接近禁止命令とは?DV被害の申立て方法と期間を弁護士が解説

接近禁止命令とは?DV被害の申立て方法と期間を弁護士が解説

監修者 弁護士法人キャストグローバル

離婚部弁護士

パートナーからのDVに苦しみ、身の危険を感じている場合、「接近禁止命令」が有効な法的手段となります。
接近禁止命令とは、裁判所が加害者に対して被害者へのつきまといなどを禁じる制度です。
この記事では、DV被害を受けている方が接近禁止命令を申し立てるための具体的な方法、必要な期間、弁護士に相談するメリットについて解説します

接近禁止命令とは?DVやストーカーから身を守るための法的措置

接近禁止命令とは、配偶者(元配偶者)からの暴力やストーカー行為など、生命や身体に危害が及ぶ可能性がある場合に、被害者を守るための法的な措置です。
裁判所を通じて加害者に対し、被害者の身辺への接近やつきまといなどを禁じるもので、DV防止法に基づいています。

これにより、加害者の行動を制限し、被害者の安全を確保します。

裁判所が加害者のつきまとい等を1年間禁じる命令(接近禁止命令)

接近禁止命令が発令されると、加害者は被害者の住居や勤務先など、通常生活を送る場所の周辺をつきまとったり、徘徊することが禁止されます
この命令の有効期間は、以前は6ヶ月間でしたが、法改正により2024年4月1日以降に発令されるものは原則として1年間となりました。
この期間中、加害者は法的に被害者から距離を置くことを強制され、被害者の安全が守られます

命令に違反した場合の罰則【2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金】

裁判所から発令された接近禁止命令に加害者が違反した場合、厳しい罰則が科されます。
具体的には「2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります。
以前は「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」でしたが、法改正により罰則が強化されました。

これは命令により実効性を持たせるための改正です。万が一、違反行為があった場合は、すぐに警察に通報しましょう

対象は配偶者や恋人【事実婚や元恋人も含む】

接近禁止命令の対象となる「配偶者」には、法律上の婚姻関係にある相手だけでなく、事実婚の相手と同棲している交際相手も含まれます。
また、離婚後も引き続き暴力などの危険がある場合は、元配偶者に対しても申し立てが可能です。
同棲していた元交際相手も対象となります。

接近禁止命令が認められるための具体的な2つの条件

接近禁止命令を出すには、法律で定められた2つの条件を両方満たす必要があります。
単に「相手に会いたくない」という理由だけでは認められません。
裁判所が命令を出すかどうかは、被害の深刻さや今後の危険性を客観的な事実に基づいて判断します。

次の条件に自身の状況が当てはまるか確認することが重要です。

1. 配偶者からの身体的暴力または生命等に対する脅迫を受けたことがある

一つ目の条件は、配偶者から身体的な暴力を受けた事実、または生命、身体や財産に対して危害を加える旨の脅迫を受けたことがあることです。
ここでの身体的暴力には、殴る、蹴るといった行為だけでなく、物を投げつけられて怪我をした場合なども含まれます。
過去に一度危険な目にあったことが、申し立ての前提となります。

2. 今後、身体に対する暴力により生命・心身に重大な危害を受けるおそれが大きい

二つ目の条件は、今後、配偶者から身体的な暴力を受け続けることで、生命や心身に重大な危害が及ぶ危険性が高いと認められることです。
過去の暴力の態様、頻度、加害者の言動などから、このままでは再び暴力を振るわれ、深刻な事態に陥る可能性が高いと裁判所が判断する必要があります。
単なる可能性だけでなく、客観的に見て危険性が大きいと評価されることが求められます。

接近禁止命令を申し立てるための4つのステップ

接近禁止命令の申し立ては、適切な手順を踏んで進める必要があります。
まず専門機関に相談し、その後、裁判所で手続きを行うのが一般的な流れです。
ここでは、実際に申し立てを行い、命令が発令されるまでの具体的な4つのステップを順番に解説します。

ステップ1:警察署や配偶者暴力相談支援センターへ事前に相談する

接近禁止命令を申し立てる前に、まず警察署の生活安全課や、各都道府県に設置されている配偶者暴力相談支援センターへ相談しましょう。
これらの機関でDV被害の状況を説明し、相談したという事実は、後の裁判所での手続きにも利用できます。
配偶者暴力相談支援センターに相談することで、専門家からの助言や今後のサポートも受けられます。

参考:配偶者暴力相談支援センター | 内閣府男女共同参画局

ステップ2:地方裁判所に申立書と証拠を提出する

次に、自身の住所地または相手方の住所地を管轄する地方裁判所へ、接近禁止命令の申立書を提出します。
接近禁止命令を出すには、申立書に被害の状況を具体的に記載し、暴力を受けたことを裏付ける証拠を添付します。

ステップ3:面接、審尋を受ける

申立書を提出すると、裁判官の面談を受けて、実情等を具体的に伝えます。次に、口頭弁論または相手方が立ち会うことのできる審尋という手続きが行われます。
審尋では、申立書に記載した内容に基づき、被害の状況や今後の危険性について裁判官から質問されます。
ただし、期日を行うことに危険がある場合は、相手方は呼ばれず、申立人のみが非公開の場で話を聞かれます。

ここで、自身の言葉で被害の実態を伝えることが重要です。

ステップ4:裁判所から保護命令が発令される

審尋を経て、裁判官が申し立ての要件を満たしていると判断した場合、加害者に対して接近禁止命令を含む保護命令が発令されます。
命令は加害者に直接送達されるか、裁判所で呼び出されて言い渡されます。
発令されると法的な効力が生じ、加害者は命令に従う義務を負います。

通常、申し立てから1週間から2週間程度で発令されるケースが多いです。

申し立てに必要な書類・証拠と費用の目安

接近禁止命令の申し立てを円滑に進めるためには、事前の準備が重要です。
具体的には、申立書をはじめとする必要書類の用意、暴力の事実を証明するための証拠収集、そして手続きにかかる費用の把握が必要です。

弁護士に依頼するかどうかで費用も変わるため、それぞれの目安について確認しておくとよいでしょう。

申立てに必要となる書類一覧

申し立てには、以下の書類を準備する必要があります。裁判所のウェブサイトで書式を入手できる場合もあります。

  • 保護命令申立書
  • 当事者目録(申立人と相手方の情報)
  • 陳述書(被害の詳細を記載)
  • 戸籍謄本(夫婦関係を証明)
  • 住民票(住所を証明)
  • 警察や配偶者暴力相談支援センターへの相談書
  • 証拠資料の写し

暴力を証明するための有効な証拠の例

裁判所にDVの事実を認めてもらうためには、客観的な証拠を提示することが極めて重要です。ご自身の身を守るための接近禁止命令を確実に勝ち取るためにも、以下のような記録を可能な限り集めておきましょう。

  • 怪我の部位や程度がわかる写真(撮影日が記録される設定にすること)
  • 医師による診断書(受診時には原因が暴力であることを医師に伝える)
  • 暴言や脅迫の内容を記録した音声データや動画
  • 脅迫的な言葉が含まれたメール、LINE、SNSのスクリーンショット
  • 夫に壊された家具、家電、壁、衣類などの写真
  • 警察や配偶者暴力相談支援センターなど、公的機関への相談記録
  • 被害の日時、場所、状況、夫の言動を詳細に書き留めた日記やメモ

これらの証拠は一つだけでなく、複数を組み合わせることで証明力が増し、裁判所に被害の深刻さを正確に伝えることができます。外傷がない場合でも、日々の記録や相談実績があなたを守る大切な武器となります。

自分で手続きする場合の費用内訳

弁護士に依頼せず、自分で申し立て手続きを行う場合の主な内訳は以下の通りです。

  • 申立手数料(収入印紙):1,000円
  • 郵便切手代:2,000円程度(裁判所により異なる)
  • 戸籍謄本や住民票の取得費用:数百円

合計で数千円程度が目安となります。
ただし、書類作成や手続きのすべてを自分で行う必要があるため、手間や時間がかかります。

弁護士に依頼する場合の費用相場

接近禁止命令の申し立てを弁護士に依頼する場合、法律事務所によって費用は異なりますが、一般的には着手金と成功報酬が必要になります。
着手金の相場は20万円から40万円程度、成功報酬は10万円から20万円程度が目安です。
弁護士に依頼することで、書類作成から裁判所への対応まで一任でき、精神的な負担を軽減できるほか、命令が発令される可能性も高まります。

接近禁止命令と併せて利用できる4つの保護命令

接近禁止命令は、DV防止法に定められた「保護命令」の一つです。
被害者の状況に応じて、つきまといの禁止だけでなく、さらに別の行動を制限する命令を併せて申し立てることができます。
ここでは、被害者の安全をより確実に守るために利用できる4種類の保護命令を紹介します。

1. 電話やメール、SNSでの連絡を禁止する命令(電話等禁止命令)

電話等禁止命令は、加害者が被害者に対して行う、面会の要求、無言電話、連続した電話やメール、SNSでのメッセージ送信など、ストーカー行為に類する特定の行動を禁止する命令です。
接近禁止命令と同時に申し立てることで、物理的な接触だけでなく、精神的に追い詰める連絡行為からも解放され、平穏な生活を取り戻すことにつながります。

2. 子どもへのつきまといを禁止する命令(子への接近禁止命令)

子どもを連れて避難しているにもかかわらず、加害者が子どもに接近しようとするケースがあります。
例えば、学校や保育園の周辺をうろつくなどです。
このような場合、子どもが連れ去られる危険を防ぐために、子への接近禁止命令を申し立てることができます。

親子ともに安全を確保するために重要な命令ですが、子どもが15歳以上の場合は本人の同意が必要です。

3. 親族などへのつきまといを禁止する命令(親族等への接近禁止命令)

加害者が被害者の実家や親族の家に押しかけるなどして、間接的に被害者を追い詰めようとすることがあります。
被害者の親族などの身辺につきまとい、著しく社会生活を害する行為を防ぐために、親族等への接近禁止命令を申し立てることが可能です。

これにより、被害者本人だけでなく、助けてくれる周囲の人々の安全も守ることができます。

4. 一定期間、家から退去させる命令(退去命令)

被害者が子どもを連れて家を出ることが困難な場合や、引越しの準備をする時間が必要な場合に、加害者に対して一定期間、同居している家から退去することを命じるのが退去命令です。
この命令の有効期間は2ヶ月間または6ケ月間で、その間に被害者は安全な場所へ避難する準備を進めることができます。
被害者が安心して新生活の準備をするための時間的猶予を確保する目的があります。

接近禁止命令の有効期間と延長・取り消しの手続き

接近禁止命令が発令された後も、その効果がいつまで続くのか、また状況が変わった場合にどうすればよいのかを理解しておくことは重要です。
ここでは、命令の有効期間や、期間を延長するための手続き、さらには命令を取り消したい場合の手続きについて解説します。

命令の有効期間は原則として発令から1年間

接近禁止命令の有効期間は、2024年4月1日の法改正以降に発令されたものについては、原則として1年間です
それ以前は6ヶ月間でしたが、被害者をより長期間保護するために伸長されました。
この1年間、加害者は命令に拘束され、違反すれば罰則の対象となります。

被害者はこの期間を利用して、生活の再建や安全確保のためのさらなる措置を講じることができます。

有効期間を延長するための再申立て手続き

1年の有効期間が満了した後も、引き続き加害者からの暴力によって生命や心身に重大な危害を受けるおそれが大きいと判断される場合には、再度申し立てを行うことで、期間を延長することが可能です。
これは「再度の申立て」と呼ばれ、改めて裁判所に保護命令を申し立てる手続きが必要です。
自動的に延長されるわけではないため、期間満了前に準備を進める必要があります

命令の取り消しを求める場合の手続き

接近禁止命令が発令された後、状況の変化により命令が必要なくなった場合、申立人(被害者)はいつでもその取り消しを申し立てることができます
また、加害者側も、命令の要件が存在しなくなったことなどを理由に取り消しを求めることが可能です。その場合、申立人が命令を取り消すことに意義がないことが必要となるため、勝手に取り消されるということはありません。
いずれの場合も、地方裁判所に「保護命令の取消しの申立て」を行う必要があり、裁判所が事情を審理して取り消しの可否を判断します。

接近禁止命令の申し立てで注意すべき3つのポイント

接近禁止命令の申し立ては被害者の安全を守る強力な手段ですが、手続きを進める上ではいくつか注意すべき点があります。
証拠の重要性や個人情報のリスク、命令違反時の対応など、事前に知っておくべきポイントを把握しておくことで、より確実に自身の安全を確保できます。
弁護士や警察との連携も視野に入れておくとよいでしょう。

証拠が不十分だと発令されない可能性がある

接近禁止命令は、裁判所が客観的な事実に基づいて発令を判断するため、証拠が不十分な場合は申し立てが認められない可能性があります
被害者の証言だけでは、暴力の事実や今後の危険性を立証するのが難しい場合があります。
そのため、診断書、写真、録音データなど、できるだけ多くの客観的な証拠を集めることが、命令を確実に発令してもらうための鍵となります。

申立てにより相手に現在の住所が知られるリスクへの対策

接近禁止命令を申し立てると、原則として相手方に申立書が送付されるため、そこに記載された住所を知られてしまうリスクがあります。
このリスクを避けるため、DV防止法では、申立書に住所を記載しないように求めることができます。

ただし、その場合は弁護士の住所を代わりに記載するなど、連絡先を確保する必要があります。
事前に弁護士に相談し、安全な方法で手続きを進めることが重要です。

命令違反があった場合にすぐ警察へ通報する準備

接近禁止命令が発令されても、加害者がそれに従わず違反する可能性はゼロではありません。
万が一、命令に違反してつきまといなどの行為があった場合に備え、すぐに警察へ通報できるように準備しておくことが大切です。
保護命令決定書の写しを常に携帯し、何かあればためらわずに110番通報しましょう。

迅速な通報が、警察による適切な対応と自身の安全確保につながります。

接近禁止命令に関するよくある質問

ここでは、接近禁止命令に関して多く寄せられる質問にお答えします。
離婚後の申し立てや、手続きを自分で行うことの可否、命令違反時の警察の対応など、具体的な疑問を解消し、より深く制度を理解するためにお役立てください。

Q. 離婚した後でも元配偶者に対して申し立てはできますか?

離婚した後でも元配偶者に対して申し立ては可能です。
DV防止法では、元配偶者から引き続き暴力を受けるなどして生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きい場合も保護の対象としています。
婚姻中に受けた暴力が原因で離婚した場合などがこれに該当します。

Q. 弁護士に依頼せず、自分一人で手続きを進めることは可能ですか?

弁護士に依頼せず自分一人で手続きを進めること自体は可能です。
申立書の作成や証拠の収集、裁判官との面談など、専門的な対応が求められる場面があります。
手続きを正確かつ迅速に進め、命令発令の可能性を高めるために、弁護士に相談することをおすすめします。

Q. 相手が命令に違反したら、すぐに逮捕してもらえますか?

命令違反は刑事罰の対象ですが、必ずしもすぐに逮捕されるとは限りません。
警察は、通報を受けてから状況の確認や証拠の収集を行い、必要に応じて逮捕手続きを進めます。
危険が迫っている場合は、ためらわずに110番通報し、保護命令が出ていることを明確に伝えてください。

まとめ

接近禁止命令は、DVや脅迫から被害者の生命と安全を守るための法的な制度です。
配偶者や交際相手からの暴力に苦しんでいる場合、裁判所に申し立てることで、加害者のつきまといなどを法的に禁じることができます。
手続きには証拠の準備や専門機関への事前相談が必要ですが、弁護士に相談することで、より安全かつ確実に進めることが可能です。

身の危険を感じたら、一人で悩まず専門家や公的機関に相談することが第一歩です

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