今話題!配偶者の居住権(配偶者居住権)とは
相続が開始するとまずもめごとの種となるのが、被相続人の居住していた住居の扱いについてです。多くの場合、被相続人は高齢となって死亡しますが、同様に残された配偶者も高齢といったケースが多いことでしょう。従来は、配偶者もその住居に居住していた場合、場合によっては、その住居を出て行かざるを得ない場合があり問題がありました。法改正によって新設の配偶者居住権によってなにが変わるのか説明します。
配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者の生活の本拠を喪失させないため、また、制度設計として古くなっていた相続法の内容を現在に合わせるといった目的の基、平成30年7月6日に改正法が成立しました。 配偶者居住権とは、その名称のとおり、配偶者に「居住権」という形式の新たな権利を認め、長期居住権に至っては、その登記請求権まで認めるといった内容となり、短期居住権であっても、6か月間、無償での居住を認めるといった内容のものです。 これまでも、民法は「生活の本拠」を保護するといった趣旨の規定を設けていました。例えば、現在は改正されて削除されましたが、旧民法395条記載の短期賃借権保護の規定がありました。その他、民法の特別法という位置づけの借地借家法などに居住者の「居住権」を保護するといった趣旨の規定は存在しています。 他方で、高齢者の生活の本拠を保護するといった趣旨からは、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」といった法律があるものの、当該法律は、高齢者が日常生活を営むために必要な福祉サービスの提供を備えた高齢者向けの賃貸住宅等の提供を旨とし、良好な居住環境を備えた高齢者向けの居住の供給を促進し、高齢者の居住の確保を図るといった目的に限定がされています。 被相続人が死亡した場合の、配偶者の居住の拠点の確保といった問題は、高齢者に限定される問題ではありません。配偶者が高齢者ではなくても(高齢者より若いといった場合でも)、生活の本拠を失うことは大変な問題となります。例えば、長年住み慣れた土地を、相続を契機に離れなければならないといった場合、物質的に家を失うといった意味以上に、心理的な喪失が多いことでしょう。
長期居住権(配偶者居住権)とは
長期居住権とは、a.)遺産の分割によって配偶者居住権を取得するとされたとき、b.)配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき、c.)審判によって配偶者居住権を取得したときに、取得します。 また、長期居住権とは一般的な通称です。その名称のとおり、配偶者に長期(原則として終生まで)の無償の居住権を認めることで、その生活の本拠を保護するというものです。 長期居住権は、登記請求権も認め得られることから(新民法1031条)、物件的な性質を有するものの、その使用収益については、原則としては居住目的に限定がされます。 居住目的以外で使用収益しようとする場合には、所有者に承諾をえなければならず、仮に承諾を得ずに勝手に目的外での使用収益をした場合にあっては、長期居住権を消滅させられる可能性があります(新民法1032条4項)。この請求権は、いわゆる、形成権と解釈でき、長期居住権は所有者の負担によって成立しているところ、その趣旨を違える場合には、保護の利益は小さく、もって、所有者の請求という形式の単独行為によって、法的効果が生じるものと考えられます。
短期居住権(配偶者短期居住権)とは
短期居住権とは、配偶者が死亡した場合に、既に説明した長期居住権を取得しない場合に、取得するとされている短期の居住権です(新民法1037条)。基本的に想定されている内容としては、被相続人が遺言書を残していない場合や、残していた場合であっても、特段にその被相続人の住居の帰属について相続分の指定を行っていなかったといった場合です。 短期居住権が認められる期間とは、原則として6か月間となり、その期間の起算点及び終期は、遺産の分割によりその居住建物の帰属が確定した場合には、その日か又は、相続開始日から6か月を経過するいずれか遅い日となっています。なお、居住建物の取得者は、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申し入れをすることができるとされており(新民法1037条3項)、この場合、その申し入れの日から、6か月を経過することによって、短期居住権は消滅することとなります。
配偶者居住権制度の創設によって何がかわるか
配偶者居住権制度の創設により、民法だけでなく、家事事件手続法、都市再開発法、マンション建替え等の円滑化に関する法律、不動産登記法など、様々な法律の改正が行われました。 上記で長期居住権については、登記請求権が認められるといった内容について言及しましたが、改正不動産登記法81条の2によりその登記内容についての規定があります。 この内容を確認すると、長期居住権を登記する場合には、①存続期間と、②第三者に使用収益させる場合はその定めを登記事項としています。 また、長期居住権を登記する場合には、原則として「共同申請主義」(不動産登記法60条)により、他の相続人(遺言執行者がいる場合にはその者)との共同申請となり、審判によって取得する場合を除き、登記実務上は、登記義務者側の協力が得られないといった、あらたな問題が発生する可能性があります。 また、税法上の取扱いの変化も推察されます。配偶者居住権は、債権的な権利あるものの、税法上は財産的な価値があるものと判断される可能性があることから、一定の混乱が発生する可能性があります。 税法上の相続税の申告期限は、原則相続開始より10か月以内となっているところ、遺言書がない場合に、遺産分割が整わないといった場合には、相続税の申告面での障害となりそうです。さらに、配偶者居住権は「無償」で居住の目的での使用収益を認めるところ、税法上は財産的な価値があることから、相続税の負担に限定されず、固定資産税の負担等がどの者に帰属するかについても、問題となる可能性があります。
配偶者に住居または敷地を贈与しても遺産の対象外とは
法律上の婚姻期間が20年を超えている場合に、配偶者の一方が他方へ居住する建物または敷地を遺贈・贈与した場合には、その部分は特別受益とはなりません(新民法903条4項)。 例えば、夫が妻に生前、その居住している住居の建物または敷地を贈与した場合、これまでは夫の死亡時の財産に組み込まれて、遺産の対象となりましたが、今後は、その分は除外したのが遺産となり、遺産分割の対象となります。
配偶者居住権はいつから施行(法改正)か
配偶者居住権の制度が具体的にいつから、制度がスタートするかは気になるところです。法務省の公表によると、2020年4月1日と決定されています。民法は近年、いくつか改正が行われています(総則、債権法、成人年齢の規定等)。相続法に関しては、一部の規定として、自筆証書遺言に関しては、2019年1月13日から開始がされます。この他の原則的な規定は、2019年7月1日からとなりますので、配偶者居住権の制度改正まで今しばらく末必要があります。
まとめ
配偶者居住権とは、残された高齢の配偶者の住居を確保・保護するといった趣旨から成立した制度です。まだ、具体的な運用が開始されていないため不明な点も残ります。しかしながら、配偶者の無償での居住での拠点の確保といった点や、長期居住権の場合には、登記請求権が認められるなど(登記実務上は、登記簿上、乙区に「配偶者居住権設定」との文言が入るものと予想されます。)、革新的な制度とも言えそうです。今後とも注視していく内容だということは間違いないでしょう。