夫が風俗に通うことを妻が許容している場合は別として、普通は、夫の風俗通いが発覚すれば、夫婦喧嘩になるでしょう。それでも、夫が誠実に謝り、二度と風俗に行かないことを約束して実際にそれを守れば、結婚生活の危機は乗り越えられることもあるかもしれません。

しかし、現実には、そのように丸く収まらないこともあるでしょう。それでは、夫の風俗通いは離婚理由になるのでしょうか。また、夫の風俗通いを理由に慰謝料の請求は可能なのでしょうか。

離婚するには「同意」か「法定離婚事由」が必要

離婚は、相手方配偶者の同意を必要とする協議離婚・調停離婚と同意を必要としない裁判離婚の2種類あります。

このうち、裁判離婚は、相手方配偶者の同意を必要とせず、強制的に離婚を実現することができる反面、民法上の離婚事由(法定離婚事由)の存在を必要とします。

法定離婚事由とは、①不貞、②悪意の遺棄、③生死3年以上不明、④回復困難の強度の精神病、⑤婚姻を継続し難い重大な事由の5つです(民法770条1項)。

風俗通いは黒に近い灰色?!

性交渉を伴う風俗の利用は黒か(①不貞にあたるか

まず、夫の通っている風俗が、ソープランドのように性交渉を伴う特殊な業態の風俗の場合には、「不貞行為」であることは間違いありません

しかしながら、法定離婚事由の1つである不貞に当たるかというと
最近出た平成26年4月14日東京地裁での裁判例等を見ると当たらないということになります。

違和感があるという方も多いかもしれませんが、法定離婚事由である不貞とは、既婚者の自由意志に基づく異性との性交渉であって、配偶者との関係性を破壊するもの、つまり、配偶者では飽き足らず他の人が良いといった関係性を意味します。
そうだとすると、営業行為で性処理をしたに過ぎない場合は、そのような関係生徒は認められないということです。また、配偶者からソープランド嬢に対する慰謝料請求も認められないということになります。

もっとも、ソープランドに通っているということは、頻度にもよりますが、多額の遊興費を個人的に使っていることになります。また、妻と性行為がない、等々その他の事情があるでしょう。そうすると、合わせ技で、法定離婚事由のその他婚姻を継続しがたい重大な事由となる場合があります。

性交渉を伴わない風俗の利用は?

次に、性交渉を伴わない風俗に通っている場合でも、「不貞」には当たるでしょう。

しかし、前述の東京地裁では、クラブの枕営業に対して違法性がないとしたものですから、ソープランドどころか性行為を伴わない風俗はより違法性を欠くということになります。したがって、法定離婚事由の不貞には該当せず、その他の事情と合わせ技で婚姻を継続し難い重大な事由となるに過ぎません。

風俗通いを理由に慰謝料請求することはできるか?!

慰謝料の相場は100万円~300万円

一般的に、不貞に対する慰謝料について、裁判所で認められる額は80万円から300万円程度です。

前述のとおり、裁判例によると、風俗ではなく、クラブのママとの不貞行為を、枕営業と認定できる限りにおいて、違法性はないとの判断です。したがいまして、風俗で慰謝料を請求することは難しいでしょう。確かに、これが認められてしまうと、風俗は、既婚者禁止としないと、おちおち営業できません。

風俗嬢に対して慰謝料請求できるの?

ですから、夫の風俗通いに関し、夫の相手をした風俗嬢に対して慰謝料請求することはできません。

そもそも夫の相手をした風俗嬢を特定することは難しいでしょう。また、風俗嬢の場合、性的サービスの提供は仕事であり、既婚者と独身者を区別して客を選ぶ自由は事実上ありませんから、風俗嬢の行為について、慰謝料の支払義務を認めるほどの違法性はないということです。

なお、この点に関連して、夫に対して枕営業を行ったクラブのママに対する妻からの慰謝料請求を棄却した裁判例があります(東京地裁平成24年4月14日判決)。この事件では、枕営業は不貞に当たるものの、単なる営業のために顧客の性欲を利用した行為に過ぎず、夫婦関係の破綻につながりうるものではないとして妻の慰謝料請求を認めませんでした。

しかし、風俗嬢の性的サービスの提供とは異なり、枕営業はクラブ経営において必要不可欠な行為ではなく、自由意志によるところが風俗嬢と比較して多分にありますから、先の判例の立場からすれば、妻の慰謝料請求を認めることは十分にあり得たはずです。枕営業であると認められなければ、慰謝料請求が認められたこととなります。枕営業であることをどうやって立証し、それをどのように裁判所が認定したのか気になりますね。

風俗通いを一つの理由に離婚・慰謝料請求するには証拠の収集が肝心

風俗通いを不貞として慰謝料を請求したり、離婚を請求するのは難しいでしょう。しかし、浪費をしていることに間違いはなく、その他の事情を含めて、離婚・慰謝料を請求することは出来る可能性があります。

風俗通いの証拠を集めるのは簡単ではない

そもそもの風俗通いの事実について証拠を集めておく必要があります。そうでなければ、夫が風俗通いの事実を認めない場合に、その事実を裁判所に認めてもらえないからです。

一般に風俗に通っている事実は他人に知られたくない事情であり、普通は、その証拠を残さないように注意します。また、風俗サービスを提供する側でも、そのような客に配慮して、たとえばクレジットカード決済において、一見して風俗店であるとは分からない店名として決裁することもあります。このように風俗通いの証拠は、簡単に収集できるものではありません。

風俗店・ホテルに出入りする写真は風俗通いの決定的証拠

店舗型・無店舗型を問わず、風俗通いの決定的証拠は、店やホテルに出入りする夫の写真です。

しかし、このような写真を撮影するには、夫に気づかれず尾行する必要がありますから簡単ではありません。また、探偵を利用するとしても、そのための費用が掛かります。

領収書・カード利用明細・ポイントカード等

風俗通いの現場を写真に収めることができない場合でも、風俗店を利用した際の領収書、クレジットカードの利用明細、店のポイントカード、予約履歴などの証拠でも風俗通いの事実を認めてもらうことできるでしょう。

まずは現状を弁護士や第三者に相談を

配偶者の風俗に通っている事実のみでは離婚事由になりません。また、慰謝料請求の理由にもなりません。しかし、合わせ技で考えると、その事実の証拠を収集・保全しておく必要があります。

また、そもそも離婚をしたいという場合、裁判離婚は難しいとしても、我々弁護士に依頼いただくことで、より良い条件で離婚できる場合があります。一度離婚問題に精通している当事務所までご相談ください。
お客様にとって最大の良い結果になれるよう全力でサポートいたします。

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