コラム

労災(労働災害)を会社に対して損害賠償請求できる期限について

  • 労働災害(労災)

労災にあった場合に、会社に対して損害賠償できる期間については、一定の制限があります。また、会社に対して損害賠償をするのか、または、休業補償や障害補償を求めるなどの災害補償を求める場合では、その請求可能な期間が異なります。ここでは、労災(労働災害)にあった場合において、会社に請求できる期限について説明します。

損害賠償請求なのか会社に補償を求めるのか

一般的な感覚として、「会社に損害賠償の請求を行う」と考えた場合、その「損害賠償」の意味がよくわからないといったことがあるでしょう。会社が損害賠償責任を負担する場合とは、原則的には、雇用契約上の債務不履行責任(安全配慮義務違反)と、一般不法行為責任(民法709条)を負担する場合です。
他方で休業補償や障害補償などの災害補償は、第一義的には労働基準法上の会社の責任であり、「損害賠償」といった性格のものではありません(労働基準法75条以下)。また、第二義的には、労働者への実際に補償の機会を確保する目的で、労働者災害補償保険法に基づく請求を、国に対して行うことができます(申請場所は、各労働基準監督署です。)。

期限が3年?または10年?

損害賠償ができる期限を、法律上の言い方では「時効期間」または、単に「(消滅)時効」などと呼びます。会社に請求できる期限については、まさしく、この(消滅)時効にかかる問題です。
そこで、前項にて会社に損害賠償の請求ができる場合を、2つ説明しました。一つは、安全配慮義務違反による債務不履行責任(労働安全衛生法3条、労働契約法5条、民法415条)です。もう一つは、会社の不法行為に基づく、一般不法行為責任(民法709条)です。
前者である債務不履行責任の場合には、現行民法167条によれば、10年間行使しない場合に消滅時効にかかります(ただし、2020年4月1日よりは、改正民法が適用となるため、以後発生した事件に関しては、債権者が行使できることを知った時から5年間、会社に請求できるときから10年間の不行使によって時効となります(改正民法166条1項))。
後者である不法行責任の場合には、原則的には3年で時効期間となります。したがって、その場合には、不法行為責任による損害外傷請求を会社に請求することができなくなります。

安全配慮義務違反とは

安全配慮義務とは、労働契約上使用者(会社)が負担する労働者に対して、労働契約に付随して負担する義務です。具体的には、「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」(労働契約法5条)と法律上の義務として規定されています。もともとは、判例法理の積み重ねで導かれた原則であり、使用者(会社)が労働者を労働させるにおいて、「労働者の生命及び身体等を危険から保護するように配慮すべき義務」を指します(川義事件 最高裁判所小法廷判決昭和59年4月10日)。
したがいまして、使用者が労働者を使用するにあたり、必要な安全配慮義務を怠った場合(=労災の発生)に、ある種の契約上の債務不履行として使用者(会社)へ損害賠償請求を行います。

不法行為責任とは

不法行為責任とは、一般不法行為責任とも呼ばれ、民法709条に規定のある原則で、使用者(会社)が故意または過失により、労働者が労働するにあたり傷病を受傷した場合に、その損害を賠償する義務を負担します。
使用者と労働者の関係を基礎付けるものは労働契約であり、すなわち、一般法としては民法の原則に基づくことを意味します。そのため、民法上の過失責任の原則が労働関係にも該当し、「故意又は過失」があった場合に責任を負担します。

安全配慮義務と不法行為責任の請求上の難易度に違いはあるのか

結論を申しますと、(当然、ケースにもより、一般論としてですが)いずれの場合であっても、主張上の難易度に大きな違いはありません。
まず、前提として、賃金の不払いや未払い残業代の請求などのように、労働の対価に関するものの場合、労働者を手厚く保護する必要のあるため、労働者側は一定程度の証明責任の負担が軽減されています。
一般的な意味での証明責任とは、訴訟などにおいて、主張する側にとって、特定の主張すべき事実関係を立証できない場合に負担する不利益を指し、具体的には、不法行為責任を主張する場合、相手方の故意または過失を立証できず、したがって、不法行為が成立しないため、損害賠償請求が認められないといった不利益を被るといった場合などがあります。
安全配慮義務違反を主張する場合には、労働者は会社の安全配慮義務違反を主張立証する必要があります(ケースごとに会社の安産配慮義務の範囲を特定し、これに対する配慮を怠った事実を証明します)。

会社に請求できる時効期間の起算日とは

一般的には、2つの起算日が存在します。
まず一つは、不法行為に基づく損害賠償請求の場合、例えば、工場で勤務中に工作機械に巻き込まれて受傷したといった場合、当該事故日が時効の起算日となります。また、安全配慮義務違反による債務不履行責任を追及する場合にも同様であると考えられます。
もう一つは、事故により後遺障害が残存した場合、症状固定日から起算するといった考え方があります。症状固定日とは、明確な基準があるわけではなく、医学的に「これ以上治療を継続しても改善しない」場合に、その基準となる日を「症状固定」と呼んでいます。
この症状固定するまでは、後遺障害が確定せず、損害が明らかではないなどといった理由から、判例および実務上、症状固定日を時効の起算日として扱いっています。したがいまして、事故日より起算すると3年間を経過するため、時効となる場合であっても、いまだ症状固定していないため、時効とはならないといった場合もあります。

精神疾患などの場合はいつが起算日となるのか

長時間労働や、パワハラなどによって精神疾患となる場合は少なくありませんが、こうした場合であっても場合によっては労災認定されています。
問題はいつの時点が請求可能な時効の起算日となるべきかについては、精神科医師が精神疾患と診断した日を起算日と考える方法や、労働基準監督署が精神疾患を発症したと認定した日を起算日と考える方法があります。
しかしながら、いずれも法的な要素を含むものであり、大変に難しい内容ですので、迷いが生じた場合には、お近くの弁護士に相談する良いでしょう。

労災は会社にゆっくり請求すればよいのか

結論を先に言いますと、ゆっくりはしていられません。

その理由とは、労災で会社の責任を追及するには、会社内部で保管されている資料などを訴訟手続きなどを通じて開示請求する必要がありますが(訴訟提起前は、23条照会;弁護士法23条の2に基づく照会 があります。)、そもそも、会社内部に資料が保管されていないほど古い事件の場合には、必要な資料を揃えることができません。
一般に会社内部の資料保管義務は5年と考えられていることから、仮に時効期間が10年間の債務不履行責任を主張したとしても、資料がなければ奏功しません。
そもそも、時効制度とはこうした当事者間の不都合をなくすために、設けられている側面があり、例えば、改正民法166条においては、原則5年間の不行使により時効消滅すると規定されています(同法1条1号)。

まとめ

会社に労災請求する場合には、迅速に行動する必要が少なくはありません。請求内容が実現できるかどうかは、この初動において、どこまで会社資料などを押さえ、証拠資料を収集できるかどうかによるといっても過言ではありません。自分ではどうして良いかわからない場合には、弁護士にご相談ください。