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相続人になれなくなってしまう行為

被相続人が死亡した場合、法律上はその者の相続人となる地位があるものの、一定の事由によりその地位が否定され、相続人となれなくなってしまうことがあります。例えば、死亡した者(「被相続人」といいます。)が作成した遺言書を故意に隠して、他の相続人に知られないようにしてしまう場合は相続人となる地位を失います。また、生前に被相続人に対して、暴言や虐待などの悪態を尽くした場合などの場合に、相続人となる地位を失う場合があります。以下、どういう場合に、相続人となれなくなってしまう行為に該当するのかご説明いたします。

相続人になれなくなってしまう行為

そもそも相続人とは?

そもそも相続人とは、どういう立場の方のことを指すのでしょうか。父が死亡した場合に、その子や母(父の配偶者)が相続人となることはよく知られているかと思います。 相続人とは、このようにある者が死亡した場合に、その者を相続できる地位にある者をいいます。また、相続人とはその名のとおり、被相続人を「相続する」ことから、原則的には被相続人の財産や負債等の権利義務関係を包括的に承継(引継ぎ)します。

相続人のはずなのに相続できないとはどういうことか?

前述のとおり、相続人とは死亡した者の財産や負債を承継する地位にある者をいいますが、冒頭でも触れたように、一定の場合にはその権利を喪失いたします。 この「一定の場合とは」、法律用語では「相続欠格」に該当するか、「廃除」に該当する場合です。

相続欠格とその効果とは

相続欠格とは、相続人が被相続人を承継することが相応しくない行為をした場合に、その相続人である地位を喪失することをいいます。また、相続権を喪失するほか、遺贈(遺言により被相続人から贈与されること)を受けることができなくなります(民法965、891条参照。つまり受遺者としての地位・権能も喪失します)。 具体的な相続欠格にあたる事由は、相続人が被相続人を死亡させる場合、自分よりも先順位の相続人を死亡させる場合、詐欺・脅迫等により被相続人が行い遺言することを妨げた場合等です。このほかには、冒頭でも説明したとおり、よくある事例として相続人が被相続人の遺言の存在を隠した場合も、相続欠格に該当します。

具体的な「相続欠格」に該当する行為とは

相続欠格に該当するような一定の行為をした場合に、相続権を喪失するといった説明をしましたが、その具体的な内容とはどういったものがあるのでしょうか。 具体的には、民法891条に記載がある事項が該当します。以下、少々難しくなりますが、できる限り簡単に記載します。 相続欠格事由 ①故意に被相続人や相続人を死亡させた場合、死亡させようとした者 ②被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者 ③詐欺・脅迫によって被相続人が行う遺言、遺言内容の撤回し、取り消し、変更することを妨げた者 ④詐欺または脅迫によって、被相続人に遺言を行わせ、遺言内容の撤回し、取り消し、変更することをさせた者 ⑤被相続人の遺言を偽造・変造・破棄・隠匿した者 上記の5つに該当する行為を行った者は、相続欠格に該当し相続権を喪失します。

故意に被相続人や相続人を死亡させた場合、死亡させようとした者

被相続人を死亡させた場合のすべてが、「相続欠格」事由に該当するのでしょうか。結論をいうとそのようにはなりません。 あくまでも「故意に」被相続人を死亡させた場合、相続欠格に該当します。殺す意思をもっていた場合に、相続欠格となります。 また、執行猶予が付された場合は、被相続人を死亡させた場合であっても相続欠格とはなりません。その理由は法律上の規定により、実際に刑罰を受けること(実刑となること)が相続欠格事由の法的な要素として規定されているためです。なお、執行猶予とは執行猶予の期間が無事に経過すると、法律上刑の言渡が効力を喪失することをいいます。 もっとも、殺す意思をもって人を殺した場合に、正当防衛等なんらかの特殊な事情がない限り、執行猶予が付くことはまずありません。

被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者

相続人自身が、故意に被相続人を死亡、または死亡させようとしただけではなく、殺害等されたことを知っていながら警察に告発等を行わなかった場合にも、相続欠格となります。 ただし、上記に該当しても、その相続人が幼子であるなど是非の弁別がないとき、及び殺害者が自分の配偶者または直系の血族であったときには、警察に告発等を行わなかったとしても、相続欠格とはなりません。

詐欺・強迫によって被相続人が行う遺言、遺言内容の撤回、取り消し、変更することを妨げた者

ここまでは、相続人が被相続人の生命にかかわる侵害行為または、侵害行為の事実を警察に通報等行わない場合などが、相続欠格にあたるとして説明をしてきました。 ここからは、そのほか実質的に被相続人の遺言を妨害する等した場合にも、相続欠格にあたるかについてご説明いたします。 まずは、被相続人が遺言するのにあたり、詐欺(被相続人をだます等して遺言をさせる場合)・強迫(被相続人を畏怖させる等して遺言させる場合)により、被相続人が遺言に関する一定の行為を妨げた場合は、相続欠格にあたります。

詐欺または脅迫によって、被相続人に遺言を行わせ、遺言内容の撤回、取り消し、変更することをさせた者

前項では被相続人が行う遺言に関するもの(遺言、遺言内容の撤回、取り消し、変更すること)を妨げる行為が相続欠格にあたると説明しました。 他方で、詐欺・強迫により無理やり被相続人に遺言に関するものをさせる場合であっても、相続欠格にあたります。  被相続人が遺言に関する行為を妨害したり、または、無理やり遺言に関する行為をさせた場合は、殺人の場合と同様に、被相続人の財産を承継することが相当でないことから、相続権が法的に否定されます。

被相続人の遺言を偽造・変造・破棄・隠匿した者

もしかすると、「遺言を偽造・変造・破棄・隠匿した」との言葉を聞いても、「ピン」とくる方は少ないのではないでしょうか。 そこで、具体例を挙げてご説明をいたします。 例えば相続実務にて実際に争いとなるのは、特定の相続人が被相続人の自筆証書遺言を「本人が作成した」などと主張する場合です。このような場合は、被相続人が作成したのではなく、特定の相続人が被相続人が作成したかのように装って、遺言書を作成したのではないかといった点が争点となります。 上記の例において、仮に特定の相続人が、偽って遺言書を偽造したなどといった場合には、相続欠格にあたります。 自筆証書遺言とは、原則として、①遺言者がその全文を自書し、日付及び氏名を自書する、及び②遺言者が証書に押印を行うといった方式で作成された遺言をいいます。ただし、2019年7月1日より不動産の物件の表示など、財産表示の特定のための記載(財産目録)については、ワープロ等で作成したものでも良いことになっております。ただし、自書によらない財産目録を添付する場合には、遺言者は、その財産目録の各頁に署名押印をしなければならないこととされています。 上記の争いの中心は、特定の相続人にとって内容が不利であるから、開封して遺言書の内容を変えたのではないかといった疑いや、遺言内容が不利であるため隠したのではないかなどと主張されます。これらに該当する場合には、相続欠格にあたる可能性があります。

廃除とは

廃除とは、相続欠格のように相続人の資格をはく奪するほどではないけれども、亡くなった方が、「この者には相続させたくはない!」と感じるような、虐待や重大な侮辱その他の著しい非行を行った場合に、家庭裁判所に請求をして、その相続人の相続権を喪失させることをいいます。 虐待や侮辱とは、例えば、被相続人を介護のかたわら虐待したり、あるいは加齢により判断力が後退した被相続人に罵詈雑言を浴びせるなどして、その者を激しく侮辱したりするなどの場合を指します。 その他の著しい非行とは、例えば夫婦の場合に、妻の被相続人への日ごろからの暴力が激しい場合、妻の不貞行為(妻が浮気を繰り返すなど)があったなどの場合を指します。

まとめ

相続人であるけれども、その相続権が否定されるかどうかといった問題は、殺人のなどは別として、実は内容的な難しさを含んでいます。特に、この記事でも触れましたが、遺言書の作成の経緯などは、実際の裁判では激しく争われ、非常に感情的な争いとなります。この記事をお読みになって、ご不明な点や関心などがありましたら、弁護士にご相談ください。