行き過ぎた相続税対策に注意!
相続税対策として、不動産を購入するという方法を聞いたことがある人も多いの ではないのでしょうか。これは以下のような仕組みを利用したものです。 まず、相続税法22条は次のように規定します。「この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によ」る。つまり、相続税は相続する財産の時価を基準とするわけです。この場合、現金や預金であれば、「時価」はその当時の金額であるため、明らかであるといえます。これに対して、不動産はそれがいくらであるのかといった評価が加わるため、その評価の方法によって、違いが生じてきます。この点につき、国税庁は通達により、宅地は基本的には「路線価」を基準に評価し(財産評価基本通達11(1))、家屋については「固定資産税評価額」を基準に評価するとしています(財産評価基本通達89)。「路線価」や「固定資産税評価額」は、一概にはいえないものの、公示地価のそれぞれ8割や7割ぐらいの価額になることが多いようです。これによって、現金を相続する場合よりも、不動産を相続する方が、相続税を計算するための基準となる額が低くなる可能性があることから節税につながるというわけです。
最高裁判例(最判令和4年4月19日Westlaw Japan 文献番号 2022WLJPCA04199001)
以上のような状況の中で、近年、注目すべき最高裁判例(最判令和4年4月19日Westlaw Japan 文献番号 2022WLJPCA04199001)が現れました。事案を簡単に説明します。相続した2つの不動産について、相続人らが通達の定める方法により、相続税の申告をしました。つまり、「路線価」や「固定資産税評価額」をもとに相続税を計算し、その通り申告しました。これに対し国税庁が「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」(財産評価基本通達6)という規定に基づき、不動産鑑定士による不動産鑑定評価基準をもとに、相続税の計算をし直し、相続人らに対し、相続税の更正処分および賦課決定処分をしました。そこで、相続人らが、これらの処分の取消を求めたという事案です。 この点につき判例は、財産評価基本通達は内部通達にすぎず、直接国民に対して、法的拘束力を有するわけではないから、通達による評価基準を上回る鑑定評価額をもとに相続税を課したとしても、相続税法22条に違反するものということはできないと判示しました。他方で、平等原則の観点からは、「課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。」としています。そして、当該事案においては、①通達評価額によると相続人らの相続税の負担が著しく軽減される上、②相続人らが租税負担の軽減を意図して、本件における不動産の購入とこれらの購入のための借入れを行ったということを指摘し、これらの事情により、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、通達評価額によらないことにつき、合理的な理由があったとして、本件各処分の取消を認めませんでした。 本判決により、行き過ぎた相続税対策には財産評価基本通達6を根拠とした歯止めがかけられる可能性が出てきました。ただし、本件においては、被相続人が亡くなる前の相続開始に比較的近い時期において、多くの融資を得て不動産を購入したといった事情、購入した時点において被相続人が高齢であるといった事情、および相続開始後、比較的短期間で本件不動産を第三者に売却しているといった事情が見受けられます。相続税の節税のために不動産を購入する場合にはこれらの事情に考慮しつつ、購入を検討する必要があるでしょう。しかし、その判断は過去の裁判例を踏まえた専門的な知識を要する場合も少なくありません。そのような場合には、相続に関する専門的知識を有する弁護士を擁する弊所にご相談ください。 以上