労災問題

弁護士コラム

2019/02/08(金)

労働者を守る「労災保険」の給付内容とは?

勤務中に災害に遭遇したり、または、通勤や業務上の移動時に災害に遭遇するといったことがあった場合、労働者を助けてくれるのが労災保険です。労災保険は、事業者が従業員を雇う際には強制加入の保険となっていて、保険料の負担は事業者の責任で行われています。いざというときに、知っておいて損はない、労災保険の給付内容について解説します。

労災保険とは?

労災保険制度の目的は、業務上災害または通勤災害による労働者の不詳・疾病・障害・死亡などに対して、企業側の内部留保などでは対応ができない場合や、補償の遅れなどが生じることから、必要な給付を行う目的で開始されました(労災保険法1条参照)。
労災保険法が施行される以前であっても、労基法75条1項に「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」と定めがあるように、事業者には、労基法上の「使用者の災害補償責任」があります。
このように、元々、事業者には従業員が業務上において災害に被災した場合には、その治療に要した費用の全額の負担をする必要がありますが、この法律上の義務を確実にするために、労災保険制度は整備されています。

労災保険に言う「労働者」とは誰を指すか?

労災保険法上の「労働者」である要件は、一般的には労基法上の「労働者」と同義と考えられています。そのため、労災保険の被加入者となれる地位は、原則的には労基法上の適用事業に「使用されるもの」であり、「賃金」の支払を受けることが必要となります。従って、その雇用形態が常時雇用でない、臨時のものであっても労災保険の加入義務があります。また、アルバイトやパートタイム従業員が労災保険法上の「労働者」となる点はもちろんのこと、名目上の役員なども、実態としては労働者的な立場であるならば、同法でいうところの、「労働者」として保護されます。

労災保険はどういうときに給付されるか?

労働者または、その遺族が、災害等に罹災した場合、その補償を受けることができるのは、その罹災が「労働災害」に該当する場合となります。
労働災害と言えるためには、その負傷、疾病、障害または死亡が「業務災害」であるとの認定が必要であり、この認定要件が「業務遂行性」と「業務起因性」です。すなわち、業務上と認められるためには、業務と災害の間に一定の因果関係が必要であるとされており、一般に実務上は、相当因果関係が在れば良いと考えられています。また、上記のように業務上の罹災であるとして、その因果関係が客観的に明らかである場合には、特段第三者や事業者(使用者側)の故意を不要としないという点が、労働者への迅速な補償を可能にしています。
実際に労働者が、業務上の災害に罹災した場合には、労災認定実務上は、他覚的な証明が必要となるため、労災指定病院にて診療を受診するか、または、他の医療機関にて診断等を受け、所定の書式による労災申請用の診断書の交付を受ける必要があります。

労災保険の給付内容とは?

労災保険の給付内容とは、下記内容となります。

・療養補償給付:労災保険または労災指定病院での治療は100%現物(医療的措置)給付となり、それ以外の医療機関の場合には、治療に必要だった費用が支給
・休業補償給付:給付基礎日額の60%ですが、特別支給金として、もう20%支給される結果、全体で80%の支給となる。
・障害補償給付(障害給付):労災障害認定に基づき、それ以上治療をしても障害が残ったような場合(症状固定)に、障害等級ごとの金額を支給
・遺族補償給付:遺族の数に応じて年金を支給。
・葬祭料
・傷病補償年金:療養開始後1年6箇月を経過しても治癒しないときに休業補償給付に代えて年金が支給される。
・介護保障給付:障害補償年金または傷病補償年金受給者で常時または随時介護を受けている者に月毎に給付
・二次健康診断給付:定期健康診断等における脳血管疾患及び心臓疾患の検査で異常所見が見られた時に二次健康診断と特定保健指導を行う。

業務災害と通勤災害とは

業務上の災害で問題となるのは、外傷などを負った場合でも、その外傷による治療期間の相当性や、治療と労災との因果関係などがあります。
前述のとおり、業務災害の法的な評価を受けて、労基署から労災認定を得るためには、業務遂行性と業務起因性が必要でした。
他方で通勤災害の認定においては、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」(労災保険法7条2項)であるため、認定要件として、「就業関連性」、「住居」との往復であること、およびその経路が「合理的な経路および方法であること」が必要となります。
つまり、簡単に言うと、自分普段住居としている場所から、就業場所までの合理的な経路において、災害に罹災した場合には、通勤災害と認定されて、労災保険給付を受けることが出来るということです。

会社が労災保険に加入していない場合はどうなるのか?

労災保険は原則として、労働者を1人でも雇用している場合には、強制加入となります。従いまして、例え、事業者側が故意に届出を行っていなかったとしても、「強制的に」加入のため、労働者はその補償を受けることができます。事業者側には、遡って過去の保険料の納付を請求されることとなります。

まとめ

労災保険は、労働者のための保険です。労働災害に遭った場合には、その治療などに必要だった費用は補償を受けることができます。ただし、その手続には、医療機関などで診察を受け、診断書を出してもらうなど、一定の手続が必要です。
一般的には会社が労災保険の手続きを行いますが、故意に手続を行なわないといった場合があります。こうした場合には、労働者が自分でも手続きができますので、疑問に思ったら、と労基署に相談してみると良いでしょう。

一覧に戻る