないことなどを元に会社の責任を主張し、既に依頼者から被害者に支払われた約80万円の物損についても会社に求償権があることなどについても指摘する形で争いました。
本来であれば、会社と依頼者との責任割合については、被害者としては関係ない(連帯責任だ!)ということになりますが、依頼者が被害者に対して誠実に対応してきたこと、被害者も会社が責任逃れをしようとしてきたことを不満に思っていたことなどの事情もあり、最終的には被害者と依頼者と会社との間での和解として、①被害者に対する残りの損害(人損)については会社から被害者に対して支払を行う、②会社は依頼者に対して求償請求をしない、③依頼者も既に被害者に支払った物損約80万円については会社に(逆)求償請求をしないという内容での裁判上の和解を成立させることが出来ました。

まとめ

ご依頼をお受けした段階では、会社側が訴訟に出席するかどうか分からず、法的には判決になれば連帯して支払えという判決になってもやむを得ない事案だったので、出来るだけ損害額を厳密に精査して不要な損害賠償責任を負わないようにすることと、実質的に被害者の方から会社に対して責任追及をしてもらうよう働きかけるほかない可能性もありました。
損害額自体も素因減額等の主張によりある程度圧縮できましたが、何より、結果的に、訴訟を起こされた人損については、依頼者の負担ゼロで解決できたこと、会社にきちんと責任を認めさせることができたことにより、大変お喜び頂けました。
従業員の方も誓約書があるから・・と諦める必要はありませんし、会社側としてもこのような業務上のリスクに備えてきちんと対策を取っておくことが会社の信頼やリスク分散のためにも重要だと思います。