夫婦生活における不妊の問題は、夫婦の問題であると同時に個人の問題でもあるため非常にデリケートに扱うべき問題です。また、不妊は誰の責任でもない、自らの意志ではどうにもならない問題でもあります。

とはいえ、実際には、不妊を原因とする喧嘩のため夫婦関係に亀裂が走り、離婚の危機に瀕することもあるのではないでしょうか。

今回は、不妊を理由とする離婚や慰謝料請求について、解説します。

不妊を理由とする離婚を考える前に

離婚の危機は不妊それ自体にのみ原因があるわけではない

不妊を原因とする離婚の危機は、不妊それ自体により生じるだけではなく、むしろ夫婦生活において子を育てることに対しての価値観の相違不妊に対する精神的ストレスのために生じる夫婦喧嘩の際の暴力・暴言等により生じることもあります。

お互いに価値観を共有して尊重することが大切

不妊の問題は夫婦の問題であり個人の問題でもあるのですから、もし夫や妻が不妊に悩んでいるのであれば、それを夫婦間において、しっかりと共有した上、お互いの価値観の共有・尊重を踏まえ、精神的ストレスにより冷静な判断のつかない状態に陥ったときには、まずは、その問題を解決するよう心がけましょう。

そうすれば、不妊を原因とする暴力・暴言等による離婚の危機の発生は回避できる可能性があります。

離婚以外の不妊の問題を解決する方法

不妊の問題を解決する方法としては、子を諦める、不妊治療を行う、里親になるなどの方法があります。

しかし、不妊治療には高額な費用が掛かりますし、里親は血のつながりを持たない子を育てるわけですから、その点について、夫婦が納得しておく必要があります。こうした方法が解決にならないとき、はじめて、不妊を理由に離婚して新たなパートナーとの間に子を作るという選択肢を生み出すことを検討することになります。

それでは、もし、不妊を理由に離婚を決意した配偶者からの離婚請求を相手方配偶者が拒否した場合、離婚はできるのでしょうか。

離婚するには「同意」か「法定離婚事由」が必要

離婚は、相手方配偶者の同意を必要とする協議離婚・調停離婚と同意を必要としない裁判離婚の2種類あります。

このうち、裁判離婚は、相手方配偶者の同意を必要とせず、強制的に離婚を実現することができる反面、民法上の離婚事由(法定離婚事由)の存在を必要とします。

法定離婚事由とは、①不貞、②悪意の遺棄、③生死3年以上不明、④回復困難の強度の精神病、⑤婚姻を継続し難い重大な事由の5つです(民法770条1項)。

不妊を原因として起こる夫婦間の問題を理由として離婚できる可能性はある

不妊それ自体は法定離婚事由

まず、不妊それ自体は、夫婦関係の破綻を意味しませんから、法定離婚事由にはなりません

不妊を原因として起こる夫婦間の諸問題

しかし、不妊により生じる夫婦間の諸問題を総合的に考慮し、婚姻を継続し難い重大な事由の存在により、裁判離婚の認められる余地はあります。

不妊を原因とする夫婦喧嘩における暴力・暴言

不妊を原因とする夫婦喧嘩において、一方の配偶者による暴力・暴言は、婚姻を継続し難い重大な事由に当たる可能性があります。これは、あくまで不妊をきっかけとして、配偶者の暴力性の素性が現れたに過ぎない場合であり、他の場合でも暴力・暴言を理由に裁判離婚の認められるのと同じです。

不妊を原因とする別居

次に、不妊を原因として、夫婦関係に亀裂が走り、長期にわたり別居状態に陥った夫婦については、やはり婚姻を継続し難い重大な事由を理由に裁判離婚が認められます。

不妊を原因とする精神疾患の罹患

他方、不妊の問題に悩み、精神的に疲労して、たとえば一時的にうつ病などの精神疾患に罹患したことは法定離婚事由にはなりません。

2人目の子について不妊である場合

2人目の子について不妊である場合には、子を欲しいとの希望は全面的に閉ざされたわけではなく、既に1人目の子のためにも安易に離婚を認めるべきではありませんから、やはり離婚事由には当たらないと判断される可能性が高いです。

不妊により婚姻関係の継続が個人の自由を制約する場合

もし、妻または夫が夫婦生活において自分の子を育てることに大きな価値を見出しているケースでは、不妊の問題は、婚姻関係の継続により、個人の自由を制約する問題となります。つまり、妻または夫は、1人の人間として、自分の子を持ち育てたいという希望は婚姻関係を継続する限り実現できないのです。

問題は、このような理由により裁判離婚は認められるのでしょうか。これは、非常に悩ましく難しい問題です。

不妊自体はだれの責任でもないため、これを理由に強制的に離婚を認めることは、逆に、夫婦生活において子は必ずしも必要不可欠ではないという他方の配偶者の価値観を否定することにもなります。

しかし、夫婦生活において夫婦の子を育てることは必要不可欠ではないとの価値観は離婚を認めた場合でも貫くことはできますが、逆に、夫婦生活において夫婦の子を育てることは必要不可欠であるとの価値観は離婚を認めなければ貫くことができません。

したがって、夫婦間の子を望む真摯かつ継続的な意志があるのであれば、結果的にその問題から起きる様々な事情により、合わせ技で法定離婚事由が認められる場合があります。

不妊を理由とする慰謝料請求は可能か?

不妊それ自体を理由とする離婚の場合には慰謝料は認められない

当然のことながら、不妊は誰の責任でもありません。ですから、不妊を理由に離婚に至った場合でも、不妊の原因のある者に対する慰謝料請求はできません

不妊以外の離婚原因のある場合には慰謝料請求できる

他方、たとえば、不妊を理由に夫婦喧嘩になり暴力・暴言を繰り返したために離婚に至ったようなケースでは、離婚の主たる原因は、不妊そのものではなく、暴力・暴言であるとして、慰謝料請求できます。

まとめ

不妊の問題は夫婦にとって深刻かつデリケートな問題です。

しかし、不妊それ自体は誰の責任でもないのですから、離婚を考える前に今一度、夫婦間において、問題の解決方法等について、よく話し合うようにしましょう。

それでも、問題が解決できない場合、あるいは、不妊をきっかけとして別の問題が起きた場合には、離婚するほかありません。難しい判断ではありますが、法定離婚事由に当たるとして裁判離婚の認められる可能性はあります。
しかし、その場合に慰謝料を請求することはできません。このように不妊と離婚の問題は、かなりデリケートな問題を含み、裁判離婚についても簡単に認められるものではありません。

もし不妊を理由に離婚を考えているのであれば、一度、離婚問題に精通した当事務所までご相談ください。
お客様にとって最大の良い結果になれるよう全力でサポートいたしますので、まずは一度ご相談ください。

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