- 性別:
- 女性
- 年代:
- 80代
- 子ども:
- あり
資産家の熟年離婚
1 概要
ご相談者さまはもうすぐ80歳の女性。もうすぐ90歳になる夫とは約30年前に結婚しました。しかし、結婚生活は穏やかなものではなく、日々「敬語を使え」などと怒鳴られたり、「親戚と連絡を取るな」と言われ親戚の葬儀にも出席させてもらえなかったりし、ついにはストレスによる難聴を発症するまでになりました。ご相談者さまはずっとこのような生活から逃れたい、離婚したいという強い気持ちを持っていましたが、相手方である夫から親戚などの外部に連絡することを制限されていたため、誰にも相談することができませんでした。しかしギリギリのところで異変に気づいた親戚の協力を得て、逃げるように高齢者施設に入所し、弁護士事務所にもご相談に来ていただくことができたのです。
2 初動
(1)離婚事件は、おおまかに分けると、交渉から始めるケースといきなり調停を申し立てるケースとがあります。なお、調停前置主義(家事事件手続法257条1項)ですので、調停を申し立てることなく裁判を提起することはできません。
そして、どういう場合に交渉から始めるかというと、ある程度離婚条件について柔軟に話し合いができそうなとき、すでに双方代理人が就任しているとき、しっかりと婚姻費用が支払われているときなど、交渉でも話し合いが進められそうだったり、裁判所を通じての解決がかえってご依頼者さまにとって良い解決とならない場合です。
そして、いきなり調停を申し立てるのは、婚姻費用が支払われていないとき、財産隠しをされている可能性がある場合とき、まったく話し合いができないときなど、ある程度裁判所の考え方の枠に沿って解決していくのが良いと考えられる場合です。
(2)今回ご紹介している事例では、相手方である夫が非常に高齢で意思疎通がしっかりできるのかどうか不明であったこと(弊所で受任した際には相手方である夫には代理人は就いていませんでした)、いわゆるモラハラ案件であったことから離婚条件についての話し合いも難航することが予想されたこと(すでに離婚には応じるけれども、お金は一切支払わないと言われていました)、婚姻費用の支払いがされていなかったことなどを理由に、すぐさま調停を申し立てることとし、準備を始めました。
3 調停
(1)申し立てる調停の種類としては、離婚を求めてその条件を決めていくという内容の「夫婦関係調整調停(離婚)」、婚姻費用の支払いを求めるという内容の「婚姻費用の分担請求調停」の2種類です。
(2)そして、離婚条件として決めていくべき事項は、一般的に「財産分与」「養育費」「面会交流」「慰謝料」「年金分割」などです。今回ご紹介している事例では、未成年の子はおりませんので、特に「財産分与」「慰謝料」「年金分割」を決めていくこととなりました。
もっとも、相手方である夫は当初より「お金は一切支払わない」という主張でした。相手方である夫の財産については、ある程度の財産開示はされていたものの、すべてではなく、財産隠しをされていました。さらに、相手方である夫の固有の財産(いわゆる「特有財産」)もたくさんありました。
財産分与についてきっちり話し合いをしていくとなると、双方の財産開示をするために財産の目録を作成したり裏付け資料をつけて準備していったり、財産隠しをされている分については裁判所を通じて財産の調査をしていくということになりますが、準備をしたり調査をするにはやはり多少の時間がかかります。
慰謝料についても、モラハラの事実関係の有無や内容に争いがある場合、請求する側が立証をしていかなければなりませんが、家庭内での出来事についてはなかなか証拠がないことも多いので、どうしても水掛け論となり解決までに時間がかかったり、なおかつ立証をしきれないということもあります。
そういった事情をふまえてご依頼者さまと方針についてお打ち合わせをっしました。その結果、ご依頼者さまもかなりの金額の特有財産があり、相手方である夫が把握していない財産もありました。また、これまでのモラハラについてひとつひとつを立証することは難しい一方でその記憶がご依頼者さまを苦しめており、とにかく早く離婚を成立させて旧姓に戻りたいというお気持ちが非常に強かったので、財産分与や慰謝料についてきっちり話し合いをしていくのではなく、年金分割だけして可及的速やかに離婚を成立させることを目標に期日を進めていきました。
(3)婚姻費用については、当事者双方の収入がわかって、その他の条件をあてはめていけば、ある程度の金額は「算定表」に沿って算定されますので、今回ご紹介している事例でも、早急に収入資料(年金の受け取り金額がわかるものや課税証明書など)を提出して、月額を算定し確定させました。
4 調停に代わる審判
当事者が高齢でかつコロナ禍ということもあり、裁判所の対応もイレギュラーなものとなっていました。通常であれば、離婚調停を成立させるときには、当事者本人が出頭し、裁判官が調停条項を読み上げるのを聞くという手続きを踏む必要がありますが、今回ご紹介している事例では、最終的に双方に代理人が就いていたこと、当事者が高齢で裁判所へ行くことが困難であったこと、コロナ禍で裁判所としても裁判所に来る人数を制限したかったこと、調停内で離婚条件について合意ができていたことなどの事情から、当事者本人が出頭しなくても調停を成立させたのと同じ効果がある「調停に代わる審判」という方法で事件を解決しました。
5 まとめ
今回ご紹介しているご依頼者さまは、最後に「旧姓で名前を書けることが嬉しい」とおっしゃりながら弊所との委任契約終了の書類に記入してくださっていました。離婚事件はたくさんありますが、ひとつとして同じものはありません。弊所にご依頼いただきましたら、ご依頼者さまのお気持ちやご意向をお伺いしながら、よりよい解決となるよう尽力させていただきますので、まずはお気軽にご相談いただければと思います。
監修:弁護士法人キャストグローバル
滋賀オフィス 家事担当(離婚)