結婚後、夫婦生活のために夫婦間の協力により形成した貯金、自宅、自動車などの財産は、その名義を問わず実質的には、夫婦の共有財産になるため離婚時には、そうした財産は清算することができ、これを財産分与といいます。

それでは、逆に、そうした夫婦の共有財産の形成あるいは維持のために生じたマイナスの財産すなわち住宅ローンなどの借金は、財産分与の対象になるのでしょうか。

今回は、結婚後の借金について財産分与の手続では、どのように取り扱われるのかについて解説します。

夫婦の共有財産の形成・維持のための借金は財産分与において考慮される

財産分与は、夫婦の共有財産の清算である以上、そうした財産の形成・維持のための借金は、当事者間の公平を図るため財産分与において考慮されます。たとえば、自動車ローンや住宅ローンなどの借金です。

他方、夫婦の共有財産の形成・維持とは関係のない借金は、財産分与において考慮されることはありません。たとえば、一方の配偶者のギャンブル・浪費による借金などです。

財産分与において考慮される借金の例

  • 自宅購入のための住宅ローン
  • 夫婦の一方の使用に供するための自動車購入のための自動車ローン
  • 子どもの教育費の捻出のための教育ローン
  • 家族のケガ・病気の治療のために要した診療報酬支払債務
  • 日常生活において使用する冷蔵庫、洗濯機などの日常家事に関するローン

財産分与において考慮されない借金の例

  • 一方配偶者の趣味・娯楽のための借金
  • 一方配偶者のギャンブル・浪費による借金
  • 一方配偶者の結婚前からの借金
  • 一方配偶者の相続による借金

婚姻前の一方配偶者の借金の返済のために貯蓄できなかったときは?

たとえば、ある夫婦について、結婚前の夫のギャンブルによる借金300万円の返済のために結婚中の収入を充てたため離婚時の貯金額は50万円(夫名義の口座)にとどまってしまった場合、妻の財産分与としての請求額は25万円に限られるのでしょうか。

たしかに、結婚前の夫の借金について妻には返済義務のないことはもちろん、その返済に協力する義務すらありません。

しかし、婚姻生活を続ける以上、事実上、夫の結婚前の借金は夫婦生活のための収入から捻出するほかないのですから離婚時の財産の形成・維持に対する貢献度である分与割合の決定において夫の結婚前の借金の返済に生活費を利用した事情は、考慮されるべきです。

但し、その具体的貢献度を決定するためには、夫婦双方の収入、生活費の内訳などの事情により様々であるため一律に判断できるものではありません

借金も財産分与の対象ですが、債権者との関係では財産分与を主張できません

夫婦の共有財産の形成・維持のための借金は、財産分与において考慮されます。しかし、総合して借金の方がおおい、マイナスとなると分与することができません。
また、借りている先の銀行等からすると、債務者が変わることにはなりません

自宅については査定評価額と残ローン額を確認する

査定評価額>残ローン額の場合

住宅ローンを利用して自宅購入した場合には、離婚時の自宅の査定評価額と残ローン額を確認するようにしましょう。

査定評価額が残ローン額より高い場合には、自宅はプラスの財産になるため財産分与の対象になります。

たとえば、夫名義の自宅の査定評価額1,500万円、夫名義の住宅ローンの残額1,000万円の場合には、財産分与の対象は1,500万円-1,000万円=500万円になり、分与割合は1/2であるとすれば、具体的分与額は500万円×1/2=250万円になり、自宅と住宅ローンの名義を夫のままにする場合、夫は妻に250万円を清算金として支払うことになります。

査定評価額<残ローン額の場合

逆に、夫名義の自宅の査定評価額1,000万円、夫名義の住宅ローンの残額1,500万円の場合には、1,000万円-1,500万円=-500万円になり、夫婦間の協力により形成されたプラスの財産は存在しないことになり、財産分与の問題は生じないことになります。

この場合、仮に離婚時に自宅を売却してローンの返済に充て、夫は残ローン500万円の返済義務を負うことになるもののこれを元妻に対して、折半して負担するよう求めることは難しいでしょう。ただし、他の財産があれば、そちらを当てることになります。
また、財産分与の内容は、当事者間の協議により決めることができますから残った500万円のローンの返済について折半して負担する内容の合意を形成できれば、その内容に従い解決されます。
しかし、このように義務だけを負う内容の財産分与に応じる者は稀です。

財産分与は放棄できる!

財産分与を請求する権利は、夫婦双方に認められる権利ですから、本人の意志に基づき放棄することは可能です。

もっとも、資産額より借金額の方が大きい場合には、もともと財産分与を請求することとはないでしょうから、特に放棄というか何もする必要はありません。結局、財産分与の放棄は、相手方配偶者の利益になる行為であり、それを条件に他の離婚条件については譲歩してもらうための手法として用いられることが多いのです。

たとえば、自分の浮気により離婚に至ってしまった配偶者は、相手の慰謝料請求権を放棄してもらう条件として自分自身の財産分与請求権を放棄することを提案できます。

財産分与のトラブルは弁護士に相談を

結婚後の借金の離婚時における財産分与については、以下になります

  • 結婚後の借金は、実質的に夫婦の共有になる財産の形成・維持のためのものである限り、財産分与において考慮される
  • 一方配偶者の結婚前の借金の返済のために貯蓄額の少なくなった場合には、財産分与において考慮される。
  • 借金の総額が資産の総額を超える場合、財産分与により相手方に借金の公平分担を求めることはできない
  • 自宅の場合は、査定評価額と残ローン額を確認する
  • 財産分与請求権は放棄できる。但し、それは、相手の慰謝料請求権を放棄してもらうなど、交渉材料として利用されることが多い

財産分与の話し合いの際、離婚後も婚姻中の借金を返済する者から、借金の返済を理由に財産分与を拒否してくることがあります。

しかし、実際そのような主張の妥当性は、慎重に吟味しなければ判断できません。もし、借金の絡む財産分与の問題に困ったときには、まずは一度当事務所までご相談ください。

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