夫婦の別居や離婚により、子どもと離れて暮らすことになった親は、我が子と一緒に暮らしたい気持ちの高まりから、ときに、子どもを養育している親の下から強引に連れ去ってしまうことがあります。
このように親が子を強引に養育している親の下から連れ去ってしまった場合、子を養育していた親は、どのように対応すればよいのでしょうか。また、もし、子を連れ去られてしまい、相手の下での生活が長く続いた場合には、もはや、親権者は、相手に渡ってしまうことになるのでしょうか。
今回は、親権者あるいは監護権者ではない親による子の連れ去りのトラブルについて、解説します。
子どもを強引に連れ去る行為は犯罪になることもある
まず、注意すべきことは、たとえ自分の子でも、強引に子を連れ去る行為は、犯罪になることがあります。このことは、離婚により親権者ではなくなった親による連れ去りだけではなく、別居中の一応親権者ではある親による場合でも同じです。
この点について、よく、離婚していない以上、未成年の子の親権は両親の共同親権であり、自分の子を連れ去る行為は、自身の親権を行使しているに過ぎないから、何ら違法なことはしていないと主張する親がいます。
しかし、判例上、未成年の子について離婚前の両親の共同親権に服する場合でも、両親の別居により既に子の生活環境が変更された後、その子を無理やり連れ去る行為については、たとえ親権を有する者の行為でも誘拐罪にあたる可能性があるとされています(最高裁平成17年12月6日判決)。
なお、犯罪の問題だけではなく、子を強引に連れ去る行為は、子の利益より自分の利益を優先させる考えの現れであるとして、親権者を決める際、不利に働く事情になり得ます。
人身保護法に基づく子の引渡しを求める
一方の親に子どもを強引に連れ去られた場合に、その子どもを取り返すための方法の1つとして、人身保護法に基づく子の引渡しを求める方法があります。
人身保護法は、現に不当に奪われている身体の自由を裁判所の判断により迅速かつ容易に回復することを目的とした法律ですから、まさに不当に子の身体の自由を奪われた緊急事態に対処するのに適した方法といえます。
但し、判例上、離婚前の別居中における子の連れ去りの事案につき、人身保護法の救済の要件である「拘束の顕著な違法性」(人身保護法規則4条)を認めるには、「拘束者が子を監護することが子の福祉に反することが明白であること」を必要とするものとされています(最高裁平成5年10月19日判決)。
この要件は、非常に厳格な要件であり、簡単に認められるものではないところ、裁判所が、そのような厳格な要件を必要とした背景には、子の監護・養育に関する紛争は家庭内のトラブルである以上、その解決は、原則、家庭裁判所を通じて行われるべきものであるという考え方があると言われています。
そのため、人身保護法の適用により、連れ去られた子を取り戻すことができるのは、実際のところ、たとえば家庭裁判所の手続において他方の親の親権の行使が制限されているのに、これに従わないような場合や子が一方の親の監護下において安定した生活を送ることができるのに他方の親の監護下においては著しくその健康が害され、満足な義務教育を受けることができないなどの限られた場合になるでしょう(最高裁平成6年4月26日判決)。
そのため、現在の実務では、連れ去られた子を取り戻す方法として、人身保護法は、あまり活用されていないようです。
家事審判及び審判前の保全の申立を行う
現在の実務では、別居中に連れ去られた子を取り戻す方法として、共同親権を前提として、監護権の指定及びそれに基づく子の引渡しを求める家事審判及びその審判前の保全の申立を行う方法を選ぶことが多いようです。
この家事審判及び審判前の保全の手続は、家庭内のトラブルを解決する専門機関である家庭裁判所を通じて行われますから、子の利益の観点から、柔軟に問題を解決できることにつながるのです。
とはいえ、審判には時間が掛かりますから、その間に子どもが養育にふさわしくない親の元において生活することは問題です。また、最終的に子どもを取り戻せる場合でも、ある程度の時間を過ごした環境から別の環境に変わること自体、子にとっては望ましくありません。そこで、より迅速に子どもの取り戻しについて仮の判断を必要とするために存在しているのが審判前の保全の手続なのです。
この審判前の保全の手続では、最終的な審判による判断の前に迅速に仮の判断として子の引渡しの可否について判断するものであり、事実上、ここでの判断は、審判における判断と一致するため、実際には、この審判前の保全の手続における裁判所の判断は非常に重要となります。
強引に子どもを連れ去った親に親権や監護権が認められてしまうことはあるの?
それでは、もしも何らかの事情により、子どもを強引に連れ去られた後、子を取り戻すための対応をとることができず、子どもが相手の親の下において長期に渡り生活を送ることになってしまった場合には、もはや親権者あるいは監護権者は、相手の親に移ってしまうのでしょうか。
この問題に関して、知っておくべき重要な考え方として、継続性維持の原則というものがあります。この継続性維持の原則とは、簡単にいえば、子の養育の環境を変えることは、子にとって不利益であるから、従前の監護に問題のない限り、あえて監護する者を変更する必要はないという考え方です。
但し、継続性維持の原則を極端に重視すれば、監護する親の意に反して、子を無理やり連れ去り、監護を開始して、これを継続させることにより、監護権を得ることができてしまうという結論になってしまい何とも腑に落ちません。
過去の裁判例では、子の監護の開始における経緯の違法性等を考慮して、監護権を含めた親権者の指定について、子を連れ去った親を親権者に指定しなかったものがあります(東京高裁平成17年6月28日決定)。
しかし、他方では、子を監護する親から連れ去って監護を開始した親を監護権者とした裁判例もあります(大阪高裁平成12年4月19日判決)。もっとも、この裁判例は、子を奪ってから8年もの時間が経過していた事案であり、慣れた生活環境を突然変えることによる子の不利益を考えたとき、もはや子を違法に奪ったことは不問してよいと判断できるような特殊なケースであったといえるでしょう。
大切な子どもが関わる問題はいち早く弁護士に相談を
子どもが自分の元から強引に連れ去られたしまった場合には、人身保護法に基づく取り戻しと家事審判及び審判前の保全手続による取り戻しの2つの方法があり、現在では、後者の家事審判を利用することが多くなっています。
また、子ども違法に連れ去った者は親権者や監護権者の適性に欠けるものとして、最終的に、子の親権者や監護権者にはなれないことが多いのですが、そのような親の元において子どもが非常に長い期間生活している場合には、子の利益を考えて、違法に子を連れ去った親でも親権者・監護権者として認められることもあります。
このように強引に連れ去られた子を取り戻すには、しかるべき法に基づいて対応する必要があります。その場合、なるべく早い段階で当事務所までご相談ください。離婚問題や親権問題に精通した弁護士があなたの味方となり、最善の方向へと導きます。