遷延性意識障害と脳死の違い

交通事故に遭うと、最悪の場合、被害者が死亡してしまうことがあります。
また幸い一命を取り留めた場合であっても、遷延性意識障害を負ってしまう、つまり植物状態になってしまうこともあります。

誤解されやすいところですが、遷延性意識障害は脳死とは違います。
脳死は、全ての脳の機能が停止してしまった状態です。そのため、自発的な呼吸がない、心臓が動かない、瞳孔が開いてしまうといった状態が続き、回復の見込みもありません。

一方で遷延性意識障害の場合、生命を維持する機能は残っているため、肺や心臓、消化器官などは機能し続けています。
自分の器官で生命を維持できるものの、意識はないという状態になっているのです。

もっと具体的に説明すると、遷延性意識障害の定義は3ヶ月以上にわたって、以下の6項目を満たす状態にあるものとされています。

  • 自力で移動できないこと
  • 自力で摂食できないこと
  • 失禁してしまう状態にあること
  • 意味のある発語ができないこと
  • 簡単な命令(例:「指を動かせ」「目を開けろ」)には反応することがあるが、それ以上の意思疎通ができないこと
  • 眼球が動くものの、物を認識できないこと」

遷延性意識障害からは回復する可能性がある

脳死からは回復することはできませんが、遷延性意識障害の場合は回復して意識が戻ることもあります。
しかし、脳に大きなダメージを負っていることに変わりはないため、必ず回復することのできる治療法というのはまだ存在しません。

遷延性意識障害の治療法は、被害者本人の治癒能力による回復を待つことです。
その間、周囲の人は、被害者の身体への悪影響を排除しながら現状維持を続ける傍ら、話しかけたり、手に触れたりすることで五感を刺激し、回復を促すことになります。

ただし、仮に意識が回復したとしても完治は難しいというのが現状です。
意識が戻ったとしても、身体は動かないがなんとか意思表示ができるといった状態や、身体は動くものの記憶障害などが残るといった状態まで戻るに止まることがほとんどでしょう。

遷延性意識障害の後遺障害等級

遷延性意識障害は後遺障害等級表の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」に当たります。
そのため、遷延性意識障害を負った被害者は後遺障害等級1級に認定されることになります。

後遺障害等級1級に認定されると、自賠責保険からは4000万円を限度に保険金が給付されます(左記は慰謝料と逸失利益を合わせた分の限度額です。症状固定までの治療費は別に請求できます。)。

また、自賠責保険の後遺障害等級は任意保険の保険金額にも大きな影響を与えます。
そのため、1級に認定されると任意保険会社からも高額な損害賠償金を受け取ることができます。

損害賠償請求は後見人が行う

遷延性意識障害の場合、被害者本人は意識がないため損害賠償請求ができる状態にはありません。
また、被害者は死亡したわけではないため、「相続人」という立場の人も存在しません。

では、遷延性意識障害になった場合は誰が損害賠償請求を行うのでしょうか。

被害者が未成年者である場合は、すでに存在する親権者または未成年後見人が損害賠償請求を行います。
一方、被害者が成年である場合は、まず成年後見制度を利用して被害者に後見人をつけ、その後にその後見人が損害賠償請求を行うことになります。

後見人とは、「物事を判断する能力が十分でない人の権利を守る援助者」のことです。
後見人は、被後見人(後見人をつけられた本人)の代理人として、原則として全ての法律行為を行うことができます。
交通事故の損害賠償を請求することも法律行為の一つであるため、後見人が本人を代理して行うことができるのです。

成年後見制度を利用する場合は、被害者本人の配偶者、4親等以内の親族等が家庭裁判所に申立てをすることになります。

この申立ての手続に不安のある場合は、弁護士や司法書士などに相談することをおすすめします。

遷延性意識障害だと賠償金額計算の際に余命を制限される?

被害者が遷延性意識障害を負った場合、将来にわたって必要となる介護費用も損害賠償として請求することができます

この介護費用は被害者が生きている限り必要となるものなので、被害者の余命の長さが直接金額に影響します。
余命を長く設定するほど、その分、介護費用として請求できる金額は大きくなるのです。

一般的に、遷延性意識障害を負った方の余命は平均余命に比べかなり短くなり、だいたい3年程度であることが多いと言われています。
そのため、損害賠償金額を低く抑えたい加害者側は、「介護費用の計算には平均余命をそのまま用いるべきではなく、余命を制限して計算すべきだ」と主張してくることが多いのです。

しかし裁判となったケースのほとんどで、裁判所は平均余命を用いて介護費用の損害賠償金額を計算しています。
遷延性意識障害であっても、裁判所が余命を制限して計算することはまずないでしょう。

とはいえ、損害賠償の中でも大きな割合を占める介護費用の金額を左右する話なので、加害者側も統計資料等の証拠を集め、できるだけ説得力のある主張を展開して余命を制限しようとしてきます。
余命が制限されてしまう可能性も0とは言い切れないので、被害者側も弁護士に相談し、入念に準備することが重要です。

当事務所では介護費用や後遺障害を適正に認定してもらう為にどうすればいいのかっといた点を医学的見地から押さえており、その点を後遺障害診断書に反映させることで、適正な後遺障害認定獲得をサポートします。
無料相談も行っておりますので、まずはお気軽にご相談ください。

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