遺産分割の対象となる財産の範囲について
遺産分割を進める際には、その前提として「遺産分割の対象財産」、どの遺産を話し合って分けるのかを特定する必要があります。そんなの明らかじゃないの!?って思われるかもしれません。しかし、相続の場面では、まず、そもそも何を分けるのか、遺産分割の対象財産の範囲を巡って相続人同士が熾烈な争いを繰り広げるケースも多いのが実情です。遺産の範囲が特定されていないと、全体の財産が明確でないので、誰にどのように分けるのかという遺産分割協議を始めることすらできません。 今回は、遺産分割の対象となる財産の範囲について、ご説明します。
1. 遺産分割の対象となる財産
遺産分割の対象となる財産は、原則として、被相続人が死亡した時点で所有していた物や債権のすべてです。被相続人の負債も遺産分割の対象となります。 以下で、具体的にどのようなものが遺産分割の対象となるのか、みていきましょう。
1-1. プラスの価値のある資産
まず、プラスの価値のある資産として相続対象となるのは、以下のようなものです。 ●現金 ●預貯金 ●株式 ●投資信託、債券 ●不動産 ●貴金属、絵画などの動産 ●貸金返還請求権 ●損害賠償請求権 ●ゴルフ会員権 ●特許権 上記のように、現金や不動産、預貯金などだけではなく、貸金返還請求権や損害賠償請求権などの権利も相続対象となります。 たとえば被相続人が交通事故に遭い、賠償金を受け取らないまま死亡したケースなどでは、相続人が損害賠償請求権を相続して加害者に対して賠償金の請求をすることとなります。
1-2. 契約上の地位
資産とは異なりますが、契約上の地位も相続対象となるケースがあります。 被相続人から相続人に引き継がれる地位は、以下のようなものです。 ●賃貸借契約の賃貸人の地位 ●賃貸借契約の賃借人の地位 ●使用貸借の貸主の地位 ●金銭消費貸借契約の当事者の地位 ●売買契約の当事者の地位など
2. 遺産分割の対象にならないもの
以上に対し、遺産分割の対象にならないものは以下の通りです。
2-1. 生命保険金、死亡退職金
生命保険の死亡保険金や死亡退職金は相続財産に含まれず、遺産分割の対象になりません。いずれも死亡によって発生する債権であり、被相続人の財産ではないからです。いずれも、受取人として指定されている人がいますので、その人の固有財産ということになり、基本的にその人が全額受け取ることができます。 ただし遺産全体の額との比較において、生命保険金などが相当高額でありそのまま全額受取人に受け取らせると著しく不公平となる場合には、生命保険金などを特別受益と評価して相続割合の調整が行われる可能性があります。
2-2. 祭祀財産
祭祀財産も相続財産の範囲に入らず、遺産分割の対象になりません。 祭祀財産とは、墓石や墓碑、仏壇仏具や家系図などの資産です。これらについては「祭祀承継者」が引き継ぐこととなっているので、通常の財産分けの手続きである遺産分割協議によっては分割しません。 祭祀承継者は、被相続人による遺言、それがなければ慣習によって定めますが、それでも決められない場合には家庭裁判所が指定します。
2-3. 負債
借金や買掛金、未払い家賃などの負債も相続の対象となります。 ただ、これらを「遺産分割協議」によって分割することはできません。 借金などの負債は各法定相続人に、法定相続分に従って承継されるので、法定相続人が話合いによって「〇〇が全額の負債を承継する」などと定めることはできないのです。 もしも相続人が話し合いによって負債の承継者を決められることになると、支払い能力のない人に負債を押しつけることにより、債務の支払いを免れることができてしまい、債権者が不当に害されるからです。 ただし、相続人間における負担割合を定めることは自由です。たとえば兄弟3人がいるとき、長男が全額の負債を相続すると定めます。この場合、次男や三男も債権者から支払い請求が来たときに拒むことができませんが、次男や三男が支払った分については後に長男に返還請求できます。対債権者ではなく、相続人の間のみで有効な取り決めということです。
2-4. 一身専属的な権利義務
医師資格、弁護士資格、雇用契約の当事者の地位や養育費を受け取る権利や支払い義務など、その人であったからこその権利義務、一身専属的な権利義務は相続の対象になりません。
3. 遺産分割の対象になる財産を調査する方法
相続財産の範囲を特定するため、まずは被相続人宅に保管されている預貯金通帳や各種の契約書、現金、不動産に関連する資料などを探し、郵便内容もチェックしましょう。パソコンやスマホの内容をみてネット銀行やネット証券の情報を調べることも必要です。 不動産については市町村役場の固定資産税課税台帳の開示を受けると効率的に探せます。 他の相続人が被相続人の預貯金などの遺産を隠していると疑われる場合には、金融機関に取引履歴の開示請求をすることにより、遺産の有無や内容を明らかにできるケースがあります。相続人個人の力では調べられない財産についても弁護士であれば弁護士照会の手続きを利用して調査可能です。 以上のとおり、相続財産の範囲に関しても、様々な問題があります。これに加えて、特別受益、寄与分等もからんできますので、相続財産について争いが生じる可能性がある他の相続人とトラブルになりそうな場合には、我々弁護士がお役に立てます。安心してご相談下さい。