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離婚・慰謝料 解決事例、コラム

当事務所で解決した離婚・慰謝料事例の一部のご紹介となります。

女性
性別:
女性
年代:
40代
子ども:
あり
職業:
会社員

財産分与と交通事故による賠償金

弊所では、個人法務分野では、離婚と交通事故を積極的に取り扱っています。
通常であれば、交通事故と離婚が結びつくことはありませんが、まれに交通事故のご依頼者様から離婚を検討されており、交通事故の賠償金が離婚に影響を与えないか聞かれることがありますので、今回は、交通事故による賠償金が離婚の財産分与の対象になるかをテーマとして取り上げたいと思います。

1 財産分与について

 前提として、財産分与について簡単にご説明します。
 夫婦が婚姻中に形成した財産は、原則として夫婦が協力して形成した財産であり、共有財産と考えられています。離婚時に、この夫婦共有財産の共有性を解消し、夫又は妻それぞれに財産を分ける手続を財産分与といいます。
 財産分与の対象となるのは、婚姻中に夫婦の協力により形成された共有財産であり、夫又は妻が婚姻前に取得していた財産や相続・贈与などにより夫又は妻が自己の名義で婚姻後に取得した財産(このような配偶者の一方に帰属する財産を「特有財産」といいます。)は対象にはなりません。

2 交通事故の賠償金について

 財産分与について理解したところで、本題である夫婦の一方が婚姻中に交通事故にあい、加害者から賠償金を受領した場合、この賠償金は財産分与の対象になるのかについてご説明します。
 賠償金が財産分与の対象になるか否かは、財産分与の説明で理解されたように、賠償金が夫婦の共有財産なのか、それとも特有財産なのかによって決まります。
 これに関連する裁判例として、大阪高等裁判所平成17年6月9日決定及び東京高等裁判所平成12年3月9日判決があります。
 これらの裁判例では、交通事故の賠償金の項目ごとに共有財産、特有財産のいずれに分類されるかを判断し、財産分与の対象となるか否か判断されています。
 この点、一般的には、交通事故の賠償金は以下のように分類することができます。
精神的苦痛による損害としての慰謝料
傷害慰謝料
後遺傷害慰謝料
逸失利益の消極的損害
③ 休業損害
④ 後遺障害による逸失利益
積極的損害
  ⑤治療費、通院交通費、看護料、諸雑費等

 このうち、(1)精神的苦痛による損害としての慰謝料については、事故にあった被害者本人の負傷し、入通院をしたことや、後遺障害が残ったことによる精神的苦痛を慰謝するためのものですから、当然に事故にあった夫又は妻本人の特有財産であり、財産分与の対象にはならないと考えられています。
 他方、休業損害、後遺障害による逸失利益である(2)逸失利益の消極的損害については、共同生活の期間に対応するものについては、共有財産に該当し、財産分与の対象になり得ると判断されています。休業損害とは、交通事故による受傷が原因で仕事を休まざるを得なくなったことによる収入の減額分を填補するものであり、会社員でいえば、得られなかった給与の代わりとなるものです。また、後遺障害による逸失利益とは、後遺障害が残ったことが原因で、労働能力が低下したことによって生ずる将来の減収分を填補するものです。このように、休業損害・後遺障害逸失利益ともに、事故によって生じた収入の減少を填補するものです。婚姻期間中に夫又は妻が労働をして稼いだ収入は、夫婦が協力して形成した共有財産と考えられていることから、その填補である休業損害、後遺障害逸失利益についても共有財産に該当すると考えられるからです。
 もっとも、財産分与の対象となる共有財産は、夫婦が婚姻中に共同生活を送ることで協力して形成されたものであるため、休業損害、後遺障害逸失利益のうち、別居後又は離婚後に生じた(生ずる)減収分に対応する部分については、夫婦が協力して形成したものではないため、財産分与の対象とはなりません。例えば、婚姻中に一方配偶者が事故にあい、症状固定後1年後に離婚した場合は、後遺障害逸失利益のうち、財産分与の対象となるのは、症状固定時から離婚するまでの1年間までの分に相当する額に限定されるということになります。
 つづいて、治療費、通院交通費、付添看護料、入院雑費等の(3)積極損害についてですが、東京高裁平成12年3月9日判決では、これらは現実の出捐を填補するもので、財産分与の対象とはならないと判断されています。
しかし、一括対応中の治療費等、加害者側の保険会社から病院に直接支払われているような場合は、このような判断で問題ないと考えられますが、一括対応終了後等に被害者が治療費を病院に支払った場合や、通院交通費等そもそも被害者が一旦自己負担することが想定されているものについては、それらの支払の原資がどこから出ているのかを確認しなければ、治療費・通院交通費等に対する賠償金が共有財産、特有財産のいずれに該当するか判断することはできないのではないでしょうか。例えば、治療費、通院交通費等が夫婦の共有財産である預金等から支払われているのであれば、その支払を填補する賠償金は共有財産と考えられますが、そうではなく事故にあった配偶者の婚姻前の預金等の特有財産から支払われている場合は、治療費・通院交通費に該当する賠償金は特有財産と考えられるでしょう。
 このように、事故の賠償金については、財産分与の制度趣旨に立ち返り、賠償金の内容を細かく検討していくことが必要となります。

以上

監修:弁護士法人キャストグローバル
   大津オフィス 家事担当(離婚)