労災問題

弁護士コラム

2019/05/31(金)

掛け持ち勤務をしていた際の労災

掛け持ちで働くような労働形態について、政府が主体となって推進されてきています。こうした中、問題となりえるのは、労働災害にあった場合の扱いについてです。例えば2つの職場に勤務しているような場合、その通勤途中で事故に遭遇した場合などはどのように扱われるのでしょうか。この記事はこうした掛け持ち勤務をしていた場合の労災についてご説明いたします。

そもそも労災が認められる場合とは?「業務起因性」の有無

勤務時間中に負傷した場合や、勤務先に通勤している途中などに負傷した場合に労働災害が認められる、といったことは理解されている方が多いのではないでしょうか。このように、明確に業務と災害(負傷)との間に一定の因果関係が認められる場合を、「業務起因性」と言います。原則として、この業務起因性が認められる場合には、労働災害と認められてその保証を受けることができます。

他方で、勤務先に通勤している場合であっても、合理的な経路を外れて他の目的、業務外の目的などから他の経路を利用している場合には、一般的には当該通勤中に負傷したとしても、労働災害としての認定は困難と言えるでしょう。

その理由は、上記で説明いたしましたとおり、通勤途中であったとは言えども、業務と災害(負傷)との間に因果関係を認めることができないためです。

掛け持ちしていた場合には労災は適用されない??

それでは、掛け持ちで勤務していた場合には、労災は認められないのでしょうか。結論を申しますと、掛け持ちしていた場合であっても労災の適用はされます。

労災保険は、労働者が業務上負傷、または疾病にかかった場合に支払われるものです。例えば、A店とB店を掛け持ちしているような場合で、B店にて業務上の負傷をした場合には、一般的にはB店の勤務に関して、労災が認められることになります。この際、B店での業務により仕事を休むことになった場合には、B店での収入に基づき、休業補償が支払われることになります。この場合、A店はB店での災害とは無関係であることから、A店が当該災害に関して、何等かの義務を負担することはありません。

労災の場合の休業補償給付の基礎となる収入とは?

労災に遭遇した場合の休業損害に対する休業補償給付の基礎となる収入とは、原則的には、労災が認められた勤務先の収入を基礎とされます。

したがいまして、収入が低い(いわゆる「副業」先)勤務先への勤務の際に、又はその通勤途中で災害に罹災した場合には、メインの勤務先の労災は適用されないため、副業先の収入が基礎として算定される結果、休業補償給付の金額が正業の場合と比べて低くなるといった可能性は十分に考えられます。

掛け持ちしていた場合はいずれの勤務先の労災保険が適用されるのか?

掛け持ちしていた場合には、いずれの労災保険が敵用されるかについては、労働者にとっては、おおきな関心事でしょう。

例えば、平日の日中は会社で勤務しているサラリーマンが、勤務後に飲食店で働いているような場合、会社での収入を基に労災を算定(休業補償など)されるのか、または、飲食店での収入を基に算定されるかによって受給できる金額に大きく差が出ることでしょう。

前項でも説明したとおり、原則として業務起因性の認められる勤務先の労災が認められるため、仮に他の勤務先でより多い収入を得ていたとしても、その勤務先の労災保険が適用されることはありません。

また、掛け持ちで勤務しており、ある勤務先にて労災にあい休業補償給付の給付を受ける場合、他の勤務先に就業できないことに対する補償はされません。

このような場合、労災とは関係のない勤務先からすると、まったく業務とは関係のない自由な時間において受傷し、休業する場合になったことになります。このような場合には、当該他の勤務先における労災保険が適用されるようなことはありません。

労災保険は複数の勤務先のものが通算されるのか?

労災保険が通算されるかについては、これまで説明してきました「どの勤務先の業務と当該災害(負傷)との因果関係が認められるか」についての問題と同様の問題です。

すなわち現行法上は、複数の労災保険が通算されるようなことにはなりません。

その理由は、労災が適用となるのは、業務と災害との間に因果関係が認められるか(業務起因性)といった観点から考えられ、これが認められない場合には、使用者は労働者に対して補償を行う義務がないからです(労基法75条参照)。

雇用関係にない場合には労災の適用はない?

労災保険法における「労働者」とは、一般的には、労働基準法上の「労働者」に該当するか否かと同義と考えられています。それでは、近年よく見かける、業務委託、請負等の契約に基づき勤務するような場合は、労災は一切認められないのでしょうか。

労基法に言う「労働者」とは、契約上の形式や名称などから判断されるのではなく、実質的な使用従属関係の有無によって、法的に評価されます。したがって、たとえ契約名称上は請負契約等の名称を用い、雇用関係がないように思われる場合であっても、その状況等を総合的に判断して実質的に労使関係に相当する関係が認められるような場合には、労災が適用される可能性があります。

業務委託や委任、又は請負契約等を締結しているような場合に、労災の提供の可否について、疑問に思うような場合には、弁護士にご相談ください。

掛け持ち先の使用者が労災に加入していない場合

雇用先である使用者が1人でも労働者を使用する場合には、労災(労働者災害補償保険)に加入する義務があります。したがって、使用者が届出をすべきであるのに、これを怠っているような場合でも使用者の元で働く労働者は労災の適用があります。

このような場合には、掛け持ち先の所在場所を管轄する労働基準監督署に所定の届け出を行うことで、補償を受けることができます。この場合、労災保険側がその費用を立て替え、後から当該使用者に請求を行うかたちとなります。

労働基準監督署の管轄や、そもそもどのように労基署に届け出れば良いのかが不明な場合には、弁護士にご相談いただくか、各都道府県の労働基準監督署に問い合わせてください。

まとめ

近年は多様な働き方が社会的に認められ、厚労省のモデル就業規則等にも、こうした流れが反映されるようになってきています。掛け持ち勤務は一般的になりつつあるように感じますが、労働災害にあった場合の取り扱いについては不安を感じるものです。この記事では「業務起因性」という語をキーワードとして説明してきましたが、法的に難しい概念を含むことから、疑問を感じた場合には、労働災害に強い弁護士を抱えるキャストグローバルにご相談ください。

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