脊髄損傷のメカニズム

交通事故の態様によっては、当事者のどちらかまたは両方が脊髄損傷という大けがを負うことがあります。
しかし、「脊髄損傷」が大けがだということは何となくわかっていても、具体的にどこがどう損傷して、どのような症状が生じるのかは知らないという人も多いのではないでしょうか。

脊髄損傷とは読んで字のごとく、脊髄が傷つくことです。
脊髄とは、脊柱管という背骨の中の管に収まっている神経の束で、この脊髄と脳とを合わせて中枢神経と呼びます。

身体の外側から脊柱に強い力が加わると、中にある脊髄も損傷・圧迫を受けてしまいます。
そうなると、損傷・圧迫を受けた部分から先の部位には脳からの命令が上手く伝わらなくなりますし、また反対に、感覚器官から脳への情報伝達にも支障を来すのです。

脊髄損傷の症状と麻痺の程度

では、神経伝達がうまくいかなくなると、どういった問題が生じるのでしょうか。
脳からの命令が伝わらなくなるというのは、思うように身体が動かせなくなることを意味します(このことを「麻痺」と呼びます。)。
また、感覚器官から脳へ情報伝達ができなくなるというのは、熱い、痛いといった感覚がなくなり、何も感じられなくなることを意味するのです。

麻痺の程度は、脊髄がどのくらいひどく損傷を受けたかによります。
最悪の場合、脊髄が完全に断裂してしまうと、そこから先の身体の部位は完全に動かなくなってしまうのです。しかし、一部の損傷にとどまる場合は、少しであれば自分の意志で動かせることもあります。

また、麻痺の範囲は脊髄損傷を受けた位置によって決まります。
脳と身体の各部位を繋ぐのが脊髄の役目なので、損傷によって影響を受けるのはその損傷から先、つまり脳と反対側の部位ということになります。
腰のあたりの低い位置に損傷が生じた場合、腕や呼吸器には影響はありません。それより下の、脚に麻痺が生じることになります。
しかし、首のあたりの高い位置で損傷が生じた場合、腕も脚も、胸も影響を受けます。場合によっては呼吸器が麻痺し、人工呼吸器無しでは生存できなくなるのです。

脊髄損傷は治療可能か

このように、身体に重大な影響を及ぼす脊髄損傷ですが、治癒することはあるのでしょうか。

実は、現代医学の力では、損傷した脊髄を治癒することはできません
できるのは、被害者の体調を管理して現状を維持し、リハビリテーョンを施すことで、麻痺を抱えた身体で生活することに馴らすことだけです。

このように永続的に重大な影響をもたらすことから、脊髄損傷は交通事故によるケガの中でも最も重いものの一つと捉えられているのです。

脊髄損傷の後遺障害等級

脊髄損傷によって認められうる後遺障害等級と自賠責保険から支払われる慰謝料の金額は以下のとおりです。

12級
(局部に頑固な神経症状を残すもの)
93万円
9級
(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)
245万円
7級
(神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの)
409万円
5級
(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)
599万円
3級
(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの)
829万円
2級
(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの)
1163万円
1級
(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)
1600万円

脊髄損傷という後遺症の重大さを鑑みて、最も自賠責保険金額の上限額や慰謝料金額の高い1級まで認められうることになっています。

そして、事故の当事者間の合意や裁判によって決まる慰謝料の金額にも、この後遺障害等級が大きく影響を与えています。
なぜなら、後遺障害等級は第三者機関が細かな基準を用いて後遺症の程度を厳しく判定した結果であるため、公平な慰謝料金額を決めるにあたって非常に有用であると考えられているためです。

具体的には、脊髄損傷の後遺症についての慰謝料の相場は、後遺障害等級1級であれば2800万円、2級であれば2370万円、3級で1990万円、5級で1400万円、7級で1000万円、9級で690万円、そして12級で290万円となっています。
合意や裁判によってこうした自賠責基準より高額な慰謝料金額が定められた場合、加害者本人や任意保険会社は、自賠責保険から出た慰謝料分を差し引いた残りの金額を被害者に支払うことになります。

ちなみに、以上は慰謝料についての話でしたが、交通事故に関する損害賠償には慰謝料の他に逸失利益積極損害といったものがあります。
これらは直接的に後遺障害等級によって金額が決まるわけではなく、後遺症の労働力への影響や、実際に入院にかかった費用などを計算して算出します。
ただし、級によって自賠責から支払われる保険金の合計額の上限が定められているため、損害賠償額が高額になる場合はやはり級によって支払われる金額が異なってことになるのです。

関連記事

精度の高いMRIによる画像撮影の重要性

さて、後遺障害等級認定には介護の要否や後遺障害の程度が考慮されることになっています。
そして、後遺障害の程度を正確に認定してもらうためには、MRIによる画像所見の存在が非常に重要になってきます。なぜなら、画像というのは最も客観的に障害の程度を示すことができる証拠だからです。

脊髄のどの位置に損傷が生じているか、どの程度の損傷であるかなど、MRIでハッキリ示すことができれば、より高い後遺障害等級の認定の可能性が高まります。
しかし、場合によってはMRIを撮ってもその判読が容易でないことがあります。
そうしたMRI画像によってお医者さんに損傷を認定してもらえなかったとしても、より交通事故に精通したお医者さんが事故状況も加味した上で、より詳細に検討し、損傷を認定してくれる場合もあります。

MRIを用いた診断に納得がいかない場合は、一度弁護士に相談して、損傷を認定してもらえる可能性が少しでもないかどうか確認してみるのも一つの手です。
まずは一度、当事務所までご連絡ください。