コラム
要介護者から暴行された方からの相談事例について
- 不法行為責任
1 解決事例
解決事例
今回は,訪問介護員の仕事をしている際に,要介護者から暴行された方からの相談事例についてご紹介します。
相談者について
相談者は要援助者の自宅に訪問して,身体介護や生活援助の行う,いわゆる訪問介護員の仕事をしていました。相談者は介護の仕事の経験が浅い方でした。
要援助者について
要援助者の年齢は40代の方であり,高齢者ではありませんが,精神疾患を持っている方です。精神疾患は持っているものの,薬を服用していれば,対人関係は問題がなく,意思疎通も問題なくできる状態です。
また,要援助者は,親元を離れ,1人暮らしをしており,仕事もしています。
ただ,精神疾患のため,完全に1人で身の回りのことができる状態ではなかったため,訪問介護サービスを利用していました。
なお,要援助者に結婚歴はなく,子供はおらず,家族は両親ときょうだいのみです。
事件の詳細について
事件があった当日,相談者は車で要介護者の自宅まで行き,1人で要援助者の自宅を訪問しました。
相談者は何度か要援助者に対して何度か対応がしたことがあったのですが,当日は要援助者の様子がおかしく,興奮している状態でした。
いつもどおり生活援助をしようとしたところ,要援助者から急に両腕をつかまれて,暴言を吐かれました。
相談者は身の危険を感じたため、その日はすぐに事業所に戻りました。病院に行ったところ,両上腕挫傷という診断を受けましたが,必要がなかったため継続的な通院はしませんでした(相談者本人としても通院するほどではなかったとのことでした)。
また,その日起きたことを勤務先の責任者に報告したところ,後日,相談者の方,勤務先責任者及び要援助者の両親で話し合いをすることになりました。
当該話し合いで,勤務先としては今回のことをおおごとにしたくないのか,要援助者の責任を問うことに消極的であり,また,要援助者の両親が示談金の提示をしたにもかかわらず当該示談金は払わなくてよいと相談者の承諾を得ずに勝手に断ってしまいました。
相談者としては,被害に遭ったとき非常に怖い思いをした上に,何事もなかったかのように収めようとする勤務先の態度に二次被害的に嫌な思いをしたため,何か金銭的に請求できるのであれば請求したいとのことでした。お金が目的ではないけれども要援助者側が何も責任を取らないというのは気持ちの整理ができないとのことでした。
なお,警察に対して被害届は提出したものの,警察の動きはあまりよくなく,要援助者の刑事責任を問うことに積極的ではありませんでした。
⑷ 弁護士への依頼
今回のように1回の通院のみで終わっている場合,裁判で認められる賠償額は少額になることが多いため,ご依頼を断ることが多いです。相手方から賠償される金額が弁護士費用を上回ればよいのですが,下回ることもあります。また,仮に上回ったとしても加害者から賠償された金額の大半が弁護士費用に充当される可能性もあります。
今回の相談者からの相談について,実際に初回の相談を受けた際にはお断りしました。理由は費用対効果の面で相談者のメリットが少ないためです。初回相談の際には相談者自身で対応すべきであること,相手方に対してどのように対応すればいいのかという点をアドバイスしました。
その後,相談者自身で対応していただき,進展があったので再度相談を実施することとなりました。初回相談時には相手方から具体的な金額の提示がなかったのですが。2回目の相談時には金額の提示がありました。当該金額は少なくとも弁護士費用を上回る金額でした。
また,相談者としては,相談者自身が対応すると元勤務先の責任者が関与してきて話が進まないこと,後腐れなく今回の件を解決することを希望されたため,金銭的な面以外のメリットを感じていただき,最終的にご依頼を受けることとしました。
⑸ 解決
ご依頼を受けた後,要援助者の家族に対して書面を送ったところ,要援助者側も弁護士に依頼するとのことで,弁護士から連絡をいただきました。
双方弁護士を入れたからと言って,揉めることはなく,金額の交渉をして,示談書を取り交わして解決しました。
依頼者に報告したところ,早期に無事に解決できたことについて喜んでいただきました。
2 検討
⑴ 請求相手等
今回の件に関して,損害を賠償してもらうために方法としては以下の3つが考えられます。
① 要援助者に対する損害賠償請求
② 要援助者の家族に対する損害賠償請求
③ 勤務先に対する損害賠償請求
⑵ ① 要援助者に対する損害賠償請求について
今回,ご相談いただいた件の加害者である要援助者は精神疾患を持っているとはいえ,薬を服用していれば意思疎通は問題なくできており,仕事もできていることから,要援助者に損害賠償責任が発生する可能性は高いと考えます。
しかし,資力はほとんどなかったため,賠償金を回収できる可能性が低いと考えられます。
⑶ ② 要援助者の家族に対する損害賠償請求について
過去の裁判例からすると,要援助者の家族に損害賠償義務は否定されているため,今回のご相談でも否定される可能性が高いと考えます。
ただ,全く同じ事案というのは存在しないため,認められる可能性はゼロではないと考えます。
また,今回のご相談では要援助者の両親が示談金を支払う意向をお持ちでしたので,示談金を受領し,無事に解決することができました。
⑷ ③ 勤務先に対する損害賠償請求について
勤務先に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が考えられますが,内容からすると要援助者の責任が大きいと考えられますし,仮に勤務先に対する請求が認められたとしても1日しか通院していないため請求額は非常に少額となってしまいます。
お困りのことがございましたらお気軽にご相談いただければと思います。
以上
監修:弁護士法人キャストグローバル