労災問題

弁護士コラム

2019/05/31(金)

通勤中の事故が労災とならないケース

通勤中の事故に遭遇した場合、労災にならない場合があります。一般論としては、合理的な通勤経路より大きく外れて通勤するような場合等が挙げられます。通勤中の事故が労災と認められるかどうかは、業務と災害との間に、一定の因果関係が認められるかどうかといった論点が問題となります。この記事では、どういった場合が通勤中であっても労災と認められないのかについて、ご説明いたします。

労災が認められる通勤とそうでない通勤とは?

労災と認められるかどうかについては、厳密には個別の事情によるため、一概にはいえません。したがって、下記に掲げる内容は、ある程度概括的な事例を記載いたします。

労災が認められる通勤)
・自宅と職場を往復する経路の場合
※通勤定期に記載された区間はもちろんのこと、列車等の運航障害より、代替経路を利用した場合にも認められます。
・出張先から自宅に帰宅する際の経路
・営業先から会社の事務所または、直帰の場合には、自宅への帰宅経路のうち、合理的な経路を利用した場合
・学生が学校から直接アルバイト先に通勤した場合の経路
※アルバイト先が労働者が学生であることを認識しており、通常、自宅よりも学校から通勤することを認めているような場合

労災が認められない通勤)
・会社から帰宅途中において、飲酒を行った結果、階段から落下などして受傷した場合
・会社への通勤と全く無関係な経路によって通勤途中に受傷した場合
・第三者の自宅に宿泊し、その後、会社に通勤した際に受傷した場合

上記のような場合が考えられますが、一般的な感覚として通勤災害と考えられる場合であっても、より詳細には、通勤災害と業務災害とに区分されます。

通勤中に歩きスマホで受傷した場合は補償されるか?

近年、スマホの普及により、街中や、通勤途中であっても、歩きながらスマホ(またはタブレット端末)に集中している方を多く見かけます。このように、通勤途中の歩きスマホを原因として駅の階段から落下したような場合に、通勤災害と認められるものなのでしょうか。

労災が認められるためには、業務と災害の間に、因果関係が認められることが必要です。歩きスマホについて考えてみると、一般に歩きスマホが危険であることは周知されていることから(駅構内のアナウンス等で注意喚起されています。)、受傷と歩きスマホの因果関係が問題となります。ただ、多くの場合には労災と認められると考えていいでしょう。

ただし、労災保険を超えて会社に賠償を求める場合には、過失割合が問題となります。業務上の連絡等を見る目的からスマホ画面に集中し、その結果、階段から落下したような場合です。もっとも、歩きながら見る必要はないはずなので、難しい問題となります。

明らかに動画のストリーミングサービスを閲覧しており、その結果注意が散漫となったことで階段から落下したような場合には、業務ではなく歩きスマホが受傷に直結しており、労災が認められない可能性があります。

このようなことから、歩きスマホには大きなリスクが伴いますので、通勤中も含め歩きスマホをすることは止める方が賢明でしょう。

通勤災害で認められる給付とは?

通勤災害が認められる場合であって、その給付の内容はどのようなものなのでしょうか。
労災保険での給付内容は以下のとおりです。

1) 療養給付:医療機関等に通院し必要であった治療費について、労災保険の給付によってまかなわれることになります。ただし、診療を受ける医療機関が労災指定病院か否かによって、治療費を先に支払う必要があるのかどうかが変わってきます。

労災指定病院等の場合には、治療費は当該病院が直接労災保険へ請求を行うことから、原則として労働者が治療費を負担する必要はありません。一方で、労災指定病院以外の場合には、治療費についてあとから労働者が労働基準監督署に届け出を行うことにより、治療費が支払われます。したがって受診当初には、労働者自身で一時的に費用を負担する必要があります。

なお、治療費とは、障害の治療に必要であった合理的な費用であり、労働災害による受傷の関係で相当因果関係が認められる場合の費用をいいます。したがいまして、ごく軽微な受傷であるにも関わらず、長期間に及ぶ通院等を行った場合には、合理的な治療費と認められず、治療費が支払われない可能性があります。

2) 休業給付:通勤災害(業務災害含む)で受傷した場合に、骨折等の影響から療養のため会社を休んだ場合には、休業給付が行われます。なお、この場合の休業給付の算定には、給与基礎日額の80%が休業日数に応じて支給されます。

3) 傷病年金:障害の程度が重く、6か月を超過しても治癒せずに症状固定した場合、傷病年金が支給される場合があります。ただし、この年金の支給の可否については、労災認定基準の該当性などの法的論点があることから、弁護士に相談すると良いでしょう。

4) 障害給付:通勤中の障害により、症状固定後も後遺障害が残存した場合には、労災障害等級の認定基準に照らして、その等級に応じた障害給付がされます。ただし、このどういった具体的な後遺障害が、後遺障害認定基準に該当するかは、傷病年金が認められるかといった論点と同様に非常に難解です。

5) 遺族給付:通勤災害(業務災害含む)が認められる事案において死亡した場合、遺族給付として所定の金額が支給されます。なお、請求には時効期間が設けられています(受傷時より5年間)。

6) 葬祭料(葬祭給付):葬祭を行った場合も、一定の金額が支給されます。

7) 介護給付:後遺障害の残存により、介護が必要となった場合には、障害の程度により介護給付が受けられる場合があります。

このように複雑な内容になっているため、疑問などを感じた場合には、弁護士にご相談いただくことをお勧めしています。

通勤中の災害で労災が認められない場合はどうすればよいか?

通勤中の災害にあった場合であっても、労災が認められない場合には、どのようにすれば良いのでしょうか。

このような場合には、労働基準監督署に異議申立てを行うことが考えられます。異議申立ての書式等については、各都道府県の労基署によって公開されていますが、その管轄や具体的な方法は、法的に難しい論点を含みます。

また、労災認定を受ける前提として、加療を受けた機関の診療録等の取得が必要ですが、こうした手続についても、労働者個人で行うことは困難があります。他方で、一般的には通勤による労災については、会社等の使用者が申請してくれるものですが、何等かの理由によって会社等が労災申請してくれず、労災が認められないといった場合があります。

まとめ

一般論として、通勤途中で受傷した場合には、特段の難しいことはなく、会社等が労災申請してくれることが多いでしょう。しかしながら、会社の会合や飲み会等により、帰宅途中に受傷した場合などには、労災が認められるか否かが問題となる場合があります。このように、通勤による災害であっても労災が認められない場合もあることから、日ごろから、注意をもって通勤することはもちろんのこと、困った場合には労災問題に強いキャストグローバルの弁護士にご相談ください。

一覧に戻る