離婚における未成年の子を巡るトラブルの典型は、子の奪い合い、つまり両親が子の親権を争って対立するものです。
他方、これとは全く逆に、子の押し付け合い、すなわち両親のどちらも親権者として子を育てることを拒否して、お互いに子の面倒を見るよう押し付けあう問題が生じることもあります。
このような子の押し付け合いの問題は、親の子に対する愛情が希薄であるという理由だけではなく、健康上の理由や経済的理由により、どうしても子どもを育てることが難しいといった事情により起きることもあります。
それでは、もし、何らかの事情により、いずれの親も未成年の子を育てることができない場合において、どちらの親も親権を放棄することはできるのでしょうか。また、どちらの親も親権を放棄した場合には、一体誰が子を育てることになるのでしょうか。
今回は、未成年の子の両親どちらも子を育てられない場合の親権の放棄について解説します。
親権を放棄できるのは特別の理由のある場合に限られます
原則として親権の放棄はできない
そもそも親権の制度は、未成熟である未成年の子の利益を保護するため、親権者に未成年の子の監護権や代理権を認める制度です。すなわち、親権は、親の権利であると同時に未成年の子の利益を適切に保護する責任を伴うものなのです。
したがって、親権者である親が親権を放棄することは原則として認められません。
親権は「やむを得ない事由」のある場合において家庭裁判所の許可を得れば放棄できる
親権者は、未成年の子の利益を守ることを目的として、その子の監護や代理を適切に行う権利と義務を負いますから、原則として、親権を放棄することは許されません。
他方、何らかの事情により、親権者が適切に親権を行使できない状態にある場合、これを放置することは、かえって未成年の子の利益を害することになり適切とはいえません。
そこで、民法では、親権を行う父又は母は、やむを得ない事由のある場合には家庭裁判所の許可を得ることにより、親権を辞することができると定められています(民法837条1項)。
親権の辞退の認められる「やむを得ない事由」とは?
それでは、親権の辞退の認められる条件である「やむを得ない事由」とは、一体、どのような場合なのでしょうか。
ここでの「やむを得ない事由」とは、抽象的には、親権者が親権を適切に行使することのできない事情を意味します。
具体的には、たとえば親権者が大病を患い、治療のため長期の入院を強いられているような場合や刑事事件を起こして刑務所に服役しているような場合などです。そのような場合には、およそ親権者の適切な親権の行使は期待できませんから、親権の辞退を認めてもらうことができます。
他方、子に対する愛情が希薄であるとか、子を育てる自信がないなどの主観的事情だけでは親権を辞退することは難しいでしょう。
親権の辞退が認められた場合には誰が子を養育するのか?
親権者が親権を辞退しても当然に他の親に親権が移るものではない
離婚後に親権者となった親が親権を辞退した場合、当然に、もう一方の親に親権が移るわけではありません。そのため、このような場合には、未成年の子の親権者は存在しないことになります。
親権者となるべき者がいないときは未成年後見人を選任する
親権の放棄により、未成年の子に親権者となるべき者がいないとき、未成年の子の親族等の申立に基づいて、家庭裁判所は、親権者と同様の役割を担う未成年後見人を選任することができます。
この未成年後見人になる者について、法律上、一定の制限はあるものの、特に資格などはなく、基本的には、未成年の子の養育を適切に行える者であれば、誰でもなることができます。
通常、未成年後見人になるのは、子の親族ですが、弁護士がなることもありますし、法人の選任も認められていますから、民間の社会福祉法人が未成年後見人になることもあります。
親権の辞退は親権の喪失・停止とは違うの?
親権の辞退はあくまでも親権者本人の申出に基づくもの
親権の辞退に似た制度として、親権の喪失・停止の制度があります。親権の辞退は、あくまでも親権者本人の申出により親権を辞することですから、たとえば未成年の子を虐待している親権者が自身の虐待を理由に親権の辞退を申し立てることは考えにくいです。
しかし、虐待を放置することは、子の利益を害することになりますから、そのまま親権者にしておくわけにもいかないでしょう。そのような場合に活用されるのが親権の喪失・停止の制度です。
親権の喪失・停止は、どのような制度なの?
親権の喪失・停止は、いずれも親権者である父または母が虐待等により子の利益を害している場合に、子、子の親族、検察官等の申立に基づき、家庭裁判所の審判により、親権のはく奪あるいは一定期間の停止を命じるものです。
親権の喪失は、原則として、永久的に親権を奪うものであるため、その要件として、子の利益を著しく害することを要件としており、従来、なかなか親権の喪失は認められず、あまり活用されていませんでした。そこで、親権の喪失の要件を緩和して、子の利益を害する場合に一定の期間、親権を停止する制度が設けられることになったのです。
なお、親権の喪失や停止の審判により、未成年の子の親権者となるべき者がいないときは、親権の辞退の場合同様、未成年後見人を選任することができます。
親権のトラブルは弁護士に相談を
親権は、親の権利であると同時に子の利益を守るための責任を伴いますから、自由に放棄することはできません。
しかし、親権を適切に行使できないやむを得ない事情のあるときには、親権者は、家庭裁判所の許可を得て親権を辞退することができます。また、親権の辞退を申し出ない場合でも、親権者による未成年の子に対する虐待等のため子の利益を害する場合には、家庭裁判所の審判により親権の喪失・停止の審判により、親権を奪うことができます。
そして、親権の辞退・喪失・停止により、未成年の子に親権者となるべき者がいないときには、親権者の代わりに家庭裁判所の審判により未成年後見人を選任することができます。
このように、親権者の養育に問題のある場合には、法律上、未成年の子を守るための制度が存在していますから、子の養育についてのトラブルに悩んでいる方は、専門家である弁護士に相談してみましょう。
当事務所では、親権問題に卓越した弁護士も在籍しており、お客様にとって最善な方向へと進めるよう全力でサポートいたします。親権問題で悩む前に、まずは当事務所までご相談ください。