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- 【亡くなられた方】滋賀太郎(叔父)
- 【 相続人 】滋賀次郎(叔父)、滋賀一郎(兄)、滋賀花子(依頼者)
ご相談内容
本件は、滋賀花子(依頼者、相続人の姪)様からのご依頼を受け、滋賀次郎(叔父)を相手方として遺産分割調停の申し立てた事案です。 被相続人は依頼者の叔父さんで、生前、配偶者もお子さんもおられず生涯独身であったため、相続時に兄弟姉妹が相続人となり、被相続人の弟である滋賀次郎(相手方、叔父)と、被相続人の姉(既に死去)の子らである滋賀一郎(兄)と依頼者(妹)の3人が相続人となりました。 この場合、法定相続分は、被相続人の弟である相手方が2分の1、亡くなった姉の代襲相続人である依頼者と依頼者の兄がそれぞれ4分の1ずつ、となります。ところが、相手方の叔父は、「被相続人の生前、自分が被相続人の身の回りのお世話していたので、彼の遺産はすべてお世話してきた自分が受け取るべきだと」主張し、依頼者と依頼者の兄に対して、それぞれの相続分をすべて放棄するよう求めてきたのです。 確かに、依頼者も生前の介護については深く感謝をしており、その分、叔父さんに遺産を多く取ってもらう心づもりでおられました。もっとも、本件では遺産が土地や預金など合わせて総額1億円ほどあり、さすがに、多額の遺産すべてが当然に自分のものである、と叔父に言われたことについて納得できず、弊所に相談に来られたのです。
解決方法
遺産分割調停内で合意により解決
解決までの経緯
依頼者のもとには、「自分がすべて相続する権利がある。あなたには1円も渡さない」との趣旨の書面が届いており、相手方の主張の根拠資料と、相手方の考えるところの計算式も送られてきていましたので、担当弁護士が、法的にどこまで妥当性があるのか、その内容を確認しました。 すると、もちろん厳密には今後の詳細な調査が必要ではあるものの、どれだけ相手方に有利に見積もったとしても、到底、相手方が全額相続をできるケースでないことは明らかでした。もっとも、姪である依頼者が遺産分割協議を求めたことに対して相手方の叔父は相当に感情的になっていたため、当事者同士ではこれ以上はまったく話し合いにならない状態でした。 そこで、担当弁護士が代理人となって遺産分割調停を申し立てて、家庭裁判所を通じて話し合うことにしました。
「相続分の放棄」について
遺産分割調停を開始するにあたって、もう一人の相続人である相談者のお兄さんは、「自分は争いたくないので遺産の取り分はいらない。叔父と妹の二人で話し合って分け方を決めてもらえればよい。また、仕事がとても忙しいので遺産分割調停にはできれば参加したくない」というご意向でした。 そこで、担当弁護士からお兄さんに対し「相続分の放棄」という方法があることを説明し、遺産分割調停の手続内で「相続分の放棄」を行ってもらいました。 「相続分の放棄」とは、遺産に対する自らの共有持分権を放棄する旨の意思表示のことをいいます。相続分の放棄を行うと、原則として遺産分割調停手続に関与する必要がなくなり、家庭裁判所から排除決定を受けることにより当事者の地位を失うことになりますので、遺産分割調停には参加しなくてもいいことになります。 この「相続分の放棄」は、民法上規定されている「相続放棄」と言葉が似ていますが、法的にはまったく違う手続きです。 まず、民法上に規定されている「相続放棄」の手続きは、原則として、相続が開始したことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申述を行うことが必要とされますが、「相続分の放棄」には期間制限が特になく、放棄の方式も何ら問われません(ただし、遺産分割調停内で相続分の放棄を行う場合には、実務上は、実印入りの相続分放棄書の提出を裁判所から求められます)。 また、「相続放棄」をした場合は、放棄した人はじめから相続人とならなかった扱いとなるために、遺産に債務(マイナスの遺産)があっても、放棄した相続人は、遺産の債務を自らが負担する必要がありません(このため、相続放棄は、プラスの遺産よりも借金のマイナスの方が多い場合によく利用されます)。ですが、「相続分の放棄」は、あくまでプラスの遺産を相続しないというにとどまるため、仮に遺産の中に債務があった場合には、債務の負担からは逃れられませんので注意が必要です。 相続分の放棄を行った場合の計算方法についてですが、放棄された相続分が、他の相続人に対し、各自の法定相続分の割合に応じて按分されることになります。 今回のケースですと、相手方と依頼者の相続分は2対1の割合ですので、お兄さんの相続分である1/4を、「相手方2」対「相続人1」の比率で按分することになります。 具体的には、 相手方の相続分 1/2+お兄さんの相続分(1/4×2/3)= 放棄後の相続分2/3 依頼者の相続分 1/4+お兄さんの像族分(1/4×1/3)= 放棄後の相続分1/3 という計算になります。 なお、相続分の放棄は、他の相続人全員のためにする相続分の放棄以外に、同一の立場にある他の相続人のためにだけする相続分の放棄ということもあり得ます。たとえば、相続人が、代襲相続人の一人が別の代襲相続人のために相続分を放棄する場合、他の代襲相続人が放棄された代襲相続分をすべて取得できます。 もっとも、今回のケースでは、お兄さんはあくまで中立的な立場でいたいとの意向でしたので、上記の通り全員のために放棄してもらうこととなったのです。
「寄与分」とは
遺産分割調停手続内で、相手方は、被相続人の介護について「寄与分」の主張をしてきました。 「寄与分」とは、相続人の中に「被相続人の財産の維持または増加」について「特別の寄与」をした者がいる場合、寄与した相続人に対して遺産の中から「寄与分」を認めて、寄与した相続人に対して法定相続分に上乗せをする制度です。 たとえば、相続人が兄弟2人で、亡父の遺産が1千万円というケースの場合、法定相続分通りであれば、兄500万円、弟500万円をそれぞれ相続することになります。ですが、例えば認知症の亡父を介護施設に入れずに兄が介護をしたことで、亡父が介護施設に入らなかった分の費用200万円に寄与分が認められる、という場合には、遺産総額1千万円から寄与分の200万円を引いた800万円を「みなし相続財産」として、このみなし相続財産を兄弟二人それぞれが2分の1ずつで分けて、各自が400万円を相続し、これに、兄について寄与分200万円をプラスする、という方法で調整を行います。結果として、上記の例であれば、兄が600万円、弟が400万円、という遺産分割となります。
介護による「寄与分」が認められるか
高齢化社会が急激に進む現在、長年にわたって生前の親などの介護をした兄弟が、親の遺産分割協議の際に、介護を担当しなかった他の兄弟に対し、介護による「寄与分」を主張する、ということがよくあります。 もっとも、介護による遺産への寄与については、厳密な数字で表すことがかなり難しく、介護してきた相続人の側の負担感と、介護をしていなかった他の相続人の評価とがわかれてしまって相続人間の感情的な対立となることが多く、遺産分割調停が長引く原因の一つとなりがちです。 また、実務上、相続人が少しでも介護をしていれば誰でも寄与度が認められるわけではなく、介護による寄与分が認められるハードルは、一般の方が考えるよりもかなり高く設定されています。あくまで一つの目安に過ぎませんが、寄与度が認められるケースというのは、要介護度でいえば「2」以上というのが一般的な基準であり、被相続人が生前に要支援程度の状態であったというようなケースであれば、寄与分が全く認められないような場合もあり得ます。 また、仮に寄与が認められたとしても、遺産分割審判においては、外部の業者に委託せずに節約できた介護費用(介護施設を利用したりヘルパー等を利用して介護した場合の費用)の全額が寄与分として認められるわけではなく、業者に委託した場合の費用の70%程度(おおよそ50%から80%の間くらい)までが寄与度として認定されることが多いです。これは、業者とちがって、子どもが親の介護をすることは、子の親に対する扶養義務の一部であるとされていることが、その理由です。 たとえば、業者に依頼した場合の介護費用の日額が1万円程度して、100日間、長男が亡父の介護を担った、というような場合、日額1万×100日×0.7=70万円が寄与分として認められる、というような計算の仕方をします。 本件では、相手方は、被相続人の生前の生活状況について、10数年以上もの長い間にわたって、被相続人がひとりではまったく自立して生活できないような健康状態で、ほぼ毎日のように自分が被相続人の家に行ってあらゆるお世話をしていた、と主張してきました。そして、この寄与分が数千万円以上あるので、1円も渡したくない、と強硬に主張して譲歩しようとせず、双方の主張の調整のための期日を何度も重ねることとなりました。 ところが、調停内において、担当弁護士が、被相続人の生前の生活状況を調査すべく、裁判所を通じて要介護認定に関わる資料を市に対して開示請求を行ったところ、被相続人の要介護度は亡くなる直前でもせいぜい1どまりであり、要介護認定にあたっての調査員の生活状況の認定内容からしても、被相続人が亡くなる直前に入院するまで、日常生活のかなりの部分が自立できていたことが明らかとなりました。 つまり、被相続人の生前の生活状況は、相手方の主張する状況とは大幅に異なっており、必ずしも介護の必要性が高かったとはいいがたい状況で、また、毎日のように介護したという主張自体にも裏付けが薄く、もし仮に本件が遺産分割審判などで厳しく争われた場合、相手方の寄与分がほとんどゼロであると否定される可能性も十分に考えられるケースである、ということが、証拠上明らかになったのです。
調停の経過と結果
担当弁護士は、上記の調査結果をふまえて、相手方が今までのような強硬姿勢で過大な寄与分を主張し続けることとなると調停が不調となり、次の遺産分割審判に移行することになるということ、仮に審判に移行した場合には、紛争が長期化するだけでなく、結果として相手方の主張する寄与分が裁判所からほとんど認められず、相手方にとって不利な結論となる可能性も十分にあること、したがって、このまま強硬にけた外れの寄与分を主張を続けていても決して相手方にとってメリットはなく、調停内で解決するのが双方にとって望ましい、ということを説明しました。 他方、依頼者としても、長年の被相続人に対する相手方の介護への感謝の意があることから、調停内で平穏に解決できるのであれば、法的にいえば必ずしも寄与分として認められないような介護であっても、これに対する感謝の気持ちの表れとして寄与分を相当程度認めることはできる、という意向も伝えました。 こうした説得を受けて、次第に相手方の態度も軟化し、解決に向けて譲歩する姿勢を示したため、早期解決の観点から、相手方の寄与分を大幅に認めたうえで、もともとの依頼者の法定相続分である遺産総額の約1/4程度にあたる2500万円程度(預金約1千万円プラス収益物件を含む不動産1500万円ほど)を依頼者が取得し、残る部分を相手方が取得する、という案で、双方が合意することができました。 結果として、協議開始当初はゼロ提案だったものが、依頼者のもともとの法定相続分に相当する総額2500万円ほどの遺産を依頼者が取得できることとなり、親族間の紛争を泥沼化せずに双方が納得できる解決案に着地することができたことで、依頼者からも大変喜んでいただけました。