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離婚・慰謝料 解決事例、コラム

当事務所で解決した離婚・慰謝料事例の一部のご紹介となります。

男性
性別:
男性
年代:
40代
子ども:
あり
職業:
会社役員

法人役員報酬・特有財産からの不動産所得がある方の養育費請求(請求を受ける側)

1 事案内容

 相手方(妻)から離婚請求を受け、離婚調停・婚姻費用・財産分与・面会交流など複数の問題で紛争が生じていた夫側(以下、「依頼者」とします)の事案ですが、今回ご紹介するのは、その後の養育費の問題になります。
 依頼者は、もともと自営業者で、相手方と結婚後に事業の法人化を行っていましたが、いわゆる家族経営の法人で、株主も依頼者一人が100%株主という形のものでした。法人化の後、相手方も役員に名前を連ねており、会社の経理関係については相手方も把握をしている状況でした。 
 相手方から、役員を辞任の上で離婚したいと言われ、退職金や多大な財産分与等の請求がなされました。依頼者としては、当初は離婚自体も承服しがたいところでしたが、相手方の離婚の意思は固く、別居状態が解消する見込みもなかったことや、相手方からの請求額が多額であったことから、このまま不安定な状態を続けることによる会社のリスクも考え、離婚自体には応じることにました。財産分与(及び離婚時までの婚姻費用の精算)についても、非上場の株式評価額の争点や寄与割合の主張もありましたが、双方譲歩の上で和解となりました。
 残るは養育費のみとなりましたが、相手方からは月額34万円の主張がなされ、裁判所からも審判移行前の時点では月額28~30万円程度と考えている旨の心証開示がなされおり、依頼者としては到底承諾できる金額ではなかったことから審判で争うことになりました。

2 養育費の算定方法(基礎収入について)

 養育費の算定方法としては、養育費を請求する側(「権利者」といいます)の基礎収入・養育費を支払う側(「義務者」といいます)の基礎収入・子どもらの生活費指数(年齢によって異なります)・親の生活費指数などの数値に基づいて算出を行います。
 基礎収入というのは、総収入から、税金や仕事のために必要な経費・住居費などの特別経費を差し引いた収入になります。基礎収入を導くための基礎収入割合というものが統計に従って算出されており、これらに基づいて養育費や婚姻費用の標準算定表というものが公表されています。総収入が高くなるほどに基礎収入割合は低くなり、事業所得者よりも給与所得者の方が基礎収入割合が低いということになります。
 標準算定表には、権利者側にも義務者側にも、給与所得者の総収入と自営業者の総収入とを併記しており、子どもらの人数や年齢に応じて数種類の算定表があるため、給与所得閉じ営業収入のどちらかだけの場合には標準算定表から月額養育費を割り出すことが可能ですが、給与所得と事業所得の二種類の所得がある方については、純粋に標準算定表を当てはめることが出来ないため、算出に注意が必要です。

3 本件での争点

 本件では、主に義務者である依頼者側の基礎収入が問題になっていました。
 相手方からは、以下の点が指摘されていました。
(1)一人株主の代表取締役であるから、役員報酬を依頼者が自由に操作できる。(養育費を低く抑えるために役員報酬を意図的に下げているので、本来はもっと高い役員報酬のはずである。)
(2)依頼者の特有財産からの賃料収入を基礎収入に含めるべきである。
(3)一人株主の代表取締役であり、会社経費を自由に使えることから、依頼者の役員報酬は事業所得として基礎収入を算出すべきである。

4 各争点に対する争い方と各争点に関する裁判所の判断

(1)役員報酬を自由に決められるとの主張について

  依頼者は、必死で会社を切り盛りしておりましたが、会社の売り上げが減少するに伴い、税理士のアドバイスを受けて赤字決算を出さないように若干の役員報酬の減額を行っていました。
  しかしながら、これは養育費を不当に減額させるために意図的にしたものでは全くありませんでした。依頼者が相手方から離婚要求と同時に相手方の役員退任申出を受けた後、依頼者分の役員報酬を増額している点も含めて、依頼者の役員報酬の増減の理由や経過、丁寧に主張することで、裁判所も依頼者の役員報酬の増減が養育費を不当に減額するために操作した事実は認められないとして相手方の主張を退けました。

(2)依頼者の特有財産からの賃料収入について

  特有財産からの賃料収入を基礎収入に含めるべきかどうかについては、事案によって裁判所の判断も分かれているところでした。相手方からは相手方に有利な判断がなされた裁 判所の決定なども引用の上で、賃料収入を基礎収入に含めるべきだという主張がなされて いました。
  この点についても、当方に有利な判断をしている裁判所の決定を指摘の上で、相手方の 指摘している賃料収入を基礎収入に含めるべきだという結論に至った決定の内容も吟味し、同事案と本件事案の相違点や、各裁判所の決定について判断が分かれている判断要素(当該賃料収入が「生計の資とされていたか否か」を指摘し、本件事案では賃料収入は生計の資とはされておらず、基礎収入に含めるべきではないとの主張を行いました。
  事実関係の争いとして、賃料収入が同居中に「生計の資」すなわち生活費の原資とされていたかどうかという点も争いになりました。同居中に家計管理を行っていた相手方から は、相手方が賃料収入の入る口座を管理しており、適宜出金して生活費にも使っていたという主張がなされました。
  しかしながら、賃料収入を管理していた口座からの入出金履歴を提示し、主として賃貸物件のローン返済や依頼者の会社への送金などにしか使われていないことや、口座を相手 方が管理していた経緯等からすると、一部が相手方によって出金されているとしても、同居中の生活費の原資とされていたとは言えないこと等を丁寧に主張したことで、裁判所も当該賃料収入が「生計の資」とされていたとは認められないとした上で、賃料収入を基礎 収入に含めることは相当ではないと判断しました。

(3)役員報酬を事業所得として基礎収入を算出すべきとの主張について

  個人事業主から法人化した家族経営の会社で、会社財産と個人資産や会社経費と個人消 費について明確に線引きが出来ていないというケースは確かにあります。しかしながら、本件では会社会計の適正化のためにも税理士を入れて法人化をしており、大きく経費を混同しているという点はありませんでしたし、仮に一部の会社経費が個人消費に使われているとしても、役員報酬を事業所得とするのは不合理であり、個人消費に流用されている会 社経費の部分を実質的な報酬として役員報酬に加算するに留めるべきであるという主張を行いました。
  実際に会社経費が個人消費に流用されている部分があるかどうかについては、会社の経 理も家庭の家計費も管理を行っていた相手方からかなり詳細な主張がなされ、こちら側でも事情確認の上で詳細に反論をしていきました。例えば会社名義の車を相手方が使用していたこと等、細かく見れば極一部は確かに個人消費と見ることも出来るような点もありましたが、最終的に裁判所は、仮に会社経費と個人消費が混同している部分があったとして も、役員報酬を事業所得として扱うべきではないと判断しました。また、会社経費を個人消費に流用されている部分を明示的に認定することもなく、役員報酬に加算するということもしませんでした。

5 結論

 最終的に、審判の結果、裁判所は上記各争点(1)~(3)のいずれについても、当方の主張を認め、相手方の主張を排斥した結果、月額の養育費を19万数千円と定めました。相手方も異議申し立てを行わなかったため、養育費については、当該審判内容で決着したということになります。
 相手方の主張額からは月額15万程度の減額、審判移行前の裁判所の心証開示の額からも約10万円程度の減額となりました。
 時間はかかりましたし、依頼者としても忙しい会社代表者としての仕事の合間での打ち合わせや資料集めは相当な負担だったと思いますが、粘り強く主張を重ねた結果、大幅な減額を勝ち取ることが出来ました。
 本件のように、特に標準算定表だけでは算出が難しい事情や、標準算定表から外れる例外的事情の主張を受けている場合には、当事者だけでは主張のポイントが分かりづらかったり、調停委員や裁判所からの案を受け入れてしまうリスクもあります。
 特に標準算定表から外れるような高収入の方や、本件のように会社代表者であったり、副業があって給与収入と自営業収入が混在している方や、前の配偶者との間の子に対する養育費支払いをされているケース等は、弁護士へのご依頼を検討された方が良いケースも多いと思いますので、是非お気軽にお問い合わせください。

監修:弁護士法人キャストグローバル
   立川オフィス 家事担当(離婚)