死亡逸失利益はどのように計算されるのか
交通事故で被害者が死亡した場合、遺族は加害者に対し、被害者の死亡によって生じた「逸失利益」も損害賠償として請求することができます。
死亡による「逸失利益」とは、「交通事故で被害者が死亡していなければ、被害者が将来得ていたはずの利益」のことです。
例えば、働き盛りの40代サラリーマンの被害者が事故で死亡したとしましょう。
彼は事故に遭わなければ、高い確率で定年まで働き、給料という形で毎月収入を得ていたものと考えられます。
その収入を事故によって奪われてしまったので、その奪われた利益(逸失利益)を加害者に賠償してもらうということです。
では、この逸失利益はどのように計算されるのでしょうか。
死亡による逸失利益は基本的に、以下の式によって計算されます。
- 逸失利益=(1年あたりの基礎収入)×(1−生活費控除率)×(勤労可能年数に対応するライプニッツ係数)
自賠責保険、任意保険、そして裁判の全ての計算の場面において、この式が用いられます(もちろん、個々の要素の数字が多少異なることはあります)。
以下では、この式のそれぞれの項について詳しくみていきましょう。
なお、この記事では裁判になった場合に適用される基準(「赤い本」の基準)について説明しています。
1年あたりの基礎収入の算出方法
まずは被害者の1年あたりの基礎収入ですが、これは仕事の有無や種類によって計算方法が異なります。
働いている人の基礎収入
サラリーマン (給与所得者) |
事故前年の実収入 |
---|---|
個人事業主 | 前年度の確定申告での申告所得額 |
会社役員 | 労働の対価としての役員報酬 (配当としての役員報酬は基礎収入には算入されません。) |
ただし、被害者が若年者である場合は異なります。
若年者は年齢が上がるにつれ、少しずつ収入が上がっていく可能性が高いため、事故前年の収入を基礎収入として逸失利益を計算すると、不公平に低い値が算出されてしまうのです。
そのため、被害者がだいたい30歳以下である場合、基礎収入には厚生労働省の賃金センサス「全年齢平均賃金」が用いられます。(関連リンク:厚生労働省|賃金構造基本統計調査)
専業主婦や失業者などの基礎収入はどうなるか
では、被害者が幼児や学生、家事従事者(専業主婦など)、無職だった場合は、基礎収入はどう計算されるのでしょうか。
幼児や学生
賃金センサスの全年齢平均賃金額が用いられます。
18歳(大学生などの場合は大学卒業予定年齢)から就労を開始するとして計算します。
また、被害者が女児であった場合は、男女別でなく男女計の全年齢平均賃金額を用いることもあります。
家事従事者(専業主婦など)
賃金センサスの全年齢平均賃金額が用いられます。
ただし、58歳以上の場合は減額されることもあります。
また、一人暮らしの家事従事者の場合は、他の人のために家事労働をしているとはいえないため、全年齢平均賃金を基礎収入とすることは認められません(基礎収入なしとなります)。
失業者
無職者の場合は収入がないため、基礎収入も0と計算されます。
ただし、労働能力や労働意欲があり、再就職の蓋然性が高いと認められると、再就職によって得られたであろう収入の額が基礎収入として用いられます。
高齢者・年金受給者
賃金センサスの年齢別平均賃金額を基礎収入として用います。
ただし、就労の見込みのない者については、稼働収入についての逸失利益は認められません。
年金受給者であれば、年金収入に対する逸失利益は認められます。
ただし、遺族年金については逸失利益として認められません。
生活費控除率を使って生活費を差し引く
次に、生活費控除率について説明します。
そもそもこれはどういった意味がある値なのでしょうか。
もし被害者が生き続けていたら、当然、毎日の生活費として収入の一部を支出していたでしょう。
しかし死亡してしまったため、給与などの収入がなくなった一方で、生活費の支出も免れることになったのです。
そのため、支出されなくなった生活費分は、逸失利益の計算の上で差し引くことになっています。
この差し引く割合のことを生活費控除率というのです。
生活費控除率は、被害者の家族構成や家庭内の立場によって変わります。
原則として以下のとおりとなっています。
被害者が大黒柱であった場合の生活費控除率
- 被扶養者1名であれば40%
- 被扶養者2名以上であれば30%
被害者が大黒柱でなかった場合の生活費控除率
- 女子であれば30%
- 男子であれば50%
就労可能年数はどのように考えられているのか
次に、上の計算式の最後の項、「就労可能年数に対応するライプニッツ係数」とはなんのことでしょうか。
就労可能年数とは、事故で死亡しなければ働くことのできた残りの年数のことを指します。
就労可能年数は原則として、死亡時から67歳になるまでの年数として計算されます。
ただし、被害者がまだ就労年齢に達していない幼児や学生だった場合は、18歳から(大学生などの場合は卒業予定年齢から)67歳まで働くものとして計算されます。
また、被害者が高齢者であった場合には、67歳までの年数と、「簡易生命表の平均余命の2分の1」のうち長いほうを就労可能年数とします。
では次に、就労可能年数に対応する「ライプニッツ係数」について説明しましょう。
ここで確認しておくと、逸失利益とは、被害者が稼ぐはずであった収入を、損害賠償として支払ってもらうものです。
しかし、稼ぐはずだった(と推定される)金額を被害者側の遺族が一括で受け取り、そのお金を銀行等に預けて利息を得ると、その分だけ、被害者側が余計に得をしてしまうことになります。
そのため、ライプニッツ係数を掛け合わせて、被害者側・加害者側の間で不平等が生じないように調整するのです。
ライプニッツ係数は、就労可能年数によってその値が決まります。
そのため、就労可能年数が算出できたら、ライプニッツ係数は表(国土交通省が公表しています。)から探し出すだけですぐに判るのです。
被害者が18歳未満の場合と18歳以上の場合とで使用する表が異なるので、そこは注意してください。
ここまで逸失利益の計算方法についてご説明いたしましたが、実際の所一般の方が正しい計算をすることは非常に難しいでしょう。
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