同乗者の請求相手は、事故の過失で変わります。

同乗していた車が交通事故に遭い、怪我を負ってしまった場合、
同乗者は、加害者または同乗車のドライバーに対して、慰謝料を含む損害賠償金を請求することができます。

同乗者の慰謝料について

慰謝料等の請求相手は誰?

同乗者が慰謝料を含む損害賠償金を請求するのは誰に対してすればいいのでしょうか。乗っていた車両のドライバーか相手車両の運転者に対して請求する、またはその両方に請求できます(自車の運転者をドライバー、相手車両の運転者を運転者と記載しています。)。
一般的には、同乗者は車両の運転・運行になんら関わっていないことが通常ですから、当該交通事故について過失はないということになります。また、追突をされたという場合は、ドライバーに過失がないため、相手車両の運転者にのみ請求することができます。

「相手方とドライバーのどちらに対して損害賠償金を請求するのか」「自賠責保険の場合と任意保険の場合」「ドライバーと同乗者との関係性」「同乗者の過失」等の事情によって、同乗者が損害賠償金を請求できない場合や、請求できても減額される場合があります。また、交通事故の過失割合によって、損害賠償金を請求できる相手が変わる場合もありますので注意が必要です。

同乗者の慰謝料相場

損害賠償金の一部である慰謝料には、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の3種類があり、慰謝料の算定基準にも、自賠責基準・任意保険基準・裁判(弁護士)基準の3種類があります。各基準での慰謝料相場は、被害に遭ったドライバーが請求するか同乗者が請求するかで変わることはありません。

過失責任と慰謝料請求の関係

一般的には、同乗者は運転に関わることがないため、過失がないといえます。したがって、ドライバーの過失割合に関わらず、全額の請求ができますし、同乗者が請求できる損害賠償金がドライバーの過失によって変わることはありません。
ただし、ドライバーが、同乗者の同居の家族等生計を一にしている場合は、ドライバーの過失が同乗者の過失として扱われます。
また、ドライバーに過失が認められる場合で、交通事故の起因について同乗者にも過失があると判断されたときには、ドライバーの過失割合に応じて、請求できる損害賠償金額の減額が考えられます。

ドライバーに過失がない場合

ドライバーと運転者の過失割合が、0:10であって、ドライバーに過失がない場合、同乗者が損害賠償金を請求することができる相手は、加害者である相手車両の運転者になります。ドライバーには過失がなく、損害賠償をする義務を負っていないためです。
同乗者は、相手方の保険会社に、慰謝料を含めた損害賠償金の全額を請求することになります。

双方に過失がある場合

ドライバーに一定の過失が認められ、相手方とドライバー双方に過失がある場合、同乗者は相手方とドライバー双方に対して損害賠償金を請求できます。相手方とドライバー双方に過失があり、どちらも損害賠償をする義務を負っているためです。

ドライバーの単独事故・相手に過失がない場合

ドライバーの単独事故、または交通事故の相手方運転者に過失がない場合、同乗者が損害賠償金を請求することができる相手は、ドライバーになります。
そのため、ドライバーを加害者として、ドライバーの保険会社に慰謝料を含めた損害賠償金の全額を請求することになります。

同乗者の過失により損害賠償金額は減額されることがある

同乗者は、車両の運行・運転に影響しないのが通常ですが、例外的に運行・運転に影響する場合に、同乗者に過失があるとされることがあります。その場合には、過失の割合に応じて、損害賠償金額は減額されることになります。
具体的には、以下のケースで、同乗者に過失があったとみなされます。その他、同乗者がしつこくドライバーに話しかける等して運転の邪魔をした場合や、同乗者が車の窓枠に腰をかけて身を乗り出す“箱乗り”を行っていた場合等にも、同乗者に過失があったとされ、損害賠償金額が減額される可能性があります。

ドライバーが飲酒運転だと知っていた

ドライバーが飲酒運転だと知っていながら同乗した場合、同乗者が請求できる損害賠償金額は、一定程度減額されることがあります。

ドライバーが無免許だと知っていた

ドライバーが無免許だと知っていながら同乗した場合、同乗者の過失として20%の過失割合が認められた事例があります。

危険な運転を止めなかった・煽った

ドライバーが、危険運転をしていることに対し、同乗者が注意する等して止めなかった、または煽った場合、同乗者が請求できる損害賠償金額は、その程度に応じて減額されることがあります。

好意同乗・無償同乗は慰謝料減額に繋がるか

好意同乗・無償同乗とは、ドライバーの好意によって無償で乗せてもらうことです。例を挙げると、以下のようなケースは好意同乗・無償同乗であるとみなされます。

  • 友人等が車で出かけるついでに、目的地まで乗せてくれた
  • 歩いていたところ、友人等が車で通りかかって、拾って乗せてくれた
  • 出かけた先でたまたま会った友人等が、車で送迎してくれた

交通事故で、同乗者がドライバーに損害賠償請求する場合に、好意同乗・無償同乗であったときには損害賠償金額が減額されるかどうか、という議論が過去にはありました。運転者の好意によって無償で乗せてもらうという利益を得ていながら、損害が生じたときにだけ運転者に損害賠償請求をすることは、不公平ではないかと考えられていたためです。しかし、最近の判例では、好意同乗・無償同乗であったことのみで損害賠償金額が減額されることは少なくなり、好意同乗・無償同乗した同乗者に交通事故発生の帰責性がある場合には、損害賠償金額が減額される可能性がある、という傾向にあります。

かなり古い議論でもあります。昨今、保険会社から好意同乗を理由に減額するという主張をされることはなくなったように思えます。