交通事故被害で鬱病やPTSDなど、精神的な後遺障害が残った場合
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目次を表示鬱病やPTSDなどの精神的なものでも後遺障害と認定される
交通事故での後遺症と聞くと、脊髄損傷やむちうちといった身体的な障害を想像する人が多いでしょう。
しかし、後遺障害として認められるのは身体的な障害だけではありません。
交通事故によって精神的ダメージを受け、鬱病やPTSDといった精神的障害が残った場合、これらも後遺障害に認定され得ます。
さて、鬱病やPTSDといった精神的後遺障害の特徴は、物理的な身体の損傷から生じるものではないというところにあります。
こうした精神的後遺障害は、「非器質性精神障害」と呼ばれ、身体の損傷が原因となって生じる精神障害(「器質性精神障害」)と区別されているのです。
非器質性精神障害には、鬱病やPTSDの他、パニック障害やノイローゼ、統合失調症なども含まれます。
医学的に立証されなければならない
ただし、精神的後遺症が後遺障害等級認定され得るとはいっても、その精神障害は医学的に説明できるものでなければなりません。
当然のことですが、被害者が、
「事故で本当に辛い思いをした、今でもときどき思い出して眠れなくなる、これは精神的後遺症だ!」
と考えたからといって、後遺障害等級が認定されるわけではないのです。
後遺障害等級の認定に際しては、お医者さんの診断書が最重要書類となります。
非器質性精神障害は外からみて明らかな身体の損傷があるわけではないので、特にその判断が難しい後遺障害の一つです。
そのため、精神科の専門医の資格を持つお医者さんに診断書を書いてもらうことが正確な認定のための第一歩であると言えます。
さらに、後遺障害等級に認定されるためには、鬱病などの精神疾患が認められるだけでは足りません。
厚生労働省が通達で定めた一定の基準(『神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について』のことです。)を満たさなければならないのです。
事故との因果関係が認められる為に
後遺障害等級認定されるためには、障害と事故との間に因果関係が認められなければなりません。
しかし、非器質性精神障害については、この因果関係の存在を示すことも難しい場合が多いのです。
鬱病などの精神障害は、複数の要因が絡み合って生じると考えられるためです。
例えば、もともとの本人の気質(凹みやすい、神経質、など)や家庭環境、事故に遭ったことによる生活の変化などが事故後の被害者の精神状態に影響を与えると考えられます。
そうしたたくさんの要因がある中で、どこまで「事故のせい」といえるのかを判断するのは専門家でも大変難しいのです。
仮に、事故と精神障害との間に因果関係が認められ、後遺障害等級認定されたとしても、加害者側が「被害者本人の気質も鬱病の要因となった」と主張すると損害賠償額が減額される可能性もあります。
被害者側が、後遺障害等級認定と十分な損害賠償金獲得のためにできることは、事故以外に精神を病む要因がなかったということをしらみつぶしに示していくことです。
例えば、過去に精神疾患に罹患したことがないこと、事故に遭うまでは問題なく会社で働いていたこと、家族関係が良好であること、などを示すのです。
また、調子が出ないと思ったらできるだけ早く精神科の専門医に相談することも重要です。
事故後、しばらくしてから精神疾患に罹患する人ももちろんいます。しかし時間が経てば経つほど、事故との因果関係は疑わしいと考えられてしまいます。
後遺障害全てについて同じ事が言えますが、症状が出たらすぐにお医者さんに診てもらうことが何より大事なのです。
症状固定のタイミングはどこか
症状固定とは、「これ以上は回復しえないというところまでケガなどが回復した状態」を指します。
交通事故で被害者がケガなどを負った場合、症状が固定した後にもまだ残っている障害が後遺障害と認定されます。
つまり、ケガをしてから症状が固定するまでの間は、最終的に被害者がどこまで回復し、どの程度の障害が後々まで残るのかが判然としないので、後遺障害を認定できないのです。
症状固定のタイミングはケガなどであれば比較的わかりやすいのですが、非器質性精神障害の場合はどのように判断するのでしょうか。
これについて厚生労働省は、
「原則として各種の日常生活動作がかなりの程度でき、一定の就労が可能となる程度以上に症状がよくなった時期」
を症状固定のタイミングと考えるとしています。
つまり、元の仕事に復帰できる場合はもちろんのこと、復帰できない場合であっても、他の仕事であれば行えるような状態にまで回復すれば、症状は固定したと言える、と考えているのです。
また、事故後、平均的な療養期間(2~3年)を過ぎ、それ以上回復する見込みがない場合であって、本人の意欲の低下等によって就労はできていないけれど日常生活は十分に送れているという人については、就労していなくても症状固定したと判断すべきとしています。
鬱病やPTSDによる後遺障害等級
鬱病などの非器質性精神障害によって認められうる後遺障害等級は以下の通りです。
- 14級(通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの)
- 12級(通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの)
- 9級(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの)
これらのいずれに属するかは非常に微妙な問題であるため、弁護士・医師とよく相談しながら後遺障害等級の申請書類を作成しましょう。
正確な後遺障害等級認定のためには早めの対策が重要ですので、まずは一度、交通事故に詳しい当事務所にご相談ください。