コラム

不貞行為に対する慰謝料請求の注意点

  • 離婚・慰謝料

1 はじめに

 今回は、不貞行為を行った相手方に対して慰謝料を請求する際の注意点をいくつかご説明させていただきます。特に、当事者のみの話し合いや、弁護士でない第三者の介入のもとで解決を図ろうとすると、思わぬところでトラブルが発生してしまうポイントをご紹介いたします。

2 不貞行為の証拠

  まず、不貞行為とは原則的には性行為(肉体関係)を行ったことが必要とされ、不貞行為があったことを立証するに足りる証拠を収集することは容易ではありません。

  最も有力な証拠となるのは、不貞関係にある当事者間の、性行為があったことを内容とするメッセージ(LINE、メール、SNS等)です。もっとも、当事者は後ろめたい行為をしている以上、用意周到な人であれば不用意なメッセージは削除してしまいますし、これを収集することは困難といえます。

  また、ラブホテルへの出入りを写真等で残すことができれば、これも極めて有力な証拠になります。ただし、不貞関係にある当事者が都合よくラブホテルを利用するとは限りませんし、ラブホテルへの出入りの瞬間をご自身で証拠化することは、よほどの執念がなければ難しいでしょう。

  探偵事務所を利用して不貞行為の証拠を利用することも考えられます。ここで注意いただきたいことは、相手宅へ連日張り込んで、宿泊している写真等をまとめた報告書は有力な証拠とはいえるものの、必ずしも決定的な証拠とはいえない点です。裁判までもつれ込んだ場合、相手方は不貞行為があったことを真っ向から否認してくるでしょうから、もっともらしい言い訳をされてそれを潰しきれなかった場合、不貞行為があったことを立証しきれず、慰謝料請求は認められないことになってしまいます。

  また、探偵事務所の費用は依頼する日数によっては100万円を超えることもありますが、その費用を必ず相手方に全額請求できるとは限らない点で、費用対効果にも注意する必要があります。

3 示談書・誓約書の作成

  無事に証拠を揃えられたとして、ご自身で相手方に直接交渉し、不貞行為を認めさせた場合、慰謝料を支払う旨の示談書・誓約書を作成されることでしょう。

  ここで注意いただきたい点は、その示談書を作成された経緯・状況や、示談書に書かれた内容によっては、たとえ相手方が認めた場合であっても裁判で無効と判断されてしまい、慰謝料請求は認められない可能性があるという点です。

  たとえば、東京地裁平成29年3月15日判決では「原告らの本件妻のマンションへの立入りの態様やその後のやり取りの内容は、その手段の点で正当な権利行使としての相当性を欠き、また、被告と同妻との不貞行為の期間が約半年間にとどまっていることに照らして、原告が被告に支払を誓約させた600万円との金額はやや高額に過ぎることから、原告らの行為は権利行使として認められる限度を超えた不相当なものであったと判断し、被告がこれに応じなければ不利益を被る可能性があるとの恐怖感を感じて応じたと認められる本件和解契約は、強迫により取り消し得る」との理由により、原告の請求を棄却しています。

  次に、慰謝料金額について、東京地裁平成20年6月17日判決は、「一般に不貞行為者が相手の配偶者から高額な慰謝料を請求された場合には、相手の言うがままに条件を承諾しようとする傾向があり、合意された1000万円という慰謝料額も相当に高額であることから、合意時に被告は1000万円の慰謝料を支払う真意を有しておらず、そのことを原告も知り又は知り得べきであったので、本件合意は心裡留保により無効である」として、1000万円の請求を棄却し、300万円の限度で慰謝料請求を認容しています。

  また、慰謝料金額とは別に、違約金を定めた場合、違約金額が過大であるとして違約金条項のみが無効と判断される場合もあります。東京地裁平成30年12月20日判決では、「本件示談契約のうち慰謝料200万円の支払の約定部分及び本件条項に係る約定部分について、原告が被告を強迫したとは認められないが、損害賠償額の予定と解することができる本件条項における違約罰の約定は、一見して、その想定される行為態様や内容に照らして著しく過大と評価するほかなく、公序良俗に反するものとして無効というべきであるから、本件条項に基づく違約罰部分としての200万円の請求は認められない」としています。

4 慰謝料回収

  作成の経緯や状況、記載内容とも問題のない示談書が作成されたとしても、きちんと定められた慰謝料を回収できなければ、示談書はただの紙切れにすぎません。

  相手方が観念して自ら支払ってくれれば問題ないのですが、示談書に署名・押印しても支払請求には一切応じようとしない相手方も往々にして存在します。

  慰謝料請求で最も注意しなければならないのが、この回収リスクです。なぜなら、支払う資力のない人に対しては、どのような法的手段を用いても慰謝料を回収することはできないからです。

  示談書を作成する際、相手方に慰謝料を支払う資力があるのか、それとなく探りを入れておくことが無難です。また、示談書に強制執行承諾文言を盛り込んでおき、これを公正証書化することで、裁判を経ずに強制執行(=差押え)の手続きに移行することができます。相手方の給与を差押えることを想定し、勤務先等の情報を押さえておくことも有力な手段になりえます。

5 おわりに

  いかがでしたでしょうか。

  不貞行為に対する慰謝料請求は世の中にありふれていると言っていいほどに日常的なトラブルですが、法的に検討しなければならない事項も多く、きちんとした回収まで見据えて専門家によるアドバイス・助力を受けることが、最終的な解決に資するものということができます。

  お困りの際には自力で解決しようとせず、まずは、離婚慰謝料に多くご相談いただいている弁護士法人キャストグローバルにご相談いただければと思います。