内縁関係での相続問題について
役所に婚姻届を提出していない「事実婚」の内縁関係の夫婦の場合、どちらかが死亡して相続が起こったときに大きな問題が発生する可能性が高いです。なぜなら、内縁の配偶者には直接的に相続権が認められているわけではないため、家や預貯金などが被相続人名義になっていると、残された内縁の配偶者の立場が危うくなるケースが多いです。 今回は内縁関係における相続問題について、解説します。
1. 内縁の配偶者には相続権がない
内縁の夫婦とは市町村役場に婚姻届を提出しておらず、戸籍が別々のまま共に暮らしている夫婦のことです。 婚姻届を提出している夫婦関係のことを「法律婚」というのに対し、内縁の夫婦関係のことを「事実婚」ということも多いです。 事実婚の内縁の夫婦であっても、さまざまな場面で法律婚と同様に取り扱われます。たとえば離婚の際には通常の夫婦と同様に慰謝料や財産分与の請求ができますし、一部の年金分割や遺族年金も認められます。 しかし遺産相続の場面では、法律婚と事実婚とで大きく取扱いが異なります。 法律婚の場合、配偶者はどのようなケースでも必ず法定相続人となり、2分の1~4分の3の非常に大きな法定相続分が認められますが、事実婚の内縁の夫婦の場合には、法定相続人として認められません。内縁の夫婦の場合、そもそも法定相続人にならないのですから、法定相続割合は0です。つまり内縁の配偶者が亡くなったとき、残された配偶者は一切の遺産を受け取ることができないということです。
2. 予想されるトラブル
内縁の配偶者が相続人になれないことにより、どのようなトラブルが発生する可能性があるのか、みていきましょう。
2-1. 預貯金を使えない
まず、被相続人名義になっている預貯金やその他の財産を一切使えない問題があります。 通常の夫婦の場合には、夫や妻が残した預貯金を配偶者が相続します。遺産分割協議を経たら、預貯金を解約出金したり名義変更したりして、自由に使えます。 しかし内縁の配偶者には相続権がないので、預貯金を相続することができません。被相続人名義の預貯金が夫婦財産の大半であった場合、内縁の配偶者は生活に困窮してしまう可能性があります。 内縁の配偶者が遺産を受け取るためには、家庭裁判所で「相続財産管理人」の選任を申し立てて、清算手続きを進めなければなりません。またこの場合、内縁の配偶者は「特別縁故者」としての分与が認められるだけなので、遺産の全額を受け取れるとも限りません
2-2. 被相続人の子どもが内縁の配偶者を追い出す
死亡した配偶者が再婚で前婚の妻や夫との間に子どもがいると、さらに問題が大きくなります。子どもは第1順位の法定相続人となるので、必ず遺産を相続するからです。 たとえば夫婦が居住している家が内縁の夫名義になっていて夫が死亡した場合を考えてみましょう。この場合、夫の前妻の子どもが不動産を相続し、内縁の妻は無権利となります。すると前妻の子どもが所有権にもとづいて内縁の妻に対して明け渡し請求をしてくる可能性もあります。内縁の妻には家の使用貸借の権利が認められるので、すぐには追い出せないこともありますが将来にわたって大きなトラブルの火種が残ります。 また、預貯金が夫名義だった場合には、預貯金も前妻の子どもに奪われてしまいます。
3. 内縁の配偶者に遺産を残す方法
このように、内縁の夫婦関係の場合、将来の相続に備えて内縁の配偶者に遺産を残しておく必要性が高いです。 このような場合にもっとも有効なのは「遺言」です。遺言を利用すると、法定相続人以外の人にも自由に遺産を分与できるからです。遺言書を作成してすべての遺産を内縁の配偶者に分与すると定めておけば、相続が起こったときに内縁の妻や夫に遺産を受け継がせることができます。 ただし、前妻や前夫の子どもがいる場合、遺留分が認められるので注意が必要です。 遺留分減殺請求されないためには、あらかじめ遺留分相当の遺産を子ども達に残す内容の遺言にしておくことがもっとも争いが起きないでしょう。しかし、すべてをパートナーに残したいという場合もあります。その場合は、必ず残せる方法はありませんが、いくつかの手段が考えられます。 もしくは遺留分減殺請求されたときの遺留分返還方法を指定しておくと、トラブルが拡大しにくいです。遺留分返還方法の指定とは、遺留分を返還するとき「〇〇の預金から返還し、それで足りなければ△△の預金から返還する」などと順番を定めておくことです。このようにしておけば、内縁の配偶者と子どもたちが遺留分の返還方法をめぐってトラブルになることを防げるのです。 内縁の夫婦の場合、お互いが健在なときは良いですが、いざというときに残された配偶者が何も相続できず、思わぬ不利益が及ぶ可能性があります。 お互いが元気でいるうちに、適切な遺言書を作成して将来の遺産相続トラブルを効果的に避けましょう。