相続人のいない財産について
相続が発生した場合でも、配偶者も子もなく、さらに親兄弟姉妹の全員がいない場合には、被相続人の財産はどのような手続きが取られるのでしょうか。近年は晩婚化が進行し、生涯を独身で過ごすといった人が増加しています。こうした場合には、被相続人の財産は引きとり手がなく、さまようこととなってしまうのでしょうか。この記事では、こうした場合の流れについて説明いたします。
「相続人がいない」とは?
厚生労働省の平成26年版厚生労働白書によると、2020年の生涯未婚率の推計値として、男性26.6%、女性17.8%となっており、単純計算で日本人口の22.2%(男女比を1:1と仮定する場合)が生涯未婚となり、実に5人に1人程度は生涯未婚となるものと推計されています。 ここで、あらためて「相続人」について説明しますと、相続人とは大まかには次のとおりとなります。 1) 被相続人の被相続人の子および配偶者(民法887、890条) 2) 被相続人の父、母(直系尊属)(民法889条1号) 3) 被相続人の兄弟姉妹(民法889条2号) なお、相続の順位も原則的には上記の順番となります。すなわち、相続人がいない場合とは、相続権の第一順位である、配偶者も子もいなく、その次の第二順位の父、母もいなく、さらに、第三順位の兄弟姉妹もいないといった場合です。 出生率の低下により、一人っ子が増加している現在、最終的に相続人がいないといった場合が増加傾向にあります。
相続人が不明な場合は「相続財産法人」となる
被相続人につき、相続人が不明な場合には、被相続人の財産は「相続財産法人」と呼ばれるものとなり、当該相続財産法人を管理するために、相続財産管理人が家庭裁判所の選任により置かれます。 相続人が不明とは、相続人はいるが、行方不明といった場合はこれに該当しません。また、相続人がいない場合でも、例えば、包括受遺者(相続財産を包括的に遺贈された者)がいる場合には、「相続人が不明」な場合には該当しません(最高裁判所判決平成9年9月12日民集51-8-3887)。 相続人が不明の場合で、被相続人の財産が相続財産法人となった場合には、以後は、相続財産管理人によって、その財産は管理され、負債などがある場合には弁済がされ、以降、相続人が本当にいないのかどうか、全部で3回公告される手続きをとります(民法952条2項、958条)。
「相続財産法人」への氏名変更登記
被相続人の財産に、マンションや戸建てなどの不動産がある場合には、相続財産管理人によって、相続財産法人へ「所有権登記名義人氏名変更」という名称の登記の申請が行われます。一般的には、相続財産管理人は弁護士がその任務にあたり、上記登記手続きは、司法書士が担当します。なお、登記手続きには、登録免許税と呼ばれる税金が必要ですので、不動産1筆につき、1000円の税金が登記手続きで必要となります。
特別縁故者への財産分与とは
相続人が不明の場合で、債権者への弁済が完了し、相続人捜索の所定の手続きを経てもなお、財産が残っている場合には、特別縁故者がいる場合には、この者へ財産分与がされる場合があります。 特別縁故者とは、ⅰ被相続人と生計を同じくしていた者、ⅱ被相続人の療養看護に努めた者、ⅲその他被相続人と特別の縁故があった者がこれに相当し、例えば、内縁の妻などがこれに当たります。 この特別縁故者への財産分与とは、被相続人の合理的な意思を推定し(もし、財産を誰に与えるか聞かれた場合に、特別縁故者へ与えると答えるであろうと推定し)、被相続人の財産が国庫に帰属してしまう不条理を回避しようという制度となっています。
最終的に誰も引き取り手がいない場合には国庫に帰属する
相続人を捜索しても見つからず、負債などを弁済し、かつ、特別縁故者がいない場合には、最終的には被相続人の財産は国庫に帰属します。 この場合、被相続人が不動産を所有していた場合には、所有権移転登記が嘱託登記によってされますが、相続財産管理人が嘱託登記されることに関する承諾書を財務省に差し入れることにより、手続きが進行します。
最後の遺志を残すために遺言書を作成しましょう。
上記で説明してきたように、せっかく築いた財産が、行くあてもなく、国庫に帰属してしまうといった不都合を回避するためにも、遺言書の作成や、または、信託の手続きを行うなど対策しておくと良いでしょう。 遺言書の方式としては、公証人役場で作成をする、「公正証書遺言」がもっとも確実と言われていますが、2020年7月10日より、法務局にて、遺言書を保管するといったサービスが開始されます。 ご自身の財産を誰に残すかは、最後の遺志として重要ですので、弁護士に相談するなどして、どのように、手続きを行うかなどの相談が有益です。
まとめ
現行法上、原則的には相続人がいない場合は、被相続人の財産は、国庫に帰属します。ご自身で特定の団体や、寄付、あるいは、親交のあった人へ財産を残したいといった場合には、遺言書の作成や信託などが有効です。どうのようにしたら良いか迷うならば、弁護士に相談してみると良いでしょう。