- 性別:
- 男性
- 年代:
- 40代
- 子ども:
- あり
妻に支払ってきたはずの婚姻費用がなかったことにされている。即時抗告を申し立てたケース
1 事案の概要
依頼者は、約3年間家庭内別居状態にある妻と、家庭裁判所で離婚調停を1年以上行っていました。しかし、話が一向に進まず調停が不調となったばかりか、協議期間中に依頼者が支払い続けていた婚姻費用の支払総額について誤った判断が下され、60万円を超える金銭の支払いを命じられてしまったということでした。家庭裁判所の誤った認定に反論したい、何よりこう着状態にある妻との離婚協議を進めてほしいということで当事務所までご相談に来られました。
2 当事務所の対応
①家庭裁判所における審判と即時抗告
離婚関係の協議(財産分与・親権・養育費)や遺産分割等の家事事件は、一般的に当事者の話合いによって自主的に解決することが望まれます。そのため、まずは「調停」が申し立てられ、当事者間で話合いの場がもたれることが多いと言えます。ただ、当然話合いで解決できない事案も多々存在しますが、いつまでも結論を先延ばしにしていては当事者の生活が立ち行かなくなる場合があります。そこで、一定の事案(養育費の請求、婚姻費用分担の請求等)について、調停手続は「審判」手続へと移り、当事者から提出された証拠や調査官の調査結果などをもとに裁判所によって結論が示されることになります。
裁判所が下した審判には拘束力があります。仮に、審判によって定められた額の金銭支払いを怠った場合、権利者側は相手方に対して強制執行の手続をとることも可能です。審判内容に不服がある場合、当事者は2週間以内に高等裁判所へ「即時抗告」と呼ばれる不服申し立てを行わなければなりません。不服申立の期間を徒過してしまうと審判は確定しますので、注意が必要です。
今回のケースもまさに、夫と妻の間で調停による話合いが行われていましたが、事件が長期化し審判へと移行しました。これまで双方から膨大な量の書面が提出されていたためか、審判では依頼者が調停期間中に支払ってきた婚姻費用の金額に誤った判断がなされてしまいました。そこで、ご依頼後まずは何よりも2週間以内に即時抗告を行うことから早急に取り掛かりました。締め切りが迫っていたため、高等裁判所へ直接出向いて書面を提出するという形で対応しましたが、即時抗告は無事に認められました。結果として、依頼者は50万円以上の金銭支払いを回避することができました。
審判内容に不服があって争う際は、極めて短い期間内に準備を行う必要がありますので、一刻も早くご相談いただければと思います。
②離婚の交渉
婚姻費用の取り決めが一段落したところで、離婚の協議を行うため相手方である妻に連絡を取りました。本件は、離婚調停を1年以上継続させても一切折り合いが付かない案件でしたので、当事者の苛立ちと怒りは互いに限界に達しているという状況でした。そのため、弁護士が介入した当時、妻側の対応は予想通り非常に厳しいもので、互いの主張も真っ向から対立していました。
ただ、幸い双方ともに条件さえ合えば離婚したいという意向は合致していました。そこで、妻が以前より依頼者に提示していた離婚協議書案を確認し、合意できる箇所は合意することで理解を示しつつも、譲れない主張を絞り込みました。最終的には、養育費の支払額・終期の問題とマンションの分与方法のみが争点となりました。
養育費については、算定表を基準に、大学生である子の下宿費用を考慮した金額を卒業月まで支払うという柔軟な提示をすることでまとまりました。
一方、マンションの分与に関して、居宅であるマンションの取得を希望する妻に対して、依頼者は売却を希望していました。そこで、本件ではマンションを査定し、時価相当額の2分の1を妻から夫へ支払う方法(代償分割)を採ることとなりました。ところが、時価額をいくらと捉えるべきか再び大きな争いとなり、一時は訴訟提起を検討しました。もっとも、その後も妻に対して主張の根拠を示しつつ、交渉が決裂して訴訟提起をする場合はこちらが譲歩した点を撤回し得ること、調停の証拠を精査する限り妻の主張は裁判上認め難いこと、解決が数年先延ばしになること等を粘り強く説明し続けました。結果として、ご依頼をいただいてから約1年の時間を要しましたが、妻から相当な譲歩を引き出すことができ、公正証書を作成する形で協議離婚が成立しました。
3 結果
依頼者は不当な50万円の支払い決定から免れ、1円も渡さない(むしろ多額の慰謝料を請求する)と強硬に主張していた妻から350万円を受け取った上で離婚することができました。最後は公正証書作成の場に弁護士も立会いましたが、依頼者からはとても晴れやかな気持ちだと感謝のお言葉をいただきました。
離婚の協議をトータルとして有利なものとするためには、どのタイミングでいかなる主張をするかという判断が重要になります。本件の依頼者のように当事者間の協議では完全なこう着状態にある事案であってもお力になれるかと思いますので、ぜひ弁護士にご相談ください。