交通事故後、もしかして高次脳機能障害?と思ったら
高次脳機能障害とは、脳の損傷によって思考、記憶、行動、言語、注意などの脳の機能に障害がおきた状態をいいます。交通事故による衝撃や、その後の脳への影響により引き起こされることがあります。高次脳機能障害により、日常生活の自立性や社会生活に深刻な影響を与えることもあります。
交通事故に遭った後、こんな変化に気づいていませんか?
- 前と比べて物忘れがひどい
- 以前と比べて感情の起伏が激しい
- 以前と比べて言いたい言葉が出てこない
- 以前と比べて判断力が鈍くなった(優先順位がつけられない)
これらの症状は、高次脳機能障害のサインかもしれません。
交通事故による高次脳機能障害の原因と症状
交通事故による高次脳機能障害は、頭部が直接衝突することで発生する衝撃や、急激な加速・減速による振動が原因で脳が損傷されることにより発生します。脳は頭蓋骨の内側で揺れ、脳組織や神経が引き伸ばされたり、圧迫されたりします。
交通事故による高次脳機能障害の主な原因
交通事故による高次脳機能障害の主な原因は、事故の衝撃によって引き起こされる頭部への直接的なダメージです。以下のような病態が、脳の認知機能に影響を及ぼすことがあります。
病態名 |
説明 |
びまん性軸索損傷 |
頭部に外から強い回転力がかかり、脳がねじれて軸索が損傷してしまった状態 |
急性硬膜外血腫 |
脳を守っている頭蓋骨の内側にある硬膜と脳の間に血腫ができた状態 |
外傷性くも膜下血腫 |
外傷によりくも膜の内側と、脳の表面の間に血腫ができた状態 |
脳挫傷 |
事故により強い衝撃が加わり、脳組織が直接的に損傷を受ける状態 |
外傷性脳内出血 |
事故により強い衝撃が脳に加わることで脳内で血管が破れ、脳内に血液が流出する状態 |
脳梗塞 |
血流が阻害されることで脳への血流が不足し、脳組織が酸素や栄養を得られなくなる状態 |
脳震盪(のうしんとう) |
脳が頭蓋骨内で揺さぶられることにより、一時的な意識障害や記憶が混乱している状態 |
これらの病態は、脳の機能に影響を及ぼし、高次脳機能障害の発生原因になります。事故後にこれらの病態が現れた場合は、速やかに専門的な診断と治療を受けることが重要です。
高次脳機能障害の症状
交通事故で、頭部に強い衝撃を受け、被害者の記憶力、注意力等に障害が生じている場合、高次脳機能障害の可能性があります。交通事故前と比べて、被害者ご本人に次のような症状が現れていませんか?
障害の種類 |
説明 |
失語(言語障害) |
言いたい言葉が出てこない。聞こえていてもその意味が分からない。 |
記憶障害 |
短期記憶や長期記憶の損失を含む、記憶形成や保持の困難。新しい情報を覚えたり、過去の出来事を思い出すのが難しくなる。 |
注意障害 |
集中力の維持、選択的注意、または集中している対象から容易に気が散る。 |
遂行機能障害 |
計画立て、問題解決、多段階の活動の組織化、およびタスクの開始と完了に関連する困難です。 |
失認障害 |
視覚的な情報を正しく認識できない障害で、物体、顔、または場所を識別する能力が損なわれます。 |
社会的行動障害 |
感情や欲求のコントロールができず、社会的なふるまいや対人関係のルールが理解できない、または適切に行動できない状態です。 |
半側空間無視 |
外傷を負った脳と左右反対側の空間認識が失われる。 |
交通事故による高次脳機能障害はご家族が先に気づくこともあります
高次脳機能障害は事故に遭った当事者自身ではなく、日常を共にする家族や友人が変化に気づくことが多いです。当事務所へのご相談でも、交通事故前と性格が変わった、怒りやすくなった、事故前と行動が変わったことでご家族からご相談いただくケースも少なくありません。
以下の高次脳機能障害チェックリストもご参照ください。
高次脳機能障害チェックリスト
障害の種類 |
主な症状 |
失語(言語障害) |
言葉が思い出せない。言い間違いが多い。思っていることが話せない。滑らかに話せない。 |
記憶障害 |
新しいことが覚えていられない。すぐ忘れる。よく知っている場所で迷う。何度も同じ話をする。 |
注意障害 |
一つの活動に集中できない。すぐ気が散る。複数のことを同時にできない。他の行動への切り替えができない。 |
遂行機能障害 |
ひとつのことにこだわってしまう。決まったことはできるが、変更追加があると対応できない。自分で計画を立てて、実行できない。人に指示してもらわないとできない。 |
失認障害 |
見えているのにそれが何かわからない。親しい人の顔がわからない。普段使う道具の名前や使い方がわからなくなる。身に着ける衣服の前後や着方がわからない。 |
社会的行動障害 |
無制限にお金を使う、食べる。社会的な場での振る舞いが不適切。他人を不快にさせる。わがままや子どもっぽくなった。怒りっぽくなった。やる気が起きない。 |
半側空間無視 |
右側のおかずばかり食べて左側を残す、左側から話しかけられても気づかない、歩いていると左側の障害物にぶつかってしまう。 |
など。交通事故後にこれらの症状が見られる場合は、専門の医療機関での検査、診断が重要になります。
高次脳機能障害は事故後しばらく経過してから発症する場合もあります
高次脳機能障害の症状は、交通事故後すぐに現れないことがあります。症状が顕著になるのにしばらくかかるケースもあります。この遅延が診断を難しくする原因となることがあります。そのため、事故後に少しでも異常を感じたら、速やかに医療機関での詳細な検査を受けることが推奨されます。
高次脳機能障害による家族の介護負担
高次脳機能障害を負った方の介護は、家族にとって深刻な影響を及ぼします。高次脳機能障害の場合、予測不可能な行動や感情の起伏に日常的に対応する必要があり、家族も長期にわたり労力を介護に費やすことになります。このため、介護を行う家族が仕事を辞めてフルタイムでケアに専念するケースも少なくありません。
交通事故による高次脳機能障害の被害者とそのご家族が、十分な賠償金を支払ってもらうためにも、弁護士によるサポートをおすすめします。
交通事故で高次脳機能障害になった場合の慰謝料と賠償金
慰謝料というのは、交通事故の精神的苦痛に対する賠償金です。交通事故による慰謝料の算出には下記3つの基準が存在し、それぞれ異なる金額が算定されます。
- 自賠責基準
- 任意保険基準(保険会社基準)
- 弁護士基準(慰謝料の額が最も高い)
自賠責基準は最低限補償される金額であるのに対し、任意保険基準は保険会社の独自の基準によって支払われます。一方で、最も高額となるのは弁護士が介入することで算出される「弁護士基準」です。
適切な補償を求めるのであれば、弁護士基準による請求が必須です。
また、交通事故で高次脳機能障害になった場合には以下の損害賠償を請求できます。
損害賠償の種類 |
説明 |
相場・計算基準 |
入通院慰謝料 |
交通事故による怪我のための入院・通院に対する損害賠償金 |
通院1月53万円、通院1月28万円 |
後遺障害慰謝料 |
交通事故によって後遺障害を負った場合の精神的苦痛に対する損害賠償金 |
690万円〜2,800万円 |
後遺障害逸失利益 |
後遺障害が原因で働けなくなった場合の収入損失に対する補償 |
交通事故に遭う前の基礎収入や就労可能年数を基に算出 |
休業損害 |
交通事故後に仕事を休む必要があった期間の収入損失に対する補償 |
実際の収入を基に算定 |
介護器具などの購入費 |
後遺障害により必要となる介護器具の購入費用 |
実費分が請求可能 |
将来の介護費 |
症状が固定後に発生する将来介護費 |
施設介護か自宅介護、職業付添人か近親者付添人による |
家屋や車の改造費 |
後遺障害による自宅や車の改造費 |
後遺障害の内容や程度、改造の必要性や経済性で判断 |
将来の生活に必要な雑費 |
日常生活で必要となる消耗品や小物類の購入費 |
実費分の請求が可能 |
個々の精神的苦痛を数値化するのは容易ではありませんが、過去の裁判例などを用いて算出した「相場」があり、被害者は請求前に相場がどのようなものかを必ず知っておく必要があります。
関連ページ
入通院慰謝料の考え方と計算方法について
関連ページ
後遺障害の等級認定に対する相場
交通事故による高次脳機能障害の後遺障害等級認定
高次脳機能障害には、医学上、脳組織そのものに損傷が発生している「器質的損傷」に基づくものと、脳組織そのものには損傷が発生していない「非器質的」なものがあります。
交通事故による高次脳機能障害は、「器質的損傷」に基づく障害とされています。
交通事故による脳の器質的損傷の具体例
損傷の種類 |
具体例 |
局所性損傷 |
脳挫傷、脳出血、脳震盪、外傷性硬膜下出血、外傷性くも膜下出血 |
全般性損傷 |
びまん性軸索損傷 |
器質的損傷に基づく高次脳機能障害になった場合、障害の程度・内容に応じて、自賠責保険の1級、2級、3級、5級、7級、9級の後遺障害等級が認められる可能性があります。また、脳に損傷を負ったものの高次脳機能障害による労働能力の喪失が生じなかった場合でも、その態様によって12級または14級が認定される可能性もあります。
なお、非器質性のものについては、高次脳機能障害として後遺障害が認められませんが、非器質性精神障害と認められる場合があります。この場合には、9級、12級、14級の後遺障害等級が認められる可能性があります。
交通事故による高次脳機能障害の後遺障害等級(自賠責保険の後遺障害等級)
「器質性」の高次脳機能障害の場合、以下のような後遺障害の等級が判定される可能性があります。
後遺障害等級 |
判定基準 |
自賠責保険による補足説明 |
別表第1
1級1号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
身体機能は残存しているが、高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの |
別表第1
2級1号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、一人で外出することが出来ず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことが出来ても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの。 |
別表第2
3級3号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし、記憶や注意力、新しい事を学習する能力、障害の自己認識、 円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
別表第2
5級2号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
単純なくり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
別表第2
7級4行 |
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
別表第2
9級10号 |
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの |
高次脳機能障害で後遺障害判定を受けるには、傷病の存在を証明する必要があります。自賠責保険の判定上、以下の5つの基準で、高次脳機能障害にあたるか否かを判定しているといわれています。
①交通事故後の初診医のカルテに頭部外傷(頭部に強い力が加わったこと)に関する診断があること
脳は頑丈な頭蓋骨で守られていますから、交通事故により脳組織が損傷したといえる場合、交通事故によって、頭部に強い力が加わっているはずです。この点を証明するために、頭部の外傷所見(挫創の有無や、脳の膨張の有無)と頭部を強く打ったことで生じる症状(頭痛や嘔吐)について、初診医の診療録に詳しく記載されていることが求められます。
②診断書に、高次脳機能障害、脳挫傷、びまん性軸索損傷等の傷病名の記載があること
③意識障害の程度
高次脳機能障害の判定に際しては、交通事故後の被害者の方の意識障害の程度が関係します。自賠責保険で高次脳機能障害を判定するときの判断基準は以下のとおりです。
- ① 昏睡以上の意識障害が、受傷後6時間以上継続すること、または
- ② 軽度の意識障害が1週間続くこと
自賠責保険では、Japan Coma Scale(JCS ジャパンコーマスケール)やGlasgow Coma Scale(GSC グラスゴーコーマスケール)という意識レベルの評価指標における評価をもとに意識障害の程度を審査しています。①及び②は、JCSとGCSの評価点が以下の場合に満たされるといわれています。
- ① JCS3桁またはGSC8点以下の状態が6時間以上持続している場合
- ② JCS1桁~2桁またはGCS13~14点が1週間以上持続している場合
ただし、上記の基準はあくまでも認定の目安ですので、上記の点数に達していない場合でも「一定の意識障害」があるとして、高次脳機能障害が認められる例もあります。
また、高次脳機能障害と認められた場合でも、初期の意識障害の程度が軽ければ軽いほど後遺障害の等級は軽くなる傾向にあります。
④器質的損傷を裏付ける画像所見があること
MRI及びCTにより脳の異常が撮影されていることが重要です。脳挫傷の場合には出血を伴いますのでCT検査だけでも損傷を判別することができる場合もあります。ですが、びまん性軸索損傷のように外傷を負ったあとに明らかな出血を伴わないケースもありますので、、交通事故で脳に外傷を負った場合、できる限り早期にMRI検査を受けることが重要です。
⑤具体的な「交通事故による高次脳機能障害」の症状があること
高次脳機能障害とは、総称ですので具体的な症状ではありません。具体的な症状によって、生活が交通事故に遭う前と比較してどのように制約されているのか具体的に記載されていることが求められます。主要4症状は、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害です。
これらの症状の有無については、神経心理学検査によって証明することになりますので、神経心理学検査の結果、上記の障害があることが検査上現れていることが重要です。よく使用されている神経心理学検査としては、以下の検査があります。
- WMS-R(ウェクスラー記憶検査)
- WAIS-Ⅲ(ウェクスラー知能検査)
- HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)
- MMSE(ミニメンタルステートメント検査)
高次脳機能障害では脳の認知機能全般が低下することがありますが、脳の様々な機能低下を網羅的に評価する一つのテストというものがないため、上記のほかにも複数の検査を組み合わせて(「バッテリー」といいます)評価を行います。そのなかでも特に重要視されているのがウェクスラー記憶検査とウェクスラー知能検査です。
また、上記検査上異常が現れていない場合でも、親族の方が作成する「日常生活状況報告書」に障害内容を具体的に記載すれば認められる場合もあります。高次脳機能障害を負った被害者本人の方は、自身では症状を説明できないことが多く、また、医師や医療関係者は、被害者と診察やリハビリのごく短時間での接触しかできません。この点、ご家族の場合は、被害者の方と長い時間生活をともにしているため、日常生活での問題点について誰よりも早く、また深く気づくことが可能です。こうした日常生活での問題点について的確に書面にまとめることが、高次脳機能障害での適切な後遺障害認定を受けるために重要になります。
交通事故による高次脳機能障害で後遺障害等級が認定されるまでの流れ
交通事故による後遺障害等級は、被害者請求と事前認定のいずれかの方法で手続きを行います。
被害者請求は、基本的にはすべて自身で資料などを集めて、後遺障害等級認定を行っている自賠責保険会社にて直接手続きを行います。
一方で、事前認定は加害者側の任意保険会社に資料の提出など、必要な手続きのほとんどを任せるという違いがあります。
高次脳機能障害の後遺障害等級認定で適切な慰謝料を得る5つのポイント
高次脳機能障害で適切な賠償を受けるためのポイントは以下のとおりです。
- 事故直後から適切な画像診断と医学的検査を受けること
- 治療期間中の日常生活の変化に注意し、詳細な記録をつけること
- 主治医に適切な後遺障害診断書を作成してもらうこと
- 相手方保険会社の示談提示を鵜呑みにせず、交通事故に詳しい弁護士に相談すること
- 交通事故による高次脳機能障害に詳しい弁護士に相談する
事故直後から適切な医学的検査と画像診断を受けること
高次脳機能障害は、複雑な病気であり、医師だけではなく複数の医療専門家による検査等が必要です。また、見落とされやすい障害ですから、少しでも疑いがある場合には、高次脳機能障害に精通した専門の病院で受診しましょう。
高次脳機能障害の認定にあたっては、まず、受傷直後の意識レベルの状態が問題となります。救急搬送されたときや、その後の入院時の状態について、病院で意識レベルをしっかりと記録してもらう必要があります。また、いつ本人の意識が戻ったか、などについて家族でも記録などをつけて医師と共有しておいた方がよいでしょう。
また、交通事故の被害に遭われて脳に強い衝撃を受けた場合、事故直後にXP、CTだけでなく必ずMRIの撮影もしましょう。時間が経過すればするほど交通事故直後の状態を確認することが難しくなります。高次脳機能障害の認定では、画像により脳の出血や挫滅、脳室拡大や脳萎縮などの異常所見が認められる必要があります。脳室拡大や脳萎縮などは受傷から約3ヶ月程度で完成するとも言われており、事故から長期間経過してしまったあとに画像を撮影し何らかの異常所見みつかっても事故との因果関係が認められなくなるおそれがあります。
とくに、びまん性軸索損傷の場合、事故直後には画像に何も異常が写らないケースもあります。もし事故直後に画像上で脳に異常が見つからなかった場合でも、ご本人の様子を見て明らかな問題がある場合には、医師に相談して、事故から1ヶ月程度以内に再度MRI検査を受けてみるのが良いでしょう。
もっとも画像診断については、医師の能力や経験の差によって、同じ画像をみて異常所見を見つけられるかどうかに大きな違い出ます。主治医からは異常なしと言われた画像を専門医にみせると、異常所見を見つけてもらえる場合もあります。弁護士法人キャストグローバルでは、画像鑑定の専門医と連携しておりますので、必要に応じて専門医に適切な診断をしてもらうための意見を伺うことも可能です。
さらに、高次脳機能障害では脳の認知機能の全般が低下しますが、その症状の現れ方は被害者ごとに千差万別であり、ひとくくりにできません。したがって、その方の症状に適した適切な検査を適宜受ける必要があります。前述のとおり、高次脳機能障害をスクリーニングできる網羅的な検査は存在しないので、複数の検査を組み合わせて(バッテリー)、その症状を医学的に裏付ける必要があります。
たとえば、高次脳機能障害の評価では、一般的に以下のような神経心理学的検査の組み合わせ(評価バッテリー)が推奨されています。
症状別検査の種類 |
使用されるテスト |
全般的認知機能検査 |
ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-Ⅳ) |
記憶機能検査 |
ウェクスラー記憶検査(WMS-R)、リバーミード行動記憶検査 (RBMT) |
注意機能検査 |
TMT (trail making test) 線引きテスト |
遂行機能検査 |
遂行機能の行動評価法 (BADS)、ウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST) |
社会的行動検査 |
認知-行動障害尺度(TBI-31) |
(メディカルコンサルのHPから引用)
お医者さんは、当然、こうした様々な脳機能の検査についての医学的知識は十分に持っていますが、「高次脳機能障害の後遺障害認定を受けるためには、どの検査が必要か」という知識はほとんどありません。ですので、治療開始の早い段階からこうした認定基準を熟知した弁護士と相談して、場合によっては必要な検査を実施してもらうように医師に積極的に働きかける必要があります。
治療期間中の日常生活の変化に注意し、記録をつけること
高次脳機能障害は見た目では判別できないため、被害者の方の日常生活を注意深く観察し、事故前と事故後の生活の変化を記録しておくことが非常に重要になります。これは、被害者の方と長く日常生活を共にするご家族の方にしかできないことです。
事故後、被害者の方の物忘れが激しくなった、感情の起伏が大きくなり以前は穏やかだった被害者が急に怒りっぽくなった、事故前ははつらつとしていた被害者が急に無気力になりやる気を見せなくなった、、、等々、日常生活のなかで些細な変化も逃さずに日記のような形で記録をしておくことをおすすめします。記録する際は、抽象的に「イライラしがち」や「ぼーっとしている」というだけでなく、できるだけ具体的なエピソード(たとえば「以前は夢中になっていた阪神タイガースの試合結果にまったく興味を示さなくなりTV中継があっても見なくなった」など)として記録しておくことが重要です。
そして、これらの事情は、最終的には、「日常生活報告書」という形にまとめることになりますが、事故前後の変化、検査結果との整合性、具体性、といったポイントを押さえる必要があります。的確な報告書の作成方法についても認定基準に詳しい弁護士に相談したほうがよいでしょう。
主治医に適切な後遺障害診断書を作成してもらうこと
診断書に記載されていない症状は、”その症状が無い”ものとして判断されます。自賠責や労災の後遺障害に詳しい医師に後遺障害申請書をかいてもらいましょう。チェックポイントは、以下になります。
- ①事故直後の意識レベル
- ②画像診断
- ③脳機能に関する検査結果
- ④日常生活での変化
といった項目について認定基準に沿った内容を記載してもらう必要があります。記載内容に不安がある場合は、できる限り自賠責への提出前に、一度交通事故に詳しい弁護士に確認してもらいましょう。場合によっては不適切な記載内容を基準と整合するように修正または追記などをしてもらう必要がありますが、お医者さんは、自賠責などの公的機関への提出後はたとえ診断書の記載内容が不適切であっても修正を嫌がることが多いので、提出する前に修正を依頼するほうが修正に応じてもらえる可能性が高まります。
相手方保険会社の示談内容を鵜呑みにせず、交通事故に詳しい弁護士に相談すること
相手方保険会社から提示された示談内容は、すぐに合意すべきではありません。
基本的に、最初の提示内容については被害者側にとって不利な条件になっていることがほとんどです。合意を迫られても、「検討させてほしい」といって断りましょう。というのも、示談は一度合意してしまうと、後になって取り消すのは難しいです。
不利な条件で示談してしまわないためにも、相手から提示された内容は必ず弁護士に確認してもらうことを推奨します。
弁護士法人キャストグローバルは相談料無料なので、ぜひお気軽にご相談ください。
交通事故による高次脳機能障害に詳しい弁護士に依頼する
交通事故による高次脳機能障害で適切な慰謝料を得るために、もっとも重要なポイントといっても過言ではないのが、交通事故による高次脳機能障害に詳しい弁護士に依頼することです。
まず、弁護士が介入したというだけで、慰謝料は増額されることがほとんどです。
また、治療中の被害者にとって相手保険会社との示談交渉は大変な負担です。弁護士に依頼してしまえば、示談交渉をすべて代理で行ってもらえるばかりか、最終的には裁判などの法的手続きまですべてを任せることができます。
その他にも、後遺障害等級認定のための後遺障害診断書の作成補助や、被害者請求といった手続きもすべて代理で行います。
高次脳機能障害が後遺障害等級認定されなかった場合は?
後遺障害等級認定に不服がある場合は、異議を申し立てることが出来ます。事前認定をしている場合は、任意保険会社または自賠責保険会社に対して、被害者請求をしている場合は、自賠責保険会社にします。
異議申立てにあたっては、「何が問題で認定に至らなかったか」の正確な分析と、問題となっている点を証明するための的確な医学的証拠を準備することが必要です。こうした点を踏まえなければ良い結果を得ることは難しいため、異議を行う前に、高次脳機能障害の認定に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
関連ページ
後遺障害等級認定に納得いかない場合の異議申立方法
交通事故による高次脳機能障害の弁護士相談や費用について
弁護士に高次脳機能障害について相談したい場合、費用はどの程度かかるでしょうか?弁護士と聞いて、どうしても気になってしまうのが費用問題です。
しかし、交通事故であれば、弁護士費用をかけずに相談・依頼できるケースがあります。以下にて詳細をご説明します。
交通事故による高次脳機能障害を経験豊富な専門の弁護士に依頼する4つのメリット
交通事故専門の弁護士に依頼する4つのメリットは下記です。
- メリット1 慰謝料の増額の可能性が高い
- メリット2 専門家に交渉をなどはすべて任せられる
- メリット3 自分自身は治療・回復に専念できる
- メリット4 適正な後遺障害等級認定が獲得できる
もし、交通事故による高次脳機能障害を弁護士への依頼を検討しているのであれば、交通事故の様々な問題に精通し、経験豊富な専門性の高い弁護士に依頼しましょう。弁護士といってもそれぞれに得意分野があるのです。 相談先は交通事故に特化した事務所を選ばなくてはなりません。
また、後遺障害の内容によっては、医師のなかでも特に専門性の高い専門医から意見書を作成してもらったりして、認定資料を追加する必要もあります。
弁護士を選ぶ際には、専門的な医師との協力関係を築いている弁護士か否かを、選択基準の一つにしてみましょう。
相談無料・着手金0円、弁護士費用特約で費用の心配はありません
当事務所は、相談料無料・着手金0円にて受け付けております。
弁護士費用は後払いで、賠償金獲得後に賠償金からお支払頂きますので、ご依頼時点で費用を頂くことはありません。
また、弁護士費用特約にご加入の方であれば、一事故について、一人あたり、最大300万円までの弁護士費用が補償されますので、費用負担がほとんどないか大半をまかなうことができます。
交通事故による高次脳機能障害の解決事例
【高次脳機能障害として9級の認定を受けた事例】
後遺障害等級 9級10号
受傷部位:外傷性くも膜下出血、脳挫傷、右脛腓骨骨折、等
交通事故に遭い、頭部外傷、骨折等大けがを負った。骨折等の外傷は、ほぼ完治し、多少痛みがある程度である。
しかし、頭部外傷の影響で、突然泣き出す、すぐに忘れる等、すこしおかしくなったようだ。自分ではわからないが、他人に指摘され、今後の示談が不安になったとご相談にいらっしゃいました。
頭部外傷後意識障害があった方は、高次脳機能障害を発症された可能性があります。自分では気が付き難く、ほんの少しの変化しかない場合もあり、注意が必要です。
頭部という枢要部ですので、納得のいく治療をして頂きました。
症状固定と言えるほどの症状の安定が見られたところで当職が被害者請求を行ったところ、高次脳機能障害として9級の認定を受けました。
かかる等級を前提に、示談交渉に入りました。
被害者がご高齢ということもあり、逸失利益の算定に争いが生じましたが、遅延損害金もあるところですので、当職の主張を全面的に認めてもらい、大変喜んでいただけました。
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