コラム

派遣社員と労働災害

  • 労働災害(労災)

近時は多くの企業において派遣社員を見かけることがおおく、企業側としても負担すべき労務管理上のコストを削減できるなどのメリットがあります。他方で、派遣労働者の安全管理義務といった側面について、おざなりとなる場合も散見され、派遣労働者が労災にあった場合にその責任の主体についてあまりよくは理解されていないようです。ここでは、派遣労働者と労働災害についてご説明いたします。

派遣社員が労災にあった場合にだれが労災申請するのか

派遣社員が派遣先で労災にあった場合には、まず、派遣元である派遣会社と派遣先の会社がそれぞれの事業所を管轄している労基署に労災の報告義務(「労働者死傷病報告」)があり、労災保険の手続きは、派遣会社で行います。
派遣会社だけでなく、派遣先の会社も一定の報告を求められるのは、派遣先も派遣社員に対し、安全配慮義務を負担しているためです(労働者派遣法45条参照)。
「派遣」は使用者と指揮命令を行うものが異なる特殊な形態であるものの、事業者がその指揮命令に従う労働者に対して負担する安産配慮義務は同様に負担すべきでしょう。
したがいまして、派遣先の会社でも、自社の社員と同様に派遣社員に関しても、同様に安全配慮義務を払うべきであり、なにも無頓着で良いといったことはありません。
なお、労災申請は派遣労働者本人も申請可能です。

派遣社員の労災認定は難しいのか

派遣社員にとって、労災にあった旨を派遣会社に報告するのは気が引けることが多いのかもしれません。
前項にも記載したとおり、労災が発生した場合には、派遣先の会社も一定の報告が必要であり、派遣先の会社からすれば大変な面倒と感じられることがあります。
派遣元と派遣先の関係から、派遣会社が労災のあったことを隠そうとするような場合もあり、このような場合には、派遣会社が協力してくれないため、事実上、労災認定が難しくなる場合があります。しかしながら、このような派遣会社の対応は違法と評価される可能性が高いでしょう。
派遣会社が協力してくれない場合には、弁護士に相談するとよいでしょう。

なぜ派遣会社と派遣先の会社は労災を隠そうとするのか

理由はいくつか考えられますが、一番大きいのは、労災保険を使用すると保険料率が上昇し、会社の固定費用が増加してしまうからではないでしょうか。

そのほかに考えられるのは、次のとおりです。

  1. 企業のブランドイメージ毀損、評判の低下
  2. 派遣会社が顧客を喪失すると考える
  3. 労災手続きが煩雑で面倒

派遣社員は中小零細企業から、大手まで幅広く利用されているだけに、大手企業で労災が起きた場合に、評判がさがり、近年であるインターネットを通じて一気に噂が拡散するため、可能であるならば隠したいといった気持ちが働くことがあるでしょう。
また、企業イメージが低下すると、新卒採用時に就活生から敬遠されるといったことも懸念され、派遣先の会社が労災申請に対して及び腰になりがちなのは致し方がないのかもしれません。
また、派遣会社にとって、派遣先の会社は顧客であり、労災申請することによって、派遣先も一定の報告書を労基署へ提出しなければならないことから、仕事を切られるといった懸念を感じ、隠したくなるといった可能性があります。
最後に、労災手続きは、定型様式に基づく請求書を労基署へ提出しなければならず、こうした事務作業を煩わしいと感じ、労災を隠すような場合が考えられます。

労災隠しをするとどうなるのか

労災隠しをおこなった場合、50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。労災隠しの罰則は、派遣会社も派遣先の会社も同様の規定が適用されます。
労災保険の手続きをとれば、本来は、派遣会社が負担すべき費用を、保険によって賄うことが可能です。労災隠しを行うことで、他の従業員の士気にも関わることなので、隠さずに適法に報告するのが良いでしょう。
対応に困った場合には、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

派遣社員が労災認定を自分で申請するためには

派遣社員であっても、労災にあった場合には、自分で労災申請を行うことも可能です。自分で労災の申請を行う場合には、労災にあった場合に、できるだけ早期に医療機関にて診療をうけて、医師から診断書診断書を取得すると良いでしょう。
労災とは、業務上疾病と通勤災害があり、一般的な労災は前者が多いでしょう。労災保険手続は労基署に備え付けてある請求書を提出するか、ウェブから請求書の書式をダウンロードして記載したのち、労基署に提出することによって行うことができます。
労災認定を受けるための要件は、その傷病と派遣先での業務との間に因果関係が認められることです。一般に、時間的に近接しているときほど、因果関係が強いと考えられることから、前述のとおり、出来るだけ早期に医療機関の加療を受け、医師から診断書を取得すると良いでしょう。

派遣労働者が医療機関にかかる場合の費用はどうなるのか

受診した医療機関が、労災保険指定医療機関の場合には、「療養補償給付たる療養の給付請求書」をその医療機関に提出します。この場合には、診療や療養の費用は医療機関を通じて労基署に提出されるため、派遣社員は療養費を支払う必要はありません。
他方で、受診した医療機関が上記の医療機関ではない場合には、いったん費用は派遣社員の立替払いとなります。その後、「療養補償給付たる療養の費用請求書」を、直接、労働基準監督署長に提出すると、その費用が支払われて取り戻すことができます。

派遣会社が労災保険を使用する場合に派遣先会社は何ら負担しないのか

派遣社員が労災にあった場合に、その際の労災給付は派遣会社が行うのが通常ですが、そもそも派遣先が原因で労災給付を行った場合には、求償権の行使として、派遣先企業に請求することが可能です。
派遣先の会社も原則的には、派遣社員に対して安全配慮義務を法律上負担しているのであり、これを怠ったのであれば、一般不法行為責任を派遣会社と連帯して負担します。派遣会社は事業者としての義務として、派遣会社に労災給付を行ったのであり、これをもって派遣元企業がその義務を免れるわけではありません。
換言すると、派遣会社が派遣先の会社の義務を肩代わりしたと考えられることから、派遣先の会社が派遣会社より求償権の行使をされる場合があります。

労災申請した派遣社員を解雇してもよいのか

一般的に考えて、派遣会社は労災を理由として、派遣社員を解雇すると不当解雇であると評価される可能性があります。
労基法19条には「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない」と規定されています。上記の規定のとおり、派遣会社が労災にあった派遣社員を解雇するには制限があります。
ただし、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、法的の一定の金額を支払うことにより解雇することができます(労基法19条、81条参照)。

派遣で労災が起きてしまった場合の再発防止策が重要

派遣で労災が起きていしまった場合、その事実を隠蔽するよりも、事実確認を行い、その再発防止策をとることが需要です。
事実確認をキチンと行うことで、派遣会社が負担する安全配慮義務を果たすことにもなりますし、また、労働環境の改善につながり、人材の定着に寄与します。また、再発防止策を行うことによって、将来の労災のリスクを軽減することにより、会社のリスクを回避することができるとも考えられます。
人手不足が深刻であるといわれている昨今において、人材は大変に貴重です。まして、労災にあって、一定期間休業するような場合には、会社にとってのおおきな損失となりかねません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。派遣社員であっても、派遣先の会社は十分な配慮をはらって労働させる必要があります。また、不幸にも労災が発生してしまった場合には、隠さずに労基署に報告をするようにしましょう。
対応に苦慮した場合には、弁護士に相談すると良いでしょう。