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離婚・慰謝料 解決事例、コラム

当事務所で解決した離婚・慰謝料事例の一部のご紹介となります。

女性
性別:
女性
年代:
40代
子ども:
あり

離婚後に元配偶者の親族から多額の日常家事債務の履行請求を受けたケース

1 相談内容

ご依頼者様は、離婚成立から数年後に、元配偶者の親族から多額の貸金返還請求訴訟を提起され、困惑してご相談に来所されました。
事情としては、ご依頼者様と元配偶者との婚姻生活の間、約20年に渡って、元配偶者が自身の親族から継続的にお金を借りていたという主張で、これについて返還を求めるものでした。
元配偶者の親族からは、ご依頼者様と元配偶者との離婚問題が持ち上がった後、直接ご依頼者様に対して元配偶者に対する貸金の返済を求められており、何度も何度も請求されていたことや、元配偶者が親族からの貸金について詳細を述べないものの、元配偶者自身が親族から何らかの金員を受け取っていたこと自体は否定しなかったことから、一旦数百万円の金員を元配偶者の親族の求めるままにお支払いした事実があるとのことでした。
原告である元配偶者の親族の主張内容からすると、本来借主と貸主という対立関係であるはずの元配偶者と原告が事実上意思を通じていることが伺われる事情があり、実体としては養育費の額などに納得がいっていない元配偶者と原告が、貸付金の返済という形で金銭を要求しているのではないかという懸念もお持ちのようでした。

2 (元)配偶者の婚姻生活中に借りた借金を返す義務?

原告の主張は、ご依頼者様の元配偶者に対して、婚姻生活の間に貸したお金を返して欲しいというものです。
そもそも、自分が借りたものではないのに、自分の配偶者が借りた金銭の返済義務があるのでしょうか。
原則として、借金の返済の責任を負うのは、自分が返すと約束して借りた場合や自分が誰かの連帯保証人や連帯債務者になることを合意した場合です。
親だから、子どもだから、夫婦だからといって、当然に他の人が借りた借金の返済義務は発生しません。
ただし、民法には、配偶者・例えば夫が知らないうちに妻が借りたお金について、一定の範囲で夫婦の連帯責任を認める規定があります。
これが「日常家事債務」というもので、民法761条には「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。」という形で定められています。
日常家事債務について、夫婦連帯責任を定めている趣旨としては、日常の家事は夫婦共同の仕事なので、それに伴う債務も共同の債務とすべきであるという考え方(どちらか一方が負担すべきものではない)と、法律行為の相手方としても日常家事に関する取引に関しては夫か妻かではなく夫婦双方を相手方と考えるであろうから、このような認識で取引をした相手方を保護する必要があるという考え方によるものと説明されています。
このような規定の背景としては、明治憲法の時に、日常の家事については妻は夫の代理人とみなすとの規定があったものについて、夫婦平等の見地から連帯責任に改めたものであるという経緯があります。
そこで、問題となってくるのが、「日常の家事に関して」という「日常家事債務」の範囲をどのように解釈するかという問題です。
前述の規定の経緯や趣旨からすると、想定されていたのは、資産力のない妻が、近所の八百屋や酒屋などでツケ買いをする時に、いちいち夫の同意を求める必要もないような(八百屋や酒屋としても、いちいち日常的な買い物のツケ買いについて夫の代理権を確認しなければならないのは煩雑に過ぎる)場合です。
とすれば、借入の目的や実際の使い道なども考慮の上で、あまりに高額な借財などは日常家事債務の範囲を超えるものといえるでしょう。
本件では、後述する通り、争点はたくさんありましたが、一番の大きな争点は、今回のご依頼者様の元配偶者に原告が貸し付けたという金銭が、はたして「日常家事債務」といえるのかどうかという点であったと思います。

3 主な争点

本件では双方から様々な主張がなされ、争点は以下の争点以外にもありましたが、主要なものは以下の3点になります。
争点1 貸付の事実があったのかどうか
争点2 日常家事債務(配偶者として連帯債務を負っている)といえるのか
争点3 日常家事債務である信じたことに正当な理由があるといえるのか

(1)争点1 貸付の事実があったのかどうか。

親族間貸付の場合、借用書が作成されないケースが多いので、まずは貸付の事実が あったのかどうか(金銭交付の事実があったのかどうか+贈与ではなく貸付といえるの か)という点が問題になりやすい点になります。
本件でも例にもれず借用書等は作成されていない上に、約20年間にわたる長期的な 貸付が主張されており、根拠として提出されたのは原告(貸主側)が作成した日付と金 額を記載したメモのみでした。原告側証人である借主の元配偶者の証言としては、詳細 な記憶はないが、原告のメモがあるならその通りだろうという程度にとどまりました。
金銭交付の有無自体については、ご依頼者様の知らないうちに現金で行われたものでしたし、その多くは1~2万円という金額なので、ご依頼者様としては金銭交付がなかったという積極的な主張や証拠があるわけではありませんでした。
貸付なのか親族間援助(贈与)なのかという点については、約20年間の間、ほとんど返済が受けられていないまま金銭交付が続けられていることや、返済を期待していない様子がうかがわれる記載もあるという点などを主張して、貸付ではなかったという主張を行っていました。
裁判所は、個別の金銭授受に関する事実認定までは行わず、元配偶者が原告に対して約20年間の婚姻生活の期間中に複数回にわたって車検代や出産費用等の名目で借り入れを申し込み、これに応じて原告が貸し付けを行ったという事実認定がなされました。

(2)日常家事債務といえるのか

本来は、約20年間にわたる貸付といっても、いわゆる消費者金融のクレジット利用等とは異なり、基本契約があるような継続的貸付といえない限り、個別に借り入れの理由・内容に応じて、一つ一つの借入について日常家事債務といえるかどうかが問題になるはずです。
しかしながら、原告の主張の仕方にも影響を受けたのかもしれませんが(原告は基本契約がある継続的貸付であるとの主張をしていました)、裁判所としても前述の通り、ひとつひとつの借入についての事実認定まではしていませんでした。
そして、裁判所は、約20年間に渡る継続的な貸し付けであって、総額が多額にのぼることや、ご依頼者様に貸し付けの事実が伝えられないまま長期間貸し付けを継続していたことなどを認定し、借入の目的や実際の使途が、仮に生活費や教育費に充てられていたとしても、日常家事債務には該当しないと判断しました。

(3)日常家事債務である信じたことに正当な理由があるといえるのか

日常家事債務の範囲を超えると判断された場合に、日常家事債務の範囲内であると信じて法律行為を行った第三者は一切保護されないのかという問題があります。
これまで述べてきたとおり、日常家事債務の範囲内かどうかということについては、明確な基準が確立されているわけではないですし、夫婦の一方が日常の家事のための借入だと伝えて借りたとしても、実際には夫婦の日常家事とは無関係なことにお金を使ってしまっているような場合もあります。
そこで、実際には日常家事債務の範囲を超える法律行為であったとしても、取引の相手である第三者が、日常家事債務の範囲内の法律行為と信じてもやむを得ないような事情がある場合には、やはり取引相手である第三者を保護する必要があると考えられています(判例)。
これは、状況としては、代理権を与えた代理人が、代理権限の範囲を超えた法律行為をしてしまった場合と、取引相手としては類似の状況ではないかという考え方です。
とはいえ、なんでもかんでも、日常家事債務の範囲内と信じたから、といって、夫婦の連帯責任を認めてしまっては、知らない間に責任を負わされてしまう夫婦の一方にとっては不公平な結果になってしまいます。
そこで、取引相手の保護と知らない間に連帯責任を負わされてしまう夫婦の一方の保護とのバランスを考慮しながら、取引相手が、問題となっている法律行為について「日常家事債務の範囲内だと信じたことに正当な理由があったかどうか」ことを判断することになります。
本件では、この点についても原告から主張がなされていましたが、裁判所としては、やはり金額が日常家事債務の範囲内というにはあまりにも多額であったことや、ご依頼者様が長期間にわたって貸付の事実を知らなかったこと、原告自身も当初はあえてご依頼者様に貸し付けの事実を隠そうとしていたことが伺えることなどを理由に、「日常家事債務と信じた正当な理由があるとは認められない」と判断しました。

4 結論

結論としては、裁判所は、原告側の日常家事債務であるという主張も、日常家事債務と信じる正当な理由があったという主張も退けたため、訴えは棄却という形になりました。
訴訟としては、原告側の完全敗訴になりますので、当初は原告から多額の金銭の請求が来たことに不安を抱いていらっしゃったご依頼者様にも大変喜んでいただき、ご安心頂くことが出来ました。

5 まとめ

本件では、約20年に渡る事実関係の問題でもあったため、事実関係自体の争いもたくさんありました。法的にも、上記以外にも、時効の問題・債務免除の有無・債務承認の有無など、多くの争点があり、同じ事実でもどのように法律構成するかによって主張内容が変わってくる可能性がありました。
訴訟に関しては、訴訟提起されてすぐにご相談いただけたので、たくさんの争点について、事実関係の意味付けや争点との関連性を考えながら戦略的な訴訟活動が出来たので、こちらが被告側という防衛戦ではありますが、守りきることが出来ました。
本当は、最初に返還を求められた時にご相談いただければ良かったのですが、友人やご親族との金銭トラブルとなると、そんなに揉めると思っていなかったり、逆に弁護士を入れると事が大きくなってしまうのではないかというご不安で弁護士へのご相談に躊躇いを感じられる方も多いようです。
実際に代理人として弁護士を依頼するかどうかということも含めて、まずは一旦弁護士に相談するということも選択肢の一つに持っていただければ幸いです。

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