解決事例 解決事例

解決事例

遺産の範囲と生前贈与について争いが生じたケース

  • 【亡くなられた方】父親・母親
  • 【  相続人  】相手方(長男)・依頼者(次男)

ご相談内容

 お父様はお母様が亡くなられる数年前に亡くなっておりましたが、遺産分割協議などはしないまま、お母様が亡くなられてしまいました。  当初、依頼者様は相手方(長男)と紛争になるとは思わず、相手方(長男)と共に、行政書士のところに相談に行っておりました。  しかしながら、お母様が亡くなられる前に、相手方(長男)と依頼者様とでお金の管理の仕方や使った経費の報告等の取り決めをしていたところ、相手方(長男)が約束を守らないとか、相手方(長男)も依頼者様を疑うようなことを頻繁に主張するようになったということで、行政書士のところで共同で遺産分割を勧めるのが難しくなったと感じた依頼者様が、どうにか遺産分割協議を進めたいとのことでご相談に来られました。

解決方法

遺産分割調停内で合意により解決

解決までの経緯

(1)ご依頼までの間の事情  お母様は、生前に相手方(長男)とトラブルがあり、依頼者様に対して、多額の生前贈与を行っておりました。生前贈与といっても、一部はお母様の預金口座のカード等をそのまま渡して、好きなように使いなさいという形でした。依頼者様は、お母様の申し出にしたがって、預金口座から少しずつATMで出金をして自分名義の口座にお金を一旦移したものの、自分だけが多額の生前贈与をもらうのは悪いと考え、お母様が生前のうちに、相手方(長男)に説明の上で、お母様から生前贈与を受けた金銭を半分に分けようと提案しました。  その際に、自分一人が多額の生前贈与を受けたと説明したのでは、相手方(長男)が気を悪くするだろうと思い、お母様から預かっているからと伝えたところ、相手方(長男)から指定口座に半分を送金するようにと指示があり、実際に半分を送金していました。  お母様と相手方(長男)とのトラブルというのは、お母様が一度相手方(長男)のところで生活をすることになった際に、数千万円の現金を持参して行ったところ、現金で置いておくのは危ないから預かっておくと相手方(長男)に半ば強引に預けることになったが、お母様と折り合いが悪くなってお母様が相手方(長男)の家から出てからも預けたお金をなかなか返してもらえなかったというものでした。  依頼者様はお母様からトラブルの概要は聞いていましたが、お母様の生前に、いくらかは相手方(長男)から現金と送金とで返還を受けている様子であったこと、お母様の言い分を前提にすると、4分の1程度は返還されていないということでしたが、依頼者様が現金を見たわけではなく、多額の現金は全てお母様のタンス預金であったとのことだったため、お母様亡き後にいくらの現金を預けたのかという立証が難しいだろうと思われました。  依頼者様も当初は穏便に分割を進めたいという思いがあり、お母様が相手方(長男)に預けて未返還になっている部分については主張しないという方針でした。 (2)ご依頼後の交渉経緯  ご依頼を受けた当初からしばらくは、お父様の遺産目録とお母様の遺産目録について、相手方(長男)の代理人弁護士との間で、こちらの把握している事情や資料と相手方(長男)の把握している事情や資料などを照らし合わせて、双方で遺産調査を行っておりました。  これがあるはず、あれがあるはず・・と双方の思いがあったものの、これ以上は調査が難しいというところまできて、突如、相手方から生前引出しについて問題視する主張がなされました。  依頼者様としては、既に生前引出しのお金については、相手方(長男)に説明の上で半分を送金済みでしたので、今さらその点について問題視されると思っておらず、戸惑っておりました。しかし、生前引出しのお金の管理などについて相手方(長男)と話し合った際のメモなどもありましたし、実際に半額の送金履歴もありましたので、こちらとしても、その旨を改めて説明を続けておりました。  ところが、双方に弁護士が就任してから随分時間も経過しており、双方で双方主張の遺産目録も出し合いながら調整を進めていたにもかかわらず、今度はお母様の生前に相手方(長男)からお母様名義の口座に送金履歴がのこっていた多額の金員について、相手方(長男)の財産をお母様に預けたもので、お母様の遺産の範囲に含まれない(実質的には相手方(長男)所有の金員である)との主張がなされるに至りました。  この送金履歴は、前述のお母様の数千万円を相手方(長男)が預かったものを、お母様からの度重なる督促を経て、一部お母様の口座に返金したもので、相手方(長男)がお母様に預けたようなものではありませんでした。  このような主張が出てくるようでは、交渉では話がまとまらないということで、調停でのお話合いに移行することになりました。 (3)争点  大きな争点としては、お母様の遺産の範囲として、生前に相手方(長男)から多額の送金を受けている履歴があるものの、それがお母様の現金を返還してもらったものだという立証が出来るかどうかという点がありました。  お母様が相手方(長男)に強引に預かると言われて一旦渡してしまった現金はタンス預金であったため、口座の履歴には残っておらず、現金を預けたという客観的証拠が乏しいのが難点でした。  しかしながら、こちらに有利な証拠としては、お母様の生前に同時点で存在するお母様の財産の管理や依頼者様が生前贈与を受けて相手方と半分に分けた経緯などのメモが残っていたことや、長期間にわたって遺産の範囲について双方で遺産調査をしていたにもかかわらず、このような主張が突然出てきた不自然さという点でした。  また、もう一つの争点としては、実態に近いのは、依頼者様がお母様から生前贈与を受けて、その半分を相手方に贈与したということになりますが、依頼者様としては、生前贈与を自分だけが受けるのは良くないと思って半分にしたという点でした。生前贈与として主張するか預り金として主張するかという問題がありました。  相手方(長男)に送金した半分の部分も含めて、依頼者様が全額生前贈与を受けたということになれば、持ち戻しによって、遺産分割が受けられない可能性があります。その場合には、相手方(長男)に送金した半分については不当利得返還請求をせざるを得ませんが、これは贈与を受けたものだから返還義務がないと主張される恐れもありました。既に費消しているリスクもあります。 (4)解決への道筋  相手方(長男)は、調停の中でも、お母様から数千万円を預かった事実はないし、お母様から返還を求められたこともないと強弁しておりました。  当方としても、周辺事実から主張の矛盾点について丁寧に主張を繰り返しておりましたが、最終的には依頼者様が発見したお母様と相手方(長男)との間の電話の録音データが大きな解決への糸口になったものと思います。  相手方(長男)は頑なにお母様からお金を預かったことも返還を要求されたこともないと主張しておりましたが、録音データの中では、お母様が半ば強引に相手方(長男)にお金を預けることになったことや、お母様が何度も返してと主張していること、相手方(長男)も返すことは返すつもりであるなどと預かったことを認めた上で返還する意思を示していること等が明らかな会話がなされていました。  最終的には、相手方(長男)も、お母様が亡くなられた時点での遺産の範囲に同意し(相手方(長男)の財産であるとの主張を事実上撤回し)、その後は法定相続分通りの遺産分割の協議が進み、遺産分割調停が成立しました。 (5)コメント  本件では、紛争が長期にわたり、兄弟間の紛争にご依頼者様も心を痛めておられましたが、最終的にはご希望通りの解決が出来て、大変喜んでいただけました。  本件のように、被相続人の方が、意外と現金のまま大金を保管されている方もいらっしゃいますが、紛争になった時に現金があったのかなかったのか、いくらあったのかに争いが生じると立証が難しくなり、双方納得が難しくなってしまうケースも多々あります。また、生前引出しの問題も、相続の紛争では良く生じるところです。生前贈与は口約束に頼らず、生前の口座引出しについても使途なども含めて出来るだけきちんと記録を残しておくことで、紛争予防に役立つかもしれません。  いずれにしても、親族間での紛争は、どうしても当事者同士だけでは心労も大きくなってしまいますので、直接のやり取りをしなくて良いという点でも弁護士が入ることでお気持ちが楽になられる方もいらっしゃいます。お気持ちがしんどくなる前に、一度ご相談いただければと思います。