- 性別:
- 男性
- 子ども:
- なし
- 職業:
- 看護師
潔い男性と未練の強かった女性
1 事例
今回ご紹介させていただく男性は、ある日突然、法律事務所から電話がかかってきた方です。その内容は、あなたに対して慰謝料請求をするというものでした。
男性は既婚者であるところ、奥様に内緒で不倫をしており、しかも相手の女性には自分は未婚であると偽っていました。その後、男性は度々相手の女性から結婚を望んでいることを伝えられていましたが、男性は2年以上、相手の女性の要望をのらりくらりとかわし続けてきました。しかし、男性は奥様に、別の女性との不貞関係が明るみに出てしまったことをきっかけに、相手の女性との関係も告白しました。そして、男性は相手の女性に対して電話で謝罪し、今後一切会うことはできないことを告げたところ、今回の請求をされてしまったという事例です。
請求額が300万円と高額であったことから、男性は弊所へご依頼されました。
2 解決までの道筋
①依頼者の行為は違法といえるのか
まず、そもそも依頼者様の行為は慰謝料請求されてしまう違法な行為なのかをご説明します。
一般的に知られている慰謝料請求の類型は、既婚者が配偶者以外の異性と関係を持ったことで、夫婦の貞操義務に違反したことを理由に、配偶者から請求を受けるというものです。
しかし、今回の事例では、既婚者が配偶者以外の異性に対して、自らが既婚者であることを隠して関係を持っています。
誰しも、貞操権、すなわち、自らの意思によって関係を持つ相手を自由に選ぶことができるという権利を持っているのですが、相手の異性が既婚者であることを隠して関係を持った場合、本来望んでいた相手と関係を持つことができなかったということになります。
そのため、今回の事例では相手の異性の貞操権を侵害したことが違法な行為であると評価され、慰謝料を請求されてしまったということになります。
②依頼者様のご意向
どのような案件であっても共通して言えることですが、我々弁護士は(法律や弁護士 職務基本規程等に反するものを除けば)依頼者様のご意向を最優先に活動します。
相手方から請求を受けてしまった場合、請求の根拠となる事実関係を争って一切支払いには応じないと主張する、または、事実関係を認めつつ納得のいく額まで減額するよう交渉する、などの方針が考えられました。
今回の事例では、相手方代理人弁護士より、依頼者様宛に内容証明郵便にて相手方の主張が記載された書面が届いていましたので、書面の内容を確認のうえ、依頼者様とのお打ち合わせにてご意向を伺いました。
依頼者様は、相手方が主張する事実関係についてほぼ全て認めており、弁明等は一切していませんでした。ここまで高額な慰謝料を請求されていながら、なんとも潔い方だなという印象でした。
③貞操権侵害による慰謝料請求の相場
事実関係を全て認めたとしても、相手の言い値で慰謝料を支払うかどうかは全くの別問題です。
慰謝料請求の相場は、事実関係によって様々であり妥当な額を一概にお伝えすることは難しいですが、一般的には、以下の事情等が考慮要素として考えられます。
- 不貞期間
- 交際の経緯・積極性等
- 相手の異性との子の有無
- 謝罪の有無
- 婚姻関係の帰趨
今回の事例では、不貞期間は4年程度と比較的長く、交際は依頼者様からアプローチしたことで開始されました。また、相手の女性との間に子供はできておらず、依頼者様は深く反省し、相手の女性に対して謝罪の意思を伝えたいと初回のご相談時から仰っていました。
これらの事情から、慰謝料請求の相場としては100~150万円程度、高くても上限は200万円であろうと分析し、その旨を依頼者様との面談時にお伝えしました。
④交渉・解決へ
一般的に、男女問題の謝罪方法として当事者同士が直接会って謝罪するという方法は、無用なトラブルが生じるおそれがあることから得策ではないことが多いと考えられます。
しかし、今回の事例では、相手方が依頼者様からの直接謝罪を示談の絶対条件としてしたこと、また依頼者様も相手方に直接謝罪することで慰謝料額を抑えられるのであれば応じるというご意向であったことから、直接謝罪を行うこととなりました。その際、直接謝罪を行う時期は合意書の取り交わし後とすること、場所は相手方代理人の事務所で行うこととし、謝罪内容等に難癖をつけられるなどのトラブルが生じないよう、できる限りの予防策を講じておきました。
結果として、依頼者様が当初請求されていた慰謝料額から半額以上の減額をすることに成功し、今回の事例を解決に導くことができました。
⑤後日談
蛇足ではありますが後日談を語らせていただきますと、相手方の女性が直接謝罪を示談の絶対条件としていた理由は、相手方の女性がまだ依頼者様に気があり、そのことを直接謝罪の場で伝えたかった、というものでした。
男女関係の事情は千差万別ですが、相手方の女性にそのような意図があることをこちらが予め知ることができていたのなら、それを交渉材料にもう少し慰謝料額を減額することができていたのかもしれません。
3 解決のポイント
今回の事例は、依頼者様が事実関係を認めており、慰謝料額をいくらにすべきかということが問題でした。
依頼者様は潔く事実関係をほぼ全て認めており、慰謝料額を減額できる有利な交渉材料がほとんどありませんでした。しかし、数多くの裁判例を検討し、適切妥当な慰謝料額を見極めることで、有利な交渉材料を見つけ出し、依頼者様の納得のいく額まで慰謝料額を減額できたことが、早期解決のポイントになったものと考えられます。
このような交渉方法は、法律の専門家である弁護士ならではのものといえ、ご本人では相手方に対して適切な反論を主張していくことは難しいと思われます。それ以前に、特に男女問題では感情的な側面が強く出てしまい、当事者間での交渉は難航し問題解決に至らないということが多々あります。
法律の専門家であり、また交渉の専門家でもある弁護士に任せることで、時間的・精神的負担を減らし、適切な慰謝料額に抑えることが、依頼者様の健全な生活に資するものといえるでしょう。
ご依頼をお待ちしております。