コラム

管理監督者性・労働時間等が争われ、控訴審で180万円の和解で解決した事例

  • 残業代請求

事案の概要

本件の依頼者は、運送会社の支店長として勤務していましたが、これまで早朝や時間外にドライバーの確認業務や代理ドライバーの手配業務(手配できない場合には代理でのドライバー業務)、深夜早朝に関わらずトラブル対応や休日出勤を余儀なくされる状況で勤務を継続してきたが、残業代を支払われたことがないことや、パワハラの訴えもあり、相談当初には相当疲弊されているご様子でした。

労務実態の把握

本件では、タイムカード等による労務管理がなされておらず、ドライバーについての運行日報・点呼簿などが作成されているに過ぎませんでした。

存在するはずの運行日報や点呼簿についても会社管理であり、資料が散逸したり改ざんされたりしないよう証拠保全の申立てを行いました。

証拠保全とは、証拠隠滅等しないように当日に裁判官や書記官・申立代理人が現場に行って、申立書に記載した保全すべき証拠をその場で提出させて保全(コピーや写真撮影)を行う手続です。

この手続により、一部の運行日報や点呼簿は提出されましたが、現在所在が分からない・作成していない・現在別の場所にある等の主張により提出されなかったものもありました。

その他に依頼者の労働実態を把握できる資料としては、依頼者が付けていた日記がありました。取引先に資料が残っているはずといえる業務に関しては訴訟提起後に文書送付嘱託等により取引先からの資料の提出を受け、依頼者が付けていた日記の裏付けとしました。

また、会社が依頼者に貸与していた携帯電話の通話履歴を取り寄せ、深夜早朝の多数の電話なども日記の裏付けとして提出しました。

争点

争点は、多岐にわたりましたが、主な争点としては、①依頼者が管理監督者に該当するかどうか、②依頼者の労働時間が争われました。

1.管理監督者=「監督若しくは管理の地位にあるもの」(労働基準法41条2号)とは

依頼者が労働基準法上の「監督若しくは管理の地位にある者」すなわち「管理監督者」に該当する場合、労働基準法で定められた労働時間、休憩及び休日の規制を受けないため、会社側は残業代や休日割増賃金の支払義務がないということになります。

本件でも、会社側は、依頼者が支店長という立場であり、労働基準法上の「管理監督者」に該当するため、残業代の請求は棄却されるべきだとする主張を行っていました。

しかしながら、単に肩書として「支店長」や「管理者」「監督者」という名称を与えられているということだけで労働時間等の規制が及ばないということになると、会社側がこのような肩書を与えることで労働時間等の規制を免れることになるため、裁判例でも単に肩書のみで管理監督者性を判断していません。

裁判例においては、管理監督者が労働基準法に定める労働時間等の制約の適用を除外されている趣旨は、管理監督者が経営者と一体的な立場に置いて、労働時間等の制約を超えて事業活動をすることを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置がとられていることを前提に、労働時間等に関する規制の適用を除外されても当該労働者の保護にかけるところがないものと解されています。

具体的な判断基準としては、①職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか、③給与や一時金において管理監督者にふさわしい待遇がされているか等の事情を考慮して判断されています。

本件の依頼者、支店長として、アルバイトの採用面接、本社での業務会議への出席、従業員給与のデータ管理、運行管理者として点呼やドライバー欠員の際に交代を行うことや、取引先からのクレーム対応などを行っていました。

しかしながら、経営に関する意思決定に関与していたとはいえず、その待遇(給与等)においても管理監督者にふさわしい待遇がされていたともいえないこと等から、第1審判決においても、依頼者の管理監督者性は認められませんでした。

2.依頼者の労働時間

ア 第1審判決

一方で、依頼者の労働時間の認定に関しては、会社の労務管理が杜撰であり、客観的なタイムカード等の資料が揃いませんでした。会社側は、支店の労務管理は支店長の責任だと指摘し、資料等の散逸についても支店長であった依頼者の責任だと主張していました。

前述の通り、本人の作成していた日記や一部の日報・取引先の資料・携帯電話の通話記録・同社員の陳述書や尋問などから出来る限りの立証を行いましたが、第1審判決は、労働基準監督署が労災に関して一定時間の時間外労働の事実を認定しているにもかかわらず、時間外労働の存在を認定出来ないと判断し、依頼者の残業代請求を一切認めませんでした。

イ 控訴審和解

依頼者の管理監督者性を否定しながらも、会社の労務管理が杜撰であったばかりに労働時間の立証が困難になっているにもかかわらず、残業時間を一切認めなかった第1審の判断は、労働者側の立証責任を過度に重くしていることや、労働者側で出来る限り客観証拠とも照合した上で立証をしている証拠の評価を誤ったものであって、到底受け入れられるものではなく、控訴を行いました。

控訴審では、裁判所から、依頼者の日記記載のみで残業時間を認定することは困難だが、客観的な証拠と照合出来ているものと、そこから推認できる範囲では認定が可能であり、一定の残業代が認められること、判決になれば付加金も同額になるとの見解が示され、パワハラについても事実認定の困難があるが残業代に若干の上乗せという形での和解を検討するよう双方に指摘がありました。

最終的には、会社側も、控訴審裁判所の見解を踏まえて、最終的には解決金として180万円の支払を認め、和解成立となりました。

まとめ

本件のように管理監督者性に争いが生じているものや、労務管理が杜撰でタイムカード等による客観証拠がない場合の労働時間の認定については、かなり資料集めや主張立証に工夫が必要になることがあります。

しかし、タイムカード等がないからといって、全て認められないわけではありません。残業代請求について労働時間についての立証責任は労働者側にありますが、使用者側には労働者の労働時間を適正に把握する義務があります。

本件は和解で終結したため、裁判例にはなっていませんが、別の裁判例でも「出退勤管理をしていなかったのは、専ら被控訴人(会社)の責任によるものであって、これをもって控訴人(労働者)に不利益に扱うべきではない」(大阪高裁平成17年12月1日判決)と判断しているものもあります。

今回のケースでも苦労はありましたが、最終的には残業代請求が一定程度認められたことで依頼者の方には大変喜んでいただけました。

管理職だから・・・タイムカードがないから・・というだけで直ちに残業代請求が出来ないわけではありませんし、会社側としても、普段から労働者の労務管理を適切に行うことで従業員の生産性だけでなく、会社の信頼やリスク管理のためにも重要だと思います。