- 性別:
- 男性
- 子ども:
- あり
離婚原因がなく配偶者が離婚に応じないケース
1 事情
⑴ 経緯
相談者は40代の女性で,夫(40代)と離婚したいというご相談でした。
2人は同じ職場に勤務していたことをきっかけに交際を開始し,結婚に至りました。相談を受けた時点で2人の間には4歳の子供がいました。また,相談者と夫は約15年間同居生活を続けていましたが,相談に来られる3か月前に相談者が子供を連れて自宅を出る形で別居を開始している状況でした。
⑵ 相談者が離婚を希望している理由
夫は,相談者が相談に来られる数年前に突然,勤務先を辞めると言い出し,実際に退職してしまいました。夫の勤務先は60歳で定年退職することとなっており,夫が退職した当時まだ40代でしたので,定年退職まで10年以上ある状態でした。また,職場で何かトラブルを抱えていたという話も聞いていないとのことでした。
夫が退職する前あたりからおかしな言動が増え,退職した後から相談者及び子供に対する態度が厳しくなっていったとのことでした。相談者は夫が変わった理由について全く思い当たることがないとのことでした。
夫の言動がおかしくなり始めてからも何とか生活していたものの,相談直前に子供に対してひどく怒鳴ったり,相談者自身が危害を加えられそうになったため,本気で離婚をしたいと考えるようになり,相談に至りました。
なお,相談者も夫も不貞事実はありません。
2 相談に対する説明
⑴ 離婚を進める際の手続きの流れ
配偶者と離婚を進める方法としてはⅰ配偶者との協議,ⅱ離婚調停,ⅲ離婚訴訟の3つがあります。ⅰ配偶者との協議というのは本人自身が行ってもいいですし,代理人として弁護士をつけて行っても構いません。
日本では,ⅲ離婚訴訟をする前にⅱ離婚調停の手続を踏むことが定められているため(調停前置主義),一般的な流れとしては,ⅰ配偶者と協議をして,それでも成立しない場合はⅱ離婚調停をして,それでも成立しない場合はⅲ離婚訴訟となります。
ⅱ離婚調停というのは,調停委員2名が間に入って,双方の意向を確認しながら離婚の話を進めるという手続になります。話し合いがベースになりますので,離婚調停を申し立てられた側が離婚したくないと主張した場合やそもそも調停自体を拒否した場合,離婚が成立しないことになります。このため,離婚を強制するためには,ⅲ離婚訴訟で勝訴する必要があります。ⅲ離婚訴訟で勝訴するためには民法で定められている離婚原因が認められる必要があります。
⑵ 離婚原因(民法770条1項各号)
民法770条1項各号に以下の5つが離婚原因として定められています。
- ①配偶者に不貞な行為があったとき(1号)
- ②配偶者から悪意で遺棄されたとき(2号)
- ③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき(3号)
- ④配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき(4号)
- ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(5号)
⑶ 離婚原因の有無について
相談者から伺った限りでは,①配偶者に不貞な行為があったとき,③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき,④配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないときという事情がないことは明らかでした。
②配偶者から悪意で遺棄されたときという点につきましては,夫が特段の理由なく退職し,その後,自身の生活費を賄える程度のアルバイトをするのみでした。このため,夫として,配偶者(相談者)や子供の生活費を稼いでいないことから,悪意で遺棄したと考えることもできるかもしれませんが,他方で,相談者は家族全体の生活費を賄うことができるくらいの収入を得ていたこと,夫は家事や子育てを全くしていなかったわけではないという事情があるため,②ハイ愚者から悪意で遺棄されたと評価される可能性は低いと判断しました。
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときという点につきましては,長期の別居期間がある場合やドメスティックバイオレンスがあった場合に認められます。相談者の場合,別居期間は数か月しかなく,ドメスティックバイオレンスのような事情があったことは伺えるが,警察沙汰になったり,ケガを負わされたような事情はなく,また,証拠も残っていない状況でしたので,⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる可能性は低いと判断しました。
⑷ 相談者への説明
相談者に対しては以下の説明をしました。
- 上記⑴~⑶
- 夫が協議や調停で離婚に応じない場合,離婚が成立せず,訴訟では離婚が認められる可能性が低いこと
- ほぼ確実に離婚を成立させたいのであれば,このまま別居を続け,3年ほど経過した後に離婚の手続きを進めるべきであること
- 他方で,夫が応じれば離婚が成立すること,夫と寄りを戻すことは全く考えていないのであれば,結果はどうであれ気持ちを整理するという意味で離婚の話を進めること
その結果,相談者は,夫が離婚を拒否した場合,離婚が成立しないことを理解した上で依頼を希望されました。
3 夫との協議
私が依頼者(相談者)の代理人として夫と協議をしました。
最初に夫に対して手紙を送ったところ,電話による連絡があり,直接会って話をすることになりました。
夫はこれまでの経緯を手紙にしてまとめて持参されたため,当該手紙の内容を確認しながら,協議をしました。
夫としては,相談者に対して気持ちがあるため,離婚する気はなく,調停になったとしてもその気持ちは変わらないため,絶対に離婚には応じないとのことでした。
夫との協議内容を依頼者に伝えたところ,依頼者は予想していたとおりとのことでした。依頼者としては夫と一緒に生活することは考えられず,離婚したいという気持ちは変わらないとのことだったので,離婚が成立する可能性は低いものの調停を申し立てることとしました。
4 離婚調停
依頼者は夫の姿を見るだけで恐怖を感じるとのことでしたので,私は裁判所に事前に連絡して,依頼者と夫が接触しないように手続を進めることを希望している旨伝え,実際に合わずに手続きを進めました。
協議の際に,夫は絶対に離婚には応じないとおっしゃっていたのですが,1回目の期日の際に離婚に応じるという回答でした。離婚にあたりその他の条件を決める必要があったため,手続としては2回目の期日で離婚が成立することとなりました。
5 夫との協議
離婚原因がなく,配偶者が離婚に応じないという意向をお持ちの場合,離婚を成立させることは容易ではありませんが,弁護士を入れることで配偶者の気持ちが変わることがあるかと思います。お気軽にご相談下さい。