コラム
建物収去土地明渡請求についての解決事例
- 不動産・建築
第1 事案の内容
弊所で受任した賃料未払を理由とする建物収去土地明渡請求事件についてご紹介します。
事案の内容としては、依頼者の被相続人が相手方の被相続人に対してその所有する土地を賃貸していたところ、双方の被相続人が死亡後、相手方に賃料未払があることが発覚したため、建物収去土地明渡請求を求めたというものです。
ちなみに、「建物収去土地明渡請求」とは、建物を取り壊したうえ、土地を更地の状態で明け渡すことを求めるという意味です。
第2 解決までの道筋
1 交渉
本件では相手方が相手方の被相続人から相続により土地を取得しました。相手方は相手方の被相続人と生活拠点が別であったため、被相続人の賃料未払について何ら知らないという状況でした。そのため、交渉の当初から、相手方は「なぜ自分たちが出ていく必要があるのか分からない。」と述べておりました。繰り返し交渉しましたが事態に進展が見られなかったため、本件について訴訟提起をして解決することにしました。
2 訴訟
訴訟になっても相手方(以下、「被告」といいます。)の態度は変わりませんでした。それどころか、「なぜ出頭しなければならないのか。」「立退料の支払はないのか。」などとより一層態度を硬化させていました。
少しでも態度を軟化させるべく、当該土地は依頼者(以下、「原告」といいます。)の被相続人がかつて所有しており相続により依頼者が所有権を取得したこと、賃料未払は証拠上明らかであるから当該土地の賃貸借契約を解除したこと、賃料未払により解除した場合には立退料の支払義務がないことを丁寧に説明しました。
不動産のオーナー様からよくいただくご質問に、「借主が賃料を何か月も支払ってくれないので出ていってもらうよう伝えたところ、立退料を請求された。立退料を支払わなければならないのか。」というものがあります。結論としては、賃料未払を理由に賃貸借契約を解除する場合、立退料の支払は不要です。なぜなら、借主が賃料支払義務という賃貸借契約上の債務を履行していない以上、立退料という保護を与える必要はないからです。
裁判の話に戻ります。期日を重ねましたが、被告の姿勢はなかなか変わりません。裁判官も困り果てていました。そうこうしているうちに、新型コロナウイルスにより緊急事態宣言が発出され、裁判期日が取消しになり、しばらくの間期日が指定されませんでした。
そこで、私から被告のうちの1人(キーマンと思われる人物です。)に連絡をして、一度訴外で本件についてお話をさせていただきたい旨をお伝えしたところ、承諾を得ることができました。その方は遠方に居住されていたため、片道2時間程度をかけてその方との待ち合わせ場所に出向きました。
数分の雑談後、本件に関する依頼者の認識を丁寧にご説明しました。期日では時間が限られていることもあり、依頼者の認識を十分にお伝えできなかったからです。
その方は依頼者の認識を一通り聞いた後に、「私からも話してもよいですか。」とおっしゃったので、ご認識を伺うことにしました。お話の内容は、期日で聞いていた内容と大筋では同じなのですが、人間関係、事実経緯等の細かい部分についてはじめて知る情報も相当数ありました。
そこで、私から、「あなたの主張はよく分かりました。こちらとしても歩み寄れるところは歩み寄りますので、判決ではなく和解で裁判を終了させることをご検討いただけませんか。」とお伝えしました。すると、その方は、「こちらも判決になることは本意ではないので、和解で解決できるなら和解で解決したい。」旨述べられました。
本依頼者の主張どおりの内容で判決が出された場合被告は建物収去して土地を明け渡す義務を負います。ただ、被告がこの義務を履行しない場合、原告が別途裁判所に強制執行の申立てをする必要があります。この場合、申立人である原告がいったん建物の収去費用を負担する必要があります。法律上、原告が負担した費用を被告に請求することはできますが、強制執行に至るケースの場合、被告に資力がないことが通常ですので、実際に請求するケースは少ないです。
3 和解による解決
再開後の期日で、本件は和解で進めたいので、このまま期日を進行して欲しい旨を裁判官に伝えました。そして、期日外で被告と和解条件(建物収去費用の負担、退去日、建物内にある動産の撤去方法等)について複数回協議を重ねました。途中で様々な障害がありましたが、無事協議が成立し、依頼者にも和解条件についてご理解をいただけました。
訴訟提起から約3年後、本件は訴訟上の和解で解決することになりました。
第3 弁護士に交渉を依頼するメリット
交渉代理は原則として弁護士にしか認められておりません。交渉は皆さま日々行われていると思われますが、弁護士が行う交渉は他人の紛争事件に関する交渉を代理して行うという点に特徴があります。紛争事件の場合、相手方が感情的になっていることが多いため、こちらも感情的になって不必要な発言をしてしまい、それが最後まで尾を引くこともあります。交渉の経験が豊富な弁護士であれば、相手方の主張を冷静に分析しつつ、依頼者の最善の利益を実現するよう交渉することが可能です。本件も時間こそかかりましたが、交渉によりよい解決ができたと思います。
以上
監修:弁護士法人キャストグローバル