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離婚・慰謝料 解決事例、コラム

当事務所で解決した離婚・慰謝料事例の一部のご紹介となります。

女性
性別:
女性
年代:
40代
子ども:
あり
職業:
会社員

離婚協議に際して公正証書を作成する前に弁護士へ相談を。公正証書で養育費の月額について取り決めがあるにもかかわらず、養育費の増額がみとめられた事案

1 概要

(1)事案の内容

 ご依頼者様は、離婚した元夫との間で「離婚後毎年3月になったら、双方が前年の収入を開示しあって、双方の収入額に応じて算定表に基づき、その年の養育費の月額を決める」という約束をしていたのに、元夫が前年の収入を開示することを嫌がり今年の養育費額が決められなくて困っていたところ、元夫の代理人弁護士から養育費の減額を求める内容の連絡が来た、と弊所へ相談に来てくださいました。
 ご依頼者様が離婚されたのは約1年前。離婚条件については、ご依頼者様も元夫も弁護士へ依頼せず、ご当事者同士でお話合いされたうえ、離婚協議書を公正証書にて作成しておられました。そして、その公正証書を拝見すると、なんとそこに記載された養育費の額は、当時の双方の収入額からみて、極めて低い月額が記載されていたのです。しかし、この1年、実際の支払いは公正証書に記載の額ではなく上記約束のとおり当時の双方の収入額に応じて算定表に基づき決めた額だったから、次の1年も同じように約束のとおり養育費の額を決めようと、ご依頼者様が元夫へ話し合いを持ちかけたところ、元夫に代理人弁護士が就いて公正証書の額に減額して支払う旨の連絡が来たという状況です。
 どうして、養育費についてこのような極めて低い月額で公正証書を作成したのか、その理由をご依頼者様に尋ねると、「はじめは、元夫との間で約束した内容で公正証書を作成したいと公証役場に持っていったが、公証人から、これでは内容が不明確であるから公正証書にはできない。公正証書には具体的な金額を明示する必要がある。と指摘されたため、仮に元夫の収入が激減したとしても最低限支払ってもらいたい、子どもたちにかかる教育費を計算して公正証書に残すことにした」とのことでした。

(2)ご依頼者様の希望

とにかく、元夫には当時の約束を守ってもらいたいというご希望でした。その約束を守ってもらえるのであれば、仮に元夫の収入が激減していてこの1年支払われていた養育費の額を大きく下回っていてももちろん仕方ないと思えるけれども、約束を反故にされるのは納得できないとのお気持ちを強く持っておられたのです。

(3)方針の決定

・主張について

 まず、養育費の増減額の請求には、その理由が必要であるところ、元夫の減額を求める理由は「公正証書の取り決めがあるから、それ以上支払う必要がない」というものでした。
 それに対して、こちらの主張(ないしご依頼者さまの希望)は、公正証書の取り決めは最低限確保すべき支払い額という意味でなされたものであって、実際にはご当事者同士の約束があるのだから元夫の減額請求には理由がない。約束に基づいて今後も支払いを続けてほしい。という内容です。
 たしかに、公正証書での取り決めの効力はご当事者同士の口頭での約束よりはるかに強いもので、その取り決めをあとから覆すのは難しいことです。また、公正証書があえて不利な内容(本件でいうと、双方の収入額に応じて算定表に基づいて養育費の額を決めた額よりも、あえて低い額の記載がなされていること)で作成されている場合、その不利な内容を知りながら許容していたと推認されることから、後から「そんなつもりじゃなかったんです」というのはさらに難しいことです。他方、実際問題としても、すでに離婚している元夫婦がこれからもずっと、毎年のように双方の収入を開示しあって養育費の額を取り決めるというのは難しいだろう(仮に最初はうまくやって行けたとしても、いつかまた紛争となり得、結局のところ何の解決にもならず結論を先延ばしにするだけ)という懸念もありました。
 そこで、ご依頼者さまと十分に協議した結果、まずはご当事者間での約束があったのだから、公正証書の取り決めがあることを理由に減額請求することはおかしいという主張をしながら、解決案としては、昨年度の双方の収入額に応じて算定表に基づいて養育費の月額を決め直し、今後はその決めた額を支払って欲しいと提案することにしました。

・方法について

 双方代理人弁護士が就いた状態でしたので、まずは交渉から始めてもよいかと思いましたが、しばらくして元夫は毎月の養育費の支払額を公正証書で取り決めた額まで下げてきました。その額では、こちらとしては約束とおりの支払いがない、いわゆる未払いの状態となり、未払い分の支払いについては請求時(調停申し立て時)を始期とする考え方が一般的ですので、通常であればすぐさま調停申立をすべき状況です。
 他方、公正証書という強力な取り決めのある本件では、いくらご当事者間での約束があったと主張をしたとしても、先程述べたとおり、それでも不利な内容で公正証書を作成したのでしょう、ということで、裁判所が公正証書での取り決めの額の支払いで足りるとの判断をするリスクも十分にありました。
 この点についてもご依頼者さまと十分に協議し、ご当事者間での約束を裏付ける証拠も一定あるという事情などもあったことから、調停申立てに踏み切ることとしました。

2 解決

 結論として、無事に元夫の養育費減額の請求はみとめられず、公正証書での取り決めより高い月額を支払うという内容で調停が成立しました。
 調停の中では、公正証書を作成した経緯や作成したときの意図、ご当事者間でのやり取りや元夫の養育費の支払い状況から公正証書とは別の約束があったといえること、現在のご依頼者さまの生活状況などを詳細にお聞き取りしたうえ、粘り強く主張・立証しました。その甲斐があってか、裁判所からは、公正証書とは別にご当事者同士の約束があったことは認められるという心証を抱いている前提で、公正証書での取り決めより高い月額を支払うという内容の調停調書案が提示されたのです。
 調停中に元夫が再婚するという新たな養育費の減額理由が生じたこともあって、やむを得ず当初こちらの主張していた月額よりは低い額での調停成立とはなったのですが、少なくともご当事者間の約束があったことを前提として、公正証書の取り決め内容のとおりにはならなかったので、ご依頼者さまには十分にご納得いただける結論となりました。

3 まとめ

 今回のご依頼者様は、離婚協議の際には比較的穏便のご当事者間での話し合いができていたことから弁護士に相談・依頼しておられませんでした。しかし、話し合い自体が穏便に進められたとしても、今回のように後から紛争が勃発するということは十分ありえます。弁護士は離婚条件について法的な知識を持つ専門家です。ぜひ、念の為でも結構ですから、後の紛争の予防のため取り決めをしてしまう前に弁護士にご相談ください。他方、公正証書はよくも悪くも強力な効果をもつ書類です。もちろん一度作成した公正証書の内容を覆すことは容易ではありませんが、今回のように弁護士にご相談いただきましたら何らか解決の方法が見つかるかもしれません。決して諦めず、お困りの際は一度弁護士にご相談いただければと思います。

監修:弁護士法人キャストグローバル
   大津オフィス 家事担当(離婚)